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毎日新聞 2006年6月23日より転載

 

涼風に吹かれながら学ぶ−−−

 
 

高野山夏季大学

 
 

第82回高野山夏季大学特集

 

 第82回高野山夏季大学(毎日新聞社、総本山金剛峯寺主催)は8月4日から3日間にわたり、和歌山県高野町高野山の高野山大師教会本部大講堂で開講する。一昨年、世界遺産に登録された「山上の宗教都市」には、世界各国から訪れる人が絶えず、国際都市の香りすらする。

今回は、自然に愛する俳優や人の起源に迫る研究者、ドイツ・ワールドカップ帰りの元ストライカー、信念の政治家、「心のふるさと」の大切さを説く映画監督、障害者支援に取り組む元気な女性、そして子どもを守りたいと法廷に通う直木賞作家を講師として迎える。森と静寂に包まれた真言密教の聖地で、日本と世界、今とこれからを考える夏へ導いてくれることだろう。講師8人の講演内容とプロフィルを紹介する。

昨年の高野山夏季大学の写真

涼風の吹き抜ける境内で、講演に耳を傾ける参加者=昨年の高野山夏季大学から


柳生 博さんの写真

俳優・日本野鳥の会会長

柳生 博さん

花鳥風月の里山

 39歳の時、山梨・八ヶ岳南麓(なんろく)に居を構えました。役者として忙しくするあまり家族とのかかわりを見失いそうになっていた時期でした。2人の息子の子育てをしながら、家族と一緒に泥だらけになってこれまで約1万本の木を移植し、荒れ果てた人工林を豊かな里山にすることに努力しています。

  雑木林や田んぼ、小川のある風景。誰しもこれを懐かしいと感じる心を持っています。それは日本人の遺伝子と言っても言い過ぎではありません。自然と一体となった暮らしこそ、私たちの生活の原点なのです。

  森と暮らし、森に学ぶ−−八ヶ岳で学んだこと、そして私が応援しているコウノトリのことを話しながら、自然とは、生きるとは何かを一緒に考えましょう。

  略歴 1937年、茨城県出身。61年映画「あれが港の灯だ」で俳優デビュー。NHKの「生きもの地球紀行」などで活躍。財団法人「日本野鳥の会」会長、コウノトリの野生復帰事業を応援する「コウノトリファンクラブ」会長。


釜本 邦茂さんの写真

日本サッカー協会副会長

釜本 邦茂さん

ドイツワールドカップの足跡

 私は1964年、ドイツのスポーツ学校に留学したことがあります。その時、ドイツサッカーの技術はもちろん、組織・環境のレベルの高さに驚く一方で、いつの日か同じステージに立てるようにと自身を奮い立たせたものでした。

  その後30年余り、日本サッカー界の低迷の長い時を経てJリーグが発足し、02年日韓共催ワールドカップでは、自国での開催に日本中が沸き、老若男女を問わずサッカーが受け入れられた年になりました。

  そして今年。私は今、ワールドカップ開催中のドイツにいます。期待を背負い、自国開催とは違ったプレッシャーの中で日本代表がいかに戦ったかを裏話を交えてお話ししたいと思います。

  略歴 1944年、京都府出身。メキシコ五輪では、銅メダル獲得の原動力として得点王にも輝き、「ヤンマー」でも活躍。Jリーグ「ガンバ大阪」初代監督。95年参院議員に初当選。98年から現職、サッカー日本代表団長。


生井 智紹さんの写真

高野山大学長

生井 智紹さん

『不二』ということ
アイデンティティー自覚の論理

 大乗仏教において、仏の智は、「不二の智」と定義されます。多様な存在の根源に不二性を見てとることから、存在の価値があまねく評価されます。仏教の論理は、一なることを、「不二」とむしろ否定的に表現してきました。我利我利の自己を否定することによってこそ顕(あらわ)れる、調和ある本当のいのちの様を、曼陀羅(まんだら)の諸尊の多様なお姿に見てとることができます。

  宗教・民族間の対立、親子間の殺傷などの悲惨なできごとも、多様性の中に自己を喪失したいのちたちの悲鳴に聞こえます。相互依存性(縁起)という自覚のない自己は、関係性から疎外された自らを生かすことはできません。生かすいのちのアイデンティティーを自覚するために、「不二」という東洋の論理から、現代社会を考えてみたいと思います。

  略歴 1947年、茨城県出身。専門は仏教思想、真言密教。著書に「輪廻の論証」など。


竹中 ナミさんの写真

社会福祉法人プロップ・ステーション理事長

竹中 ナミさん

すべての人が誇りを持って
生きられる社会に

 「すべての人が持てる力を発揮し支え合うユニバーサル(共助)社会」の実現をめざしています。少子高齢化が進む日本においては、一人でも多くが社会の支え手として活躍できる状況を創造することが重要です。障害を持つ娘を授かった私は「娘より先に安心して死んで行くため」には、「すべての人の支え合う意思と経済の裏付けが欠かせない」と気付いたことから、活動を始めました。

  障害のある人を「挑戦という使命や課題、あるいはチャンスを与えられた人」とする新しい米語「チャレンジド」という言葉を使っています。「プロップ」では、在宅で介護を受けながらも「働きたい!」と願うチャレンジドがITを駆使して活躍しています。このようなことが「当たり前」になるまで、私の活動をしっかり続けたいと考えます。

  略歴 1948年、兵庫県出身。重度心身障害の長女を授かったことから、独学で障害児医療・福祉・教育を学ぶ。


土井 たか子さんの写真

元衆院議長

土井 たか子さん

『平和憲法』への私の思い

 「戦争の準備をすれば戦争となり、平和の努力をすれば平和がやってくる。平和な中で子どもたちは喜々として遊ぶ」。私の好きな言葉です。

  昨年9月の総選挙で私は落選し、36年間、多くの皆さんに支え続けていただいた議員活動から離れました。選挙が終わると、待ってました、と言わんばかりに自民党は新憲法草案を出してきました。現憲法の「戦争放棄」を破棄する新憲法にしようという内容で、戦前回帰が始まろうとしています。

  暮らしの中に平和憲法を生かすという私の政治信条を放棄するわけにいきません。永田町だけが政治の場ではありません。今は全国を元気に飛び回っています。

  そんな中で「高野山夏季大学」にお招きいただきます。「雲去来すれども山動かず」の高野山の姿と、皆さんとに学んで初心を貫く糧にしたいと思います。

  略歴 1928年、兵庫県出身。69年、旧日本社会党から衆院初当選。86年同党委員長に。93年に女性初の衆院議長。


山田 洋次さんの写真

映画監督

山田 洋次さん

豊かさとはなにか

 戦後と高度成長期を支えた「昭和」の人たちは、豊かな社会を夢見て、がむしゃらに生きてきました。

  その果てに迎えたのが「飽食という名の心が貧しくて不安定な」時代。こんなはずではなかったという後悔の念が、あのころを懐かしむ声が聞こえてきます。

  「男はつらいよ」や「学校」シリーズから、最近の藤沢周平作品の連作まで、そのことについての、つまり豊かさとはなにかについての疑問符を投げかけながら映画を作ってきたつもりです。

  「寅さん」の俳優渥美清さんが96年8月4日に亡くなってちょうど10年。不世出の名優の命日直後にお話しするのも、何かのご縁でしょうか。

  略歴 1931年、大阪府出身。東京大法学部卒後、松竹入社。監督として映画「男はつらいよ」「家族」「幸福の黄色いハンカチ」のほか、最近は「武士の一分」(今年末公開予定)など藤沢周平原作作品を手がける。04年文化功労者。


尾本 恵市さんの写真

東京大名誉教授

尾本 恵市さん

ヒトはなぜユニークか

 人間は他の動物とどこが違うのでしょうか。

  自然人類学は、ヒトとサルの進化上の連続性を証明することには成功しました。しかし、チンパンジーなどのサルや化石人類に重点がおかれ、ヒトの遺伝子、脳、行動などの研究は医生物学や心理学などに任されてきました。また現代人が直面する大問題(人口、環境、平和、人権)について、人類学者はあまり発言してきませんでした。私は、今や現代人を対象とする「ヒト学」という新たな視点が必要だと感じています。

  ここでは、関連科学の最新成果を踏まえて、ヒトの特異性とその進化について述べ、また、ヒトとチンパンジーとはどこまでが同じでどこが違うのかを明らかにしたいと思います。

  略歴 1933年、東京都出身。東京大名誉教授、総合研究大学院大学葉山高等研究センター・上級研究員。専門は自然人類学、人類遺伝学。遺伝子データによりアイヌなどアジアの先住民族集団の起源を解明した。


佐木 隆三さんの写真

作家

佐木 隆三さん

法廷のなかの人生

 30年余り、刑事裁判を傍聴取材して、小説やノンフィクションを書いています。そのため「裁判傍聴業」とも自称し、オウム真理教(アーレフに改称)事件や連続女児誘拐殺害事件などの法廷に、長期間にわたり通いました。

  最近では小学1年の女児が、下校時に相次いで犠牲になり痛ましい限りです。04年11月の奈良事件、05年11月の広島事件の公判を傍聴して、「社会の宝」である子どもたちを守るために、私たちの社会が何をすべきであるかを考えてきました。

  そして同時に、このような凶悪犯に至る道筋に光を当て、なぜゆがんでしまったかについて「学習」する必要も感じます。今回の高野山夏季大学では、奈良と広島の事件を中心に、話を聞いていただきたいと思います。

  略歴 1937年、福岡県出身。サラリーマンから64年に文筆生活に入り、75年「復讐(ふくしゅう)するは我にあり」で直木賞受賞。91年伊藤整文学賞。著書に「死刑囚永山則夫」ほか。


各界から多彩な講師

8月4日から3日間

【会期】8月4日(金)〜6日(日)
【会場】高野山大師教会本部大講堂(和歌山県高野町)
【日程、講師(敬称略)】
◇第1日(8月4日)
12時〜  受け付け、写経会(自由参加)
15時20分 開講式
15時30分 「花鳥風月の里山」俳優・柳生博
16時50分 「ドイツワールドカップの足跡」日本サッカー協会副会長・釜本邦茂
◇第2日(8月5日)
8時   「お授戒」高野山真言宗官長、総本山金剛峯寺座主・資延敏雄
9時    「『不二』ということ−−アイデンティティー自覚の論理」高野山大学長・
      生井智紹
10時20分 「すべての人が誇りを持って生きられる社会に」社会福祉法人プロップ・ステーショ     ン理事長・竹中ナミ
13時   山内見学、写経会(自由参加)
16時   「『平和憲法』への私の思い」元衆院議長・土井たか子
17時20分 「豊かさとはなにか」映画監督・山田洋次
◇第3日(8月6日)
8時 「ヒトはなぜユニークか」東京大名誉教授・尾本恵市
9時20分  「法廷のなかの人生」作家・佐木隆三
10時30分 写経奉納式、閉講式、修了証書授与(正午ごろ終了)
【聴講料】1万3000円
【定員】先着700人
【宿泊】希望者には宿坊をあっせん。2泊5食付きで1万6000円(申込書参照)
【申し込み方法】所定の申込書を送りますので、あて名と必要枚数を明記した返信用封筒を封書で送ってください。申込用紙1枚の場合は80円切手、2枚以上は90円切手を張ってください。送付先=〒530−8251 毎日新聞大阪本社総合事業局、高野山夏季大学係(06・6346・8377)
△申込書はhttp://www.mainichi.co.jp/event/koyasan/からもダウンロードできます。




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