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月刊建設 2006年1月号より転載 |
〈新春座談会〉 |
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ユニバーサル社会を目指して |
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〜ユニバーサルデザインの考え方を踏まえた |
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○鈴木(司会) わが国では急速に高齢・少子化や国際化が進展しているなか、高齢者、障害者、女性、外国人などあらゆる人々の社会活動への参画に対するニーズが拡大しています。また、生活者の視点から見て、暮らしやすい社会づくりや生活の基盤である住まいに対するニーズが多様化してきています。 (注1)「ユニバーサルデザイン」(universal design)
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ユニバーサルデザインの考え方 |
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○鈴木 まず、「ユニバーサルデザインの考え方に基づくバリアフリーのあり方を考える懇談会」(注2)の座長を務められた日本大学の野村教授からユニバーサルデザインの考え方やバリアフリー(注3)との関係についてお聞かせ下さい。 (注2)「ユニバーサルデザインの考え方に基づくバリアフリーのあり方を考える懇談会」 < ユニバーサルデザインとバリアフリー > ○野村 ユニバーサルデザインの定義ですが、ご紹介のあった懇談会の報告書から引用しますと、「年齢、性別、国籍、個人の能力にかかわらず、初めからできるだけ多くの人が利用可能なように、利用者本位の考え方に立ったデザインにすること」となっています。もっと簡単に言うと「いつでも、どこでも、だれでも」と表現されることもあります。バリアフリーとの考え方の違いは人によって随分解釈が違うのですが、私は大きく3つのポイントで説明をします。 < ユニバーサル社会について > ○鈴木 神戸を中心に、まちづくりやユニバーサルデザインの活用を実践されている竹中さんの考えをお聞かせ下さい。 < 4つのバリアの解消 >○野村 日本では、バリアフリーという言葉が使われて約40年経ちますが、バリアフリー自体の考え方は当初とは変わってきて、最近ではユニバーサルデザインという意味で使われていることもあります。一方、ユニバーサルデザインの歴史は短いのですが、バリアフリーの意味で使っている方もおられます。使い方が混同されており、人によって少しずつ考え方が違うと思います。
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ユニバーサルデザインの活用の取り組み事例 |
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○鈴木 わが国でもハートビル法(注4)や交通バリアフリー法(注5)が制定され、一定の施設や範囲においてバリアフリー施策が進められています。この施策の推進は、ユニバーサルデザインの考え方を踏まえた施策展開の中でも重要な施策であると考えます。 (注4)「ハートビル法」(高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律)(平成6年6月29日法律第四十四号) < 自立への支援活動の取り組み >
○竹中 どんな障害のある方にもその方なりの思いがあったり、ポテンシャルが隠れていたりするわけですけれども、どちらかというと不可能な部分、バリアの部分に着目された社会構造になっています。私自身は、逆に、その人の中に眠っている力を社会へ引き出す、そういう活動をしたくなり、プロップ・ステーションを15年前に立ち上げました。 (注6)「自立移動支援プロジェクト」 < 高山市の取り組み(現状と課題)> ○鈴木 福祉観光都市を目指し行政の責任者としてお取り組みの高山市長の土野さんお願いします。
道路の段差の解消は高山駅を中心とした1km圏内をまず整備していますが、今後もどんどん進めていくことにしています。トイレの整備については、最近では、だれもが使いやすいトイレとして、オストメイト(注11)も含めたトイレもつくってきています。現在、民間施設も含め市内全体で約120カ所を整備し、車いすでも使用できます。
もちろん、ハードの面ばかりではなくソフト面のバリアの解消が大変重要です。また、観光地ですから、お客様に対するおもてなしを粗相のないようにしていこうという「もてなしのあり方」などを含めたソフト面でのバリアの解消にも努めています。
バリアのない社会を目指し、現在ではかなり取り組みは進んできていると思いますが、作業を進めているなかで、次から次へと新たな課題が出てきまして、エンドレスの仕事であることを実感しています。 (注10)「高齢化率」
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わが国の水準の変遷と海外との比較 |
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○鈴木 わが国におけるバリアフリー施策やユニバーサル社会の成熟の度合いといいますか、ユニバーサルデザインの活用がどの程度の水準にあるのかをお伺いします。時系列でみた変化や外国と比較してどのように評価されていますか。 ○野村 現状認識についてですが、このテーマに長く取り組んでいる立場で振り返ってみますと、「昔から比べれば雲泥の差」があると思います。
○竹中 先ほども述べましたが、障害の重い方でもITの利用によって、社会とつながることができたり、自分の力を発揮することができるようにするための支援を目的に、活動の当初からコンピューターやソフトウェアの開発技術を持つ方々と一緒に、コンピューターのプロ養成のセミナーをやってきました。意識や制度と同時に、最新の科学技術の活用方策を取り組みのポイントにしてきました。 (注12)「CAP」(Department of
Defense Computer/ElectronicAccommodations Program)
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ユニバーサルデザイン政策大綱について |
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○鈴木 どうも日本ではハードの方が先行して、ソフトの方が遅れていることが、あらゆることに多いと思います。すでにお話もありましたが、ここからはユニバーサル社会の実現を目指していくうえでの課題や配慮すべき事項などについて具体にお伺いします。 まず、法律や制度といった政策面についてご意見を伺います。 < 政策面に関する評価 >○鈴木 平成17年5月に野村先生が座長の「ユニバーサルデザインの考え方に基づくバリアフリーのあり方を考える懇談会」の報告書が出され、さまざまな視点から論議がなされています。そして、平成17年7月に国土交通省で「ユニバーサルデザイン政策大綱」が取りまとめられました。この政策大綱では図−7のとおり、基本的な考え方として5項目、具体的施策として10項目が掲げられており、今後、これらを基本として具体的な施策が進められていくことになります(本誌P.28参照)。この大綱についての評価や感想、具体的な施策に向けての要望などをお聞かせ下さい。 ○竹中 この政策大綱では、「福祉のまちづくり条例」や「バリアフリー条例」などをユニバーサルデザインという形で制度設計をしていくように変えていく内容であり、大変うれしく思っています。
私がここで述べたいことは、すべての先進国の運動を見てわかることですが、それは「自分が社会に対して何らかの負担ができるような社会人になっていく」という運動であることです。現在では、アジアのタイ国でもそういう運動に変わっています。しかし、日本では、まだ、「障害者は気の毒」という意識が「一般の意識」であると同時に、障害を持つ人たち自身も「自分たちは負担ができない」という意識があるところから出発していることを、私は残念に思っています。だれもが意識を変えなければと。 ○鈴木 この政策大綱は、野村先生が座長の懇談会の報告も援用されていると思います。大綱についての評価などをお聞かせ下さい。 < 国全体の政策大綱へ >○野村 この政策大綱は、国土交通省の局長さんが多方面の識者の意見を参考にして、国土交通省として決められたものと理解しています。その意味で、私はこの大綱自体を大変評価します。
< 災害弱者や子どもへの配慮 >○野村 それから、各論でみますと、例えば、災害弱者。「弱者」という言葉は好きではないのですが、災害時の考え方をもう少しわかりやすくして欲しいと思います。都道府県では防災についてのマニュアルづくりが義務づけられています。私どもの数年前の調査では、マニュアルのつくり方が、@高齢者、障害者のことが何もとり入れらていない自治体、A高齢者、障害者のことを別のマニュアルでつくっている自治体、Bマニュアル自体に高齢者、障害者を含め配慮されている場合、のようにさまざまでした。どれがよいかというと、当然、Bで、マニュアル自体に高齢者や障害者の情報が入っていなければユニバーサルではないわけですね。Aのように別につくれば、大きな部分のマニュアルが先で、時間があればその次に高齢者等のマニュアルに取り組むということになりがちなのです。@の高齢者等のことが入っていないものは論外です。マニュアルなどもののつくり方一つをとっても、ユニバーサル化ということを考えてもらわなければ、具体の施策はどうしても後手に回ってしまうことになります。
○山田(※) 災害時におけるマニュアル策定の段階でユニバーサルデザインの考えを取り入れることは当然だと思いますし、国土交通省の政策大綱だけではなく国全体の大綱にしなければいけないとの指摘はとても重要なことと受け止めています。現在のやり方は、それぞれの地域において、ある特定の職員がリーダーシップを発揮し頑張ることによってうまくいくとか、マニュアルをつくる際にも、ユニバーサルデザインに関心の高い職員がいて、さらに、民間の方と共同すると、よりうまく進むという感じがしています。こうしたマニュアルをつくる際に、担当者のなかにはユニバーサルデザインということが頭に浮かばない人もいるかもしれませんし、だれに相談してよいのかわからない場合もあるのが現状ではないでしょうか。ですから、こうした問題に取り組む場合、官も民も人づくりがすごく重要であると思っています。竹中さんのような方がたくさんおられることを願っています。 (注15)「次世代育成支援対策推進法」(平成15年7月16日法律第百二十号) < 心の問題のこと >○鈴木 最初にソフト面が足りないとのご指摘がありました。これからの具体的な施策として取り込まなくてはいけないと理解してよろしいでしょうか。ソフトの面というか心の問題になると施策化することがなかなか難しいですね。 (注16)「ソリダリティー」(solidarity):連携、団結、連帯責任の意。 < 仕組みづくりと人づくり >○野村 内閣府に障害者施策推進協議会があります。メンバーの半数以上が障害者又はその家族の方々ですが、国自体の取り組みの考え方が変わってきているように感じています。それから、政策担当者も各省庁間で交流されており、その意味では、よい方向にあると思います。
○山田 治水資料館を拠点にしています。住民やNPOの方が自由に出入りできるところをつくり、そこでいろいろな議論をし、河川管理者だけの一人よがりでは事業を実施しないという仕組みは、これまで述べられた考え方に通じるものがあります。
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具体の施策を進めるにあたって |
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○鈴木 これまで制度面についてお話いただきました。これからは、現地において具体の施策を進めていくうえでの問題についてお伺いします。先ほどから、障害をお持ちの方、利用者そして住民のニーズは何かを利用者の立場に立って進めていかなければならないといったお話がありました。利用者や住民の参加、当事者としての参加、あるいは参加者の合意形成などで、皆さんはいろいろなご苦労を経験されておられると思います。特に、現地において着実に実施するための具体的な方法、問題点や対応方策などについてお聞かせ下さい。 < サービスの分担 >○竹中 現在、例えば、アメリカ、フランス、イギリス、北欧では、第一のセクターの官、第二のセクターの企業、第三のセクターと言われるNPO、NGOが、それぞれ対等にやるべきことを持っていて、国民、住民はそれぞれのサービスを自主的に選ぶようになっています。そういう世界の動向の中で、日本は、平成7年の阪神・淡路大震災の時に初めて「ボランティア元年」という言葉が生まれ、また、「NPO」も活用されだしたように、住民の自治活動から生まれてきたものはまだまだ少ないですね。どうしても官がやってくれる、あるいは官にやらせる、そして、失敗すれば官が悪いと責める、そういった待ちの姿勢や「お上と下々」という関係がずっと続いてきたわけです。 < 人のネットワーク >
○竹中 阪神・淡路大震災時には、肝心の役所も壊れたり、機能が止まってしまったのです。結局、助け合うのは地域住民同士。その時初めて、日頃から自分たち自身がいかに備えをしていなかったか痛切に感じました。そうしたなかで、障害を持つ人たちが大変な目に遭ったとよくいわれますが、実は、いわゆる障害者といわれる人たちは、常日頃、作業所というチームを持っていたり、日常生活で外出するためのボランティアの仲間がいたりして、結構、ネットワークを持っていたのです。そうした支援者の人たちは情報を持っているので、助け合いがありました。役所の方が、支援者のところへ障害者の所在を尋ねてきたこともありました。 < 個人情報保護法のこと >○竹中 ただ、現在、私たちで困った問題が起きています。それは個人情報保護法(注17)の施行によって、個人情報の収集が難しくなってきたことです。「どこにだれがいて、家のどこに寝ているのか」などといったことはとんでもないという話になってしまいました。ですから、助け合いとか地域の連帯という意味では、ものすごい諸刃の剣になっており、しかも過剰な反応ですね。学校で子どもが怪我をして先生が病院へ連れていき、家族に容態を伝えるために病院側に聞くと、「その子どもの親以外には教えられない」と言われたというのです。この法律を何か勘違いしているようなところも出てきていますが、一方では、相変わらず知り得た情報を悪用する人もいますが…。ここまでくるとその地域の連携をどうすれば深められるかわからなくなってしまいます (注17)「個人情報保護法」(平成15年5月30日法律第五十七号) < まちづくりと住民参加 >○鈴木 住民参加のことなどについてお聞かせ下さい。
< 役割分担や合意形成について >○野村 一つ事例を紹介しましょう。一つはケア付住宅についてです。これは障害のある人にとって住みやすい構造とし、さらに、ケアするスタッフが一緒にいる住宅です。国際障害者年の1981年に、ある自治体が計画をしました。初めは福祉局と住宅局とで障害者団体と話し合いましたが、障害者団体と行政の双方をよく知っている私が中立的な立場で司会進行役をすることになりました。話し合いをとことんやりました。当然、敷地や費用などいろいろな条件があります。建物ができるまでには相当の時間がかかります。
○竹中 Aさん、Bさんということでは介護やリハビリ、医療問題の話はできないですね。 < 情報公開の重要性 >○竹中 それから、情報が少なくて自分のことしかわからない時には、人間はどうしても限られたことしかできないし、そのことばかりが気になってしまいがちです。官と民の関係でもそうですが、やはりこれからは、情報はとにかく公開する。公開した瞬間から責任は情報を見た相手に行くことになりますよね。「ほら、あんたも見たやんか」って言えます。今までの行政の仕組みですと情報公開はなかなか難しかったり怖かったりした部分もあるかもしれませんが、自治意識を高めていく意味では、まず、情報公開をすべきですね。官も民も両方が情報公開することによって初めてよいアイデアが出てくるし、責任を持ち合った関係で付き合うことができる気がします。
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行政職員の役割と期待 |
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○鈴木 地域づくり・まちづくりにおいて、利用者優先の考えにたった住民参加は非常に大切ですが、国や地方自治体も重要な役割を担っています。本会の会員は、主に、住宅・社会資本に係る政策企画の立案から計画・調査・設計、現場第一線における公共施設の整備・管理に当たっています。また、まちづくりや都市計画・地域計画も担当していますので、ユニバーサル社会の実現に向け、何らかの形で係わり合いを持っています。 < 官側の重い役割 >○竹中 これまでも述べてきましたが、「自治」ということが大切です。これまで住民自身のアイデア、意見、行動といったものが重要であると言いながらも、やはり日本では官側の役割が非常に大きいわけですね。住民以上に官の役割は重いと思います。行政の皆さんがユニバーサル社会を目指した新たな考え方や政策に取り組む時にはご苦労もあると思います。しかし、私がお付き合いしてきた方は皆さん熱心で勉強もよくされており、真剣に取り組まれていると思っています。その気持ちをこれからも持ち続けて欲しいと思いますし、理解者が増えることを望んでいます。私たちの側も自分を鍛え、もっと発言、提言ができる住民、国民になっていかなければなりません。双方のそうした努力がこれからは欠かせないと思います。 < 視野を広く持つこと、海外の情報も >○竹中 先ほど諸外国の例をお話しましたが、日本の現状を見てみますと、やはり、日本の常識やしがらみからどうしても視野が狭くなってしまうことがあります。外国では、結構、斬新なアイデアを出してくるのです。先ほどアメリカの事例のところでご紹介しましたが、私は法律のできたプロセス、障害者政策の変遷や実施状況を現地で見てきてはじめて、「日本ではもう少し高等教育のことにも力を入れなければならない」とか、「この部分は根っこの意識から変えていかなければならない」といったことを学びました。 このように、海外の政策や施策、そして、それらの成立プロセスなども参考になります。国内の情報や考え方だけにとらわれずに、ぜひ、そういった諸外国の情報を取り寄せ、「よいとこどり」をする。日本にもよいところが必ずありますから、これらをうまくミックスさせていければよいと思っています。 ユニバーサル社会の実現に向け、私の考え方や想いを述べましたが、読者の皆さんが理解を深めそれぞれの立場で一緒になって取り組んでいく仲間になってもらいたいと思っています。
< 施策の推進に重要なこと >○土野 まちづくりのなかでバリアフリー化を一部やっても、それでは「住みよいまち」にはならないわけですから、これらの施策を継続していかなければならないと思っています。
それから、「政策大綱」のなかでも打ち出されていますが、IT等の新技術の活用に関する研究への積極的な取り組みが必要と思います。現在、高山市でも、障害のある方や高齢者など情報困難者に対する移動の円滑化を図るため、ハード面のごく一部ですが、光や音のIT技術を活用する「ユニバーサルe−ステーション構想」を掲げ、実証実験を平成17年11月から始めました。積雪寒冷地という地域特性にも配慮しています。このような先進技術について、官も民間事業者も互いに研究開発をしながら、よりよい情報を提供してもらうことが、今後の活用普及につながっていくものと思っています。先ほど歩道の段差を例に、車いす使用者と視覚障害者で評価が分かれ、使用の基準が障害の種別によって異なることがあることを述べました。こうした技術基準などは国において研究し積極的に地方自治体を指導してもらえるとよいと思います。
< 行政側が断る三つの理由 >○野村 行政の方には辛口の話になりますが、障害のある人たちが行政に対しバリアフリー対策をお願いした時に、行政側が断る理由として大体三つあります。一つは技術的にできない、2つ目は制度的にできない、3つ目はお金(予算)がなくてできない、です。 ところが、今は技術が相当進んでいますから、技術的にできないということは殆どありません。極端な例ですが、以前に障害者の方々が新宿駅にエレベーターをつくって欲しいと要望した時に、「そこには設置するスペースがない」と言って断ったことがありました。しかし、現在、その場所にはエレカレーターが設置されているのです(笑)。 < 障害に対する正しい理解を〜障害は一つの個性 >○野村 なぜかと言いますと、実は障害者や高齢者の人たちを正しく理解をせず、要するに、障害者というともうそれで違う次元の人だという、これも心の問題になってしまうのですが、そういうところがあります。ところが、障害者の約9割の方が後天性ですから、明日にでもあなたやあなたの子供さんが障害を持つ者になるかもしれません。そういう視点から言いますと、実は違う存在ではなくて同じ次元での存在なのです。ということは、障害者ではなくて障害そのものに対する理解をほとんどの方がしていないのではないでしょうか。障害者サービスにはいろいろな問題がありますが、実はそこから始まっていて、行政の皆さん方には、障害に対する正しい知識をしっかりと持ってもらいたいのです。特別な人間ではない普通の人間だし、何ら変わったことはありません。「障害は一つの個性だ」という言い方もありますから、そのところを皆さんにわかってもらいたいと思います。 < ADLからQOLへ >○野村 それから障害のある方々に対し何らかの政策を実施すると、「それは福祉である」といった考え方をしてしまいます。それは仕方のないことではありますが、その考え方のなかには、「最低限の生活の保障(ADL)(注18)をする」という考えがあります。福祉というのはそういう発想が強いわけですから。しかし、障害を持っている人は、あなた方の子供さん、障害のない人と同じ生活を望んでいます。コンピューターもやりたい、映画も見たいし、デパートにも行きたい。そういう視点にはなかなか立てないのですね。ですから、そのような視点で物事を考えてみることが必要です。「生活の質(QOL)(注19)」を考えていかなければなりません。私は、ものの考え方をADLからQOLに変える、それがない限りは、きちんとしたユニバーサルデザインはなかなか進まないのではないかという考えを持っています。そのことを皆さんに理解してもらいたいと思います。 (注18)「ADL」(Activity of Daily Living):人間の基本的な日常生活動作。 〈出典〉 本座談会は、平成17年11月2日(水)に開催しました。 |
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