読売新聞 2005年6月7日より転載

 

アメリカ視察報告 (下)

 
 

先端機器で仕事サポート
障害者の機会均等推進

 
 

連邦政府で就労体験

 

 アメリカの障害者差別禁止法(ADA)は、雇用や教育の面でも、障害者の受け入れ、機会均等の実現に重要な役割を果たしている。

(安田武晴)


ギリオムさんの写真
テレワークについて視察メンバーに説明するギリオムさん(右)(国防総省で)

*軍事技術を応用

 「アメリカでは、ベンチに座っている選手も、プレーできるよう手伝います」。2001年9月の同時テロの標的になった国防総省の一室。視察メンバーの一人が「日本では女性や障害者、高齢者が二軍扱いされている」と話したところ、ウィリアム・ウィンべーダー次官補は、ほほえみながら、そう切り返した。

 ADAは、障害者の雇用や就労面でも差別を禁止している。戦争で障害を負った職員の多い同省は、連邦政府機関の中でも特に力を入れている。

 同省は1990年、「コンピューター・電子調整プログラム」(CAP)をスタートさせた。音声入力装置、画面の文章を点字に直す装置、点字のキーボード、戦闘機の制御技術を流用した入力装置……。身体障害を持つ職員が能力を発揮できるよう、軍事産業など開発された世界最先端の技術を駆使した様々な電子機器で支援する。

 支援機器を操作して見せてくれたマイケル・ヤングCAP技術評価センターマネジャーは「イラクで負傷した人も支援し、職場復帰しています」と話す。CAPは2000年以降、他の63の連邦政府機関に拡大し、4万人以上が支援を受けたという。

 CAPとの連携で、パソコンを使って自宅でも仕事ができる「テレワーク」も広がっている。電動車いすの国防総省職員のジュディー・ギリオムさんは、「けがで半年間、職場に来なかった時も、仕事には何の支障もなかった」と振り返る。

マイケル・ヤングさんの写真
障害者の仕事を支援する機器を説明するマイケル・ヤングさん(国防総省で)

*学習環境に配慮

 「将来は政治家になりたい」。そう夢を語るジョージ・ワシントン大学1年のジェシー・メイヤーさん(18)は、知能には問題はないが、計算や文章を書くのが苦手な学習障害者だ。

 このため大学に申請し、授業のノートをとったり、リポートを書くのを手伝ったりする支援者を付けてもらっている。試験時間の延長も可能だ。こうした支援もADAで義務づけられている。

 同大学では、約2万3000人の学生のうち700人近くが障害者。学習障害も200人以上いる。

 障害を持つ学生たちには、就職に当たっての配慮もある。その一つが、夏の間、連邦政府機関で仕事を体験するプログラム(WRP)だ。国防総省と労働省の協力で実施されており、昨年は、200大学から1600人が応募、363人が採用された。体験した学生は、履歴書に「WRP参加」と明記でき、その後の就職にも有利になるという。

*必要な人に支援

 日本では、企業や官公庁に一定割合の障害者を雇うよう法律で義務づけており、労働年齢にある障害者の25%、約76万人が働いている。一方、アメリカでは、働く障害者の割合は3割程度で日本と変わらない。

 だが、アメリカには、障害者の雇用率や雇用枠はない。ダイナー・コーエンCAP理事長は「必要な人はだれでもCAPの支援を受けられる」と強調していた。歴史に裏付けられた機会均等の精神があるからなのだろう。視察メンバーの一人で障害者の就労を支援する社会福祉法人プロップ・ステーションの竹中ナミ理事長は「能力があれば障害など関係ないのだろう」と話していた。

 教育はどうか。日本でも障害者を受け入れる大学が増えつつあるが、各大学の自主的取り組みに任されているのが現状だ。

 視察団リーダーの野田聖子衆院議員は「だれもが能力を発揮できる社会に日本も変わる必要がある。ADAをお手本にユニバーサル社会形成推進基本法(仮称)を作りたい」と意欲を見せた。


CAPに関するホームページ(http://cap.tricare.osd.mil/)
ワシントンの地下鉄に関するホームページ(http://www.wmata.com/)




プロップのトップページへ

TOPページへ