読売新聞 2005年1月18日より転載

 

 
 

眠った力 活かす社会に

 
 

ユニバーサル基本法制定目指す

 

 厚生労働省の検討会が昨年末、「痴呆(ちほう)」に代わる新たな用語として、「『認知症』が最適」とする報告書をまとめた。痴呆という言葉は侮べつ的な表現だというのが主な理由だ。これを受けて、行政で使う用語や一般用語の言い換えが始まったが、同様に、変更が必要ではと思う言葉はほかにもある。

 その第一の候補が、「障害者」だ。体が不自由な人、精神疾患にかかっている人、知的発達に遅れがある人を、「障害」という言葉で表現するのは、どうかと思う。

 「障害」という言葉は、もともとは、「障礙」「障碍」と書かれてきた。しかし、「礙」や「碍」の字が当用漢字(今の常用漢字)が採用されなかったために、同音で同じような意味の言葉による書き換えが行われ、「障害」の表記が統一して使われるようになった。

 障害福祉が専門の丸山一郎・埼玉県立大学教授によると、「1949年に身体障害者福祉法が制定される際に、『害』の字を充てて法文を作成。これを機に『障害者』という表記が社会に広まった」という。

 

 「公害」「被害」「妨害」などの例を出すまでもなく、「害」という字には、マイナスイメージが強い。このため、自治体の中には、担当課名を「障碍福祉課」「障がい福祉課」などと書き改めたり、人を呼び表す際に、原則「障がいのある人」と呼び変えたりするところが増えてきた。しかし、「碍」にも、「さまたげ、じゃま」という否定的な意味があることから、根本的な解決にはつながらないという意見も根強い。

 一方、海外に目を転じると、英語では、障害者のことを、「people with disabllity」、「disabled person」などと表記する。「challenged」という言い方もある。この「チャレンジド」は、「神から『挑戦』という課題を与えられた人」という前向きな言葉だ。 日本でも、「チャレンジド」のような、これまでとは全く異なる「害」の字が持つマイナスのイメージを払しょくするにはいいのかもしれない。

 個人的には、何らかの支援が必要な人という意味で、「要支援者」という言葉はどうかと思っているが、支援が必要な当事者からも愛され、しかも新聞でもしっくりなじむ、格好の言葉は何かないものだろうか?

(安田 武晴)

 




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