生産性新聞 2005年1月5日号より転載

 

 
 

使命・課題に積極的に挑戦
ユニバーサル社会めざす

 
 

育て、育てられ

 

 高齢者の増加で、ユニバーサル社会の実現は障害者だけの課題ではなくなりつつある。少子化が同時に進行する中、日本人は競争社会にどのように対応していくのか。障害者の自立と社会参加を目指す社会福祉法人プロップ・ステーションの竹中ナミさんの取り組みと、21世紀構想フォーラム(主催=新しい日本を考える国民会議・全国生産性本部)で「教育を問う」をテーマに講演したノーベル物理学賞の小柴昌俊東京大学名誉教授の見解から、日本人はどう育むべきかを考察する。

セミナー風景の写真
障害者の就労支援に取り組むプロップ・ステーションの活動

 竹中ナミ氏、1948年生まれ−−重症心身障害児の長女を授かったことから、日々療育のかたわら障害児医療・福祉・教育について独学した。現在、チャレンジド(challenged=障害を持つ人たち)の自立と社会参加をめざしている。そのバイタリティー溢れる活動ぶりで仲間から”ナミねぇ”の愛称で慕われている。

 これまで手話通訳、視覚障害者のガイド、重度の身体障害者施設での介助・介護、痴呆症の人のデイケア、障害者自立支援組織事務局長などを経て、91年兵庫県でプロップ・ステーション(略称プロップ)を設立した。98年厚生大臣認可の社会福祉法人格を取得。本部を神戸に置き、理事長に選任された。

 チャレンジドはもともと人権を尊重する米国で生まれた言葉。障害を持つ人のマイナス部分だけに着目するのではなく、”自分が生まれてきた使命や課題に挑戦する人”という意味だ。

 「阪神大震災ですべての人が個人レベルの究極状態に置かれた時に私はこの言葉と出会った。ある人から”障害を持つ人だけでなく、この震災の復興に立ち向かう人もチャレンジドだ”という話を聞いて、現実に向き合う力をもらった。それ以後、プロップではこのチャレンジドという言葉を使っている」(竹中さん)。

 彼女の口癖は「言葉はその国の文化であり、哲学である」。障害をマイナスとしてしかみない日本では障害者という言葉しかなくて当然なのだと言う。

竹中ナミの写真
社会福祉法人
プロップ・ステーション

理事長 
竹中ナミ氏

 「この国ではこれまで”弱い人間”をかばってあげたり、その弱さにお金をあげることを社会保障・福祉と呼んできた。”弱いやんけ、だからなんとかせんかい”に対して、”やってやるか”というのが従来の構図だった」(竹中さん)。

 プロップのスローガンは「チャレンジドを納税者にできる日本」。”ナミねぇ”は、いますべてに行き詰まった日本はチャレンジドや高齢者の力を必要としていると強調する。一人ひとりの人間をきちんと育み、その能力を発揮できる社会をめざす。障害を持つ者=納税者にはなれないと最初から決めつけるのではなく、かつてケネディ大統領が”すべての障害者を納税者にしたい”と述べたように、障害を持つ人たちに真の希望を与える意思を国家として持つことが大事だと力説する。

 国民すべてが意識を変えて前に進んでいく。この挑戦もチャレンジだと熱く語る。障害を持つ人で も働いて少しでも社会を支えたいと願う人は多数いるという。

 「だから”すべての障害者”と言ってはいけない。自ら社会を支える側に回りたいと思っている人たちを応援できる社会でありたい。今後、どうしても支える側に回れない障害を持つ人たちが増えてくる。支えられるうちは自分が支えるという意識の人たちが増えれば、初めてそれがどうしても無理な人たちを守ることができる。それがプロップの出発点になった」(竹中さん)。

 プロップが重度障害者に実施したアンケート結果では、1就業の意欲がある人は8割に上った2そのために役立つツールとしてコンピューターをあげる人が多かった。プロップがIT(情報技術)を活用してチャレンジドの自立と社会参加にこだわるのは、それが理由だ。とくに就労の促進を目標に活動している。

 「全国各地のチャレンジドが家族の介護を受けながら積極的にITを活用して、少しずつ在宅ワークに励んでいる。プロップの役割は、技術習得セミナーを開催することと並行して、企業や行政から彼らの仕事を受注して在宅でできることをコーディネートすることだ」(竹中さん)。

 現在、産官政学民の広範な人たちがそれぞれの立場でプロップのめざす方向を理解して、支援している。竹中さんの運動の進め方は共感してくれる人とは積極的にタッグを組む。独特のネットワークを築き上げてきた。

 「阪神大震災でも今回の新潟県中越地震でも亡くなった方々の6割以上が実は家族介護・家族看護の高齢者だった。チャレンジドはある程度ネットワーク化されていて危機にはそれなりに対応できるが、これらのお年寄りを持つ家庭は点で存在していて、線、ネットワークとしてつながっていない」(竹中さん)。

 これらの解決も今後の日本がめざすユニバーサル社会に大きな目標である。竹中さんは現在、ユニバーサル基本法の創設に向けて支援者である各界オピニオンと協力しながら積極的の動きを展開している。

 




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