神戸新聞 2004年11月29日号より転載

 

 
 

シンポジウム

 
 

ひょうごデジタル新時代

 
 

広めよう深めよう地域情報と文化

 

基調講演

地上デジタル放送開始から1年

鈴木祐司氏の写真
NHK放送文化研究所主任研究員
鈴木祐司氏

デジタル化促進のカギ握る
魅力的放送サービスの提供

 2003年12月、東京、大阪、名古屋の三大都市圏で始まった地上デジタル放送は、開始から1年を迎えようとしています。今年は茨城県、富山県、岐阜県に続き、12月1日にいよいよ兵庫県でもスタート。この時点で全国の約30%、約1810万世帯が地上デジタル電波を受信できるようになります。

 地上デジタル放送の一番の魅力は、何といっても「ハイビジョン」「5.1サラウンド」といった高画質、高音質の番組が楽しめることです。また、標準画質なら同時に3チャンネルの放送(マルチ編成)が可能なこと、地域情報などの「データ放送」が常時提供できること、「双方向性」があるため、視聴者が番組に参加できることも大きな魅力です。また、デジタル電波を使えば自動車テレビや携帯電話など移動する端末にも安定した映像を送れるため、今後の活用法の可能性も広がります。

 もちろん課題もあります。現在、日本全国の約4800万世帯で約1億台のテレビが使用されていますが、アナログ放送を停止する2011年までに、このすべてをデジタルテレビに置き換えなくてはいけません。現状でデジタル化できているのは全体のわずか1.5%に過ぎません。今後普及を進めるためには、視聴者にとって魅力的な放送サービスが提供できるかどうかがカギになるでしょう。

 第二は、全国津々浦々に電波を届ける体制が確立できるかどうかという問題です。特に地方の山間部や島など、小さな中継局がカバーしているエリアはデジタル化が遅れると見られています。デジタル放送の夢の部分を実現するためには、この2つの課題をクリアすることが重要なポイントになるのです。


シンポジウム

ひょうごデジタル新時代

広めよう深めよう地域情報と文化


<パネリスト >  
兵庫県知事  井戸敏三氏
上智大学助教授 音好弘氏
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長 竹中ナミ氏
NHK神戸放送局長 原口洋一氏
サンテレビジョン代表取締役社長 清水信一氏
<コーディネーター>  
NHK放送文化研究所主任研究員 鈴木祐司氏
パネリストの写真
清水信一氏 原口洋一氏 竹中ナミ氏 音好弘氏 井戸敏三氏

 12月1日の地上デジタル放送開始に先駆け、11月1日、兵庫県民会館で記念シンポジウム「ひょうごデジタル新時代」(ひょうごデジタル新時代実行委員会主催)が開催された。NHK放送文化研究所主任研究員の鈴木祐司氏の基調講演に続いて、パネルディスカッションが行われ、地上デジタル放送の魅力と今後の課題について活発な議論が交わされた。

地域データ放送を 井戸
全体から「個々」へ
パソコンに大接近 竹中
利点を安否情報に 原口
災害即データ放送 清水
提供画面の写真
データ放送による安否情報の提供画面

鈴木 地上デジタル放送にどんな期待を持っていますか。

井戸 行政情報を県民に理解していただく上で、特に「地域データ放送」に期待しています。災害時の情報伝達にも有効と考えています。

竹中 簡単にいうと「テレビがパソコンに近づく」ということ。私はITを活用した障害者の社会参画に取り組んでいますが、地上デジタル放送で可能性は広がると思います。

 これまでテレビ放送は、一度に多くの人に同じ情報を提供するものでした。デジタル放送で地域に密着した放送サービスが広がると、地域社会も大きく変わるのでは。

清水 サンテレビでは、デジタル放送を活用して、行政・防災情報の充実や視聴者の参加、地域経済の活性化をめざしたいと考えています。

原口 NHK神戸放送局も「高画質」「高機能」「双方向」などデジタルの特性を生かした放送に取り組みます。特に災害時の非難情報や休日・夜間の診療所案内「安全・安心情報」には力を入れていきます。

鈴木 今年は台風上陸が相次ぎ、兵庫県にも大きな被害が出ました。また先日の新潟県中越地震では、いまだ多くの方が避難生活を続けています。このような災害をどう伝えるかー。阪神・淡路大震災を経験した地域として、災害放送についてはいかがでしょうか。

清水 阪神・淡路大震災が発生した当初、サンテレビでは被害報道に全力を挙げていました。しかし自らも被災者であったため、被害報道は力のある他局に任せ、本当に被災地に必要な生活情報を徹底して伝える方針に切り替えました。現在ではこの経験を生かし、災害情報が入ると直ちに通常放送を停止してデータ放送に切り替えるシステムを開発しています。

井戸 県では震災後、防災情報システム「フェニックス防災システム」を構築しました。ここに、双方向性のあるデジタル放送をぜひ生かしたいと考えています。また、大災害時には停電でテレビが見られなかったり、携帯電話が使えなくなったりしますが、デジタル電波を利用すれば携帯端末に一斉に情報配信することも可能です。今後はテレビつき携帯電話も災害時の重要な情報ツールになっていくと思います。

原口 新潟県中越地震では、NHKでデジタルの特性を生かした安否情報を流しました。これは、いずれ携帯電話からもアクセス可能になります。

竹中 プロップ・ステーションでは震災時、パソコン通信のネットワークを利用して被災者に情報を提供する「情報ボランティア」に取り組みました。ITは人助けの有効な手段ですが、何かを伝えたいという思いと、伝えるべき情報がなければ何の役にも立ちません。システムがあるだけではダメですよね。

 兵庫県のメディアには、震災の経験という大きな財産があります。メディアと行政、住民がコラボレートして、この財産をどう未来につなげるか。それが今、問われていると思います。

鈴木 地上デジタル放送には課題もあります。何より、2011年のアナログ停波までに4800万世帯で使われている1億台のテレビをすべてデジタル化しなければなりません。そのためにはサービスの魅力を高めることが重要だと思いますが。


サン基幹局をデジタル化 清水
情報サービスきめ細かく 原口
ぜひ視聴者からの発信も 竹中
地域デザイン住民と共に
設備費はみんなで分担を 井戸
放送例の写真
災害時の携帯電話など移動体端末向けの放送の一例

竹中 視聴者にとっては、やはりコンテンツが一番重要です。でも、私たち視聴者もただ待っているだけではいけません。自分から何かを発信し、地上デジタル放送を視聴者としてうまく利用したいですね。
原口 魅力を高めるためには、やはり地域放送の充実、災害情報や地域情報のきめ細かい伝達が不可欠だと思います。

 2011年までに100%普及させることは簡単ではありません。しかし、大量生産が進めば受信機の価格は下がりますし、ここ1〜2年でテレビのデジタル化は急速に進みました。今後は視聴者が利用しやすいサービスのあり方を模索することが重要です。

鈴木 全国津々浦々にデジタル電波を届けることも大きな課題です。

清水 サンテレビには98の中継所があります。このうち、2011年までに基幹局をデジタル化し、人口の約90%をカバーする見通しです。しかし、ミニサテライト局のすべてをデジタル化するのは費用面でも困難です。全中継局のデジタル化にこだわらず、CATVなどを活用する方法も考える必要があります。

原口 NHKには県下に180の中継局があります。100%デジタル化をめざしていますが、それには膨大な費用がかかるのも事実です。情報ハイウェイの有効活用も含め、ケーブルを使ったシステムにも期待しています。

井戸 CATVは有効な手段ですが、設備投資がかなりかかりますね。もちろん、地域の情報格差をなくすことは基本的な方向性ですが、ミニサテライト局をデジタル化するにせよ、CATVで対応するにせよ、費用は国、県、市町、住民のそれぞれが、少しずつでも負担し合う必要があるのではないでしょうか。

 情報化の進め方は、地域デザインに大きく関わる問題です。地上デジタル放送が地域の情報インフラだとすれば「その情報インフラを使ってどうするか」という視点が欠かせないわけです。単に行政や放送局だけで背負うのではなく、住民とともに考えていく問題です。

竹中 視聴者の側にも、放送局と行政だけには任せず、みんなの目標として普及させていく意識が必要だと思います。

 デジタル化という変革は、地域の多様性を生かす方法に進んでいると思います。全国を一律に変革するのではなく、国、地方行政、放送事業者、メディア、住民がみんなで協力して地域デザインについて考え、作り上げていくことでそれが実現するのではないでしょうか。




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