読売新聞 2004年10月16日より転載

 

 

 
 

まちの風 四季の色 小椋知子便り

 
  ■神が与えた「チャレンジド」  
 
障害は挑戦への始まり
 
 

 

 

 「知子さん、新聞の一面に連載なんてすごいやん」
 神戸市にある社会福祉法人「プロップ・ステーション」の理事長、竹中ナミさん(56)が、久々の再会を笑顔で迎えてくれた。プロップは、情報技術(IT)を活用することによって、障害者の可能性を引き出し、自立と就労促進を目指す活動を続けている団体だ。

 ここでは「障害のある人」のことを「チャレンジド」と呼んでいる。
 「チャレンジド」とは、米国で定着した言葉。挑戦する使命やチャンスを”神から与えられた人”という意味があるそうだ。障害者というと、マイナスイメージが強調されがちだが、周囲の人や社会に何かを伝えるため、「神様から贈られた存在」だと、前向きにとらえている点に新鮮さを感じた。

 「ナミ姉(ねえ)」こと、竹中ナミさん自身も、重度心身障害のある娘を持つ”母ちゃんチャレンジド”だ。活動に、講演にと、全国を飛び回る多忙な日々を送っている。「最近の若い障害児の親は昔と違う。自分の子どもを隠そうとしないし、情報共有のため、すぐインターネットのサイトも作るよ」。親も、障害のある子を授かったことをきっかけに、さまざまな挑戦を始めるようになったのだ。

 私は7年前に聴力を失った。電話を使うことができなくなると、仕事の依頼は途絶えた。就職先も無かった。

 障害者団体の紹介でパートで勤めた職場は、ある日突然、理不尽な理由で解雇された。そこでは生まれて初めて「差別」も体験した。そうした悔しさをバネに、あきらめていたライターへの復帰を模索し始めた。

 耳が聞こえない現実。復帰への道は険しかった。収入は少なく、不安定な生活を余儀なくされた。「あなたの仕事にかかわることでは、通訳できない」と、手話通訳者に取材への同行を断られたこともある。次々と起こる問題に何度もくじけそうになった。障害とは、体のハンデを意味するだけではなく、「社会や人の心の壁こそが、障害なのだ」と、当事者になって初めて実感した。

 プロップスタッフの山岡由香理さん(21)とは取材を通じて知り合った。先日、訪れると、大手通信販売会社のカタログを作っていた。

 最初に出会ったころ、山岡さんは19歳だった。「もっと技術を身につけ、在宅で仕事がしたい。自分の力で働いて、納税者になりたい」と熱っぽく語ってくれた。「『同情するなら仕事をくれ』だよね」と笑い合ったことを鮮明に覚えている。今では、再会した時の成長を、互いに楽しみにしている。

 世間から「かわいそうな人」と同情を受けたり、福祉施策で保護されるだけでは、プライドを壊されてしまう。

 「働く意欲を持つ人を眠らせるのはもったいない」。多くの人がこの点に気づき、一緒に挑戦する社会になってほしい。

山岡由香理さんの写真
パソコンを使ってデザインの仕事をする山岡由香理さん
竹中ナミの写真
チャレンジドの就労促進を目指して全国を飛び回る竹中ナミさん(右)

 




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