公明新聞 2004年8月16日より転載

 

 
 

解説のページ

 
 

だれもが安心して街に出られる

 
 
「自律的移動支援プロジェクト」が始動
 
 

 

 政府は、IT(情報技術)を活用して、街のどこからでも、いつでも、だれでも、現在地や目的地への移動経路などの情報を得られる「自律的移動支援プロジェクト」を進めている。障害を持つ人も、高齢者も、だれもが安心して街を歩けるようにする事業で、すべての人が参画できる「ユニバーサル社会」をめざす。2005年度まで神戸市内で実証実験を行い、06年度から全国展開する方針だ。


道路や掲示板にICタグ埋め込み
携帯端末を通して位置情報など提供

街全体が "ホームページ" に
どこでも、いつでもアクセス

携帯端末に表指示された情報の写真
エスカレーターの近くに行くと、携帯端末に上の階の情報などが表示される
携帯端末に表示された情報の写真 点字ブロックのICタグから情報を感知し、目的地への経路などを音声で聞きながら歩くことができる

 「自律的移動支援プロジェクト」は、視覚や聴覚の障害を持つ人も、車イスを利用する人も、すべての人が安心して外出し、街を移動できるように支援する事業だ。

 道路、歩道、電柱、掲示板など、街のあらゆる場所に通信機能を持ったICタグを埋め込み、街のどこからでも、自分がどこにいるのか、目的地へはどう行けばいいのか、などの情報を携帯端末を使って得られるようにする。

 ICタグには位置情報が書き込まれ、それを感知した携帯端末にサーバーから情報が送信させる仕組みで、その場所に行くだけで、携帯端末に「ここは○○町○○丁目○○番地」「右に○○メートル行けば市役所です」といった情報が音声や画像で入ってくる。

 いわば、”街全体がホームページ”という状態にして、あらゆる場所から情報を受け取れるようにする。人工衛星による全地球即位システム(GPS)よりも、きめ細かい情報を提供でき、工夫次第で使用方法は大きく広がる。

 例えば、障害を持つ人にとっては、車イス用トイレやエレベーターの位置が外出先で分かり、事前にバリアフリールートを調べる手間がはぶける。視覚障害を持つ人はICタグが埋め込まれた点字ブロックに沿って歩けば目的地に正確に到着できる。携帯端末は白杖の先や車イスにつけたセンサーとつないで使うこともできる。

住所表示板の近くに行くと周辺の地図などの情報が得られる 携帯端末に表示された情報の写真

 道路工事の現場では、交通規制やう回路の情報がリアルタイムで得られ、電車が不通になった際には復旧情報、乗り換え情報が分かる。レストランや店舗の入り口にICタグをつければ、メニューや商品の情報を提供することも。携帯端末を外国語に対応できるようにすれば、海外からの観光客のガイドの役割も果たす。

 実証実験では「ユビキタス・コミュニケーター」と呼ばれる携帯端末が使われているが、実用段階では、同様の機能を搭載した携帯電話が使われることが想定されている。

 システムは「自律的移動支援プロジェクト推進委員会」(委員長=坂村健・東京大学大学院教授)が開発中で、障害を持つ人やユーザーの意見を聞きながら、使いやすいシステムの構築をめざしている。

 政府は道路や住所表示板へのICタグ設置などを率先して行い、その上で民間が自由に参加できるようにする。既に携帯端末のメーカーなどが開発への参加を表明している。


「ユニバーサル社会」の形成を促進
 公明党は先の参院選向けの「マニフェスト123」(政策綱領)で、だれもが持てる力を発揮しながら、誇りを持って自立できる「ユニバーサル社会」の形成を掲げた。

 障害を持つ人たちは、街や職場のバリアフリー化が進めば、健常者と対等に社会参加できる。高齢者の多くは、引退後も能力に応じて働き続けることを望んでいる。こうした思いを実現するのが「ユニバーサル社会」だ。

 「自律的移動支援プロジェクト」は、「ユニバーサル社会」を形成する施策の一つだ。現在、交通バリアフリー法やハートビル法により、交通機関や公共機関のバリアフリー化が進められている。同プロジェクトは情報提供の面から街のバリアフリー化を大きく前進させることから、公明党は同プロジェクトを積極的に推進している。
 

坂村健・東京大学大学院教授にインタビュー

すべての人に役立つ技術をめざして

坂村教授の写真
−−プロジェクトに取り組んだきっかけは?

坂村教授 20年ほど前から、「トロン」という新しいコンピューターを独自につくるプロジェクトに取り組んでいる。

 その中のコンセプトの一つが「どこでもコンピューター」だ。コンピューターが小さくなり、あらゆるモノや場所にコンピューターが備えられ、あらゆる人がコンピューターを持つ時代を想定している。

 「どこでもコンピューター」の時代では、いつでも、どこでも、だれもが使えなければいけない。単に普及させるだけでは仕方ない。

 例えば、コンピューターがディスプレーに文字を表示するだけでは、視覚障害を持つ人は使えない。それではまずい。「イネーブルウェア」とは私の造語だが、個人と状況のミスマッチで不可能になってしまっていることを可能にするという意味で、障害を持つ人たちを含め、多様な人が多様な状況でコンピューターをどういう場合に使えて、どういう場合に使えないのかを研究してきた。最近の言葉で言うと、「コンピューターのユニバーサルデザイン化」というところだ。

 政府のプロジェクトでは、障害を持つ人だけでなく、だれもが自由に移動できるようにバックアップする。これは、私が考えてきたことと同じだ。

−−どのような可能性が開けるのか?

坂村 障害を持つ人以外には役に立たないのかといえばそうではない。健常者にとっても、初めて行った場所で分からないことがあっても、いろいろな情報が得られる。だれにでも役立ち、あらゆる人を助けられる。

 そして、国が先導して基盤をつくり、そのテクノロジーをオープンにすることが重要だ。政府が国道につけた装置と同じものを、民間がレストランなどにつければ、その店の情報発信できるようになる。皆の役に立つ技術として使えるようにしたい。

−−このシステムは世界にも広がりますね。

坂村 日本が世界に果たしていく役割は重要だ。特に日本のテクノロジーは進んでいる。世界に先駆けて、先進的な技術を完成させ、そのノウハウ、知見を世界に発信していきたい。

−−課題は?

坂村 オープンな技術基準を早くつくることだ。北海道から沖縄では基準が違うというのでは困る。そうした矛盾がなく、メーカーが競争してつくっていけるような技術基準を確立することが課題だ。

 来年、神戸市内で行う実証実験が重要だ。頭の中で考えるだけではだめで、実際にやってみてフィードバックをかけることが大事になる。出てきた問題点を解決しながら最新のシステムを日本から世界に発信したい。

−−人間のための技術ですね。

坂村 そうです。人を中心に考える。技術があるからやるのではない。あらゆる人が、いかにすれば自律的に自由に移動できるのか。それが最新テクノロジーで実現できる。そういう技術と人の出合いにより、プロジェクトができあがっていくことが重要だ。



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