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スカイ 2004年7月号より転載

 

 
 
ナミねぇと考える
チャレンジド就労支援!
 
 

〜『ユニバーサル社会を目指して』
シンポジウムレポート〜

 
 

 

ナミねぇと考えるチャレンジド就労支援『ユニバーサル社会を目指して』シンポジウムレポート
パネラー集合写真

性、年齢、障害の有無に関わりなく、すべての人が個性と能力を発揮できるユニバーサル社会を実現するため、市民レベルの理解促進を図ろうと『ユニバーサル社会を目指して』(ユニバーサル社会実現を目指す有志の会主催)と題したシンポジウムが6月18日、グランシップで開催された。梅雨の晴れ間の暑い日差しの中300人を超える市民が参加する大イベントとなった。シンポジウムでは、重症心身障害のお子さんを持ち、さらにチャレンジド(障害を持つ人達)の自立と社会参加をサポートする社会福祉法人プロップステーション理事長である竹中ナミさん(通称:ナミねぇ)がご自分の体験を交え、今後の福祉の在り方について講演。このほか、ナミさんをナビゲート役に、衆議院議員の野田聖子さん、障害者を採用する企業の代表としてNTTネオメイトグループから中川守さん、そして、本誌発行人である勝亦威光などを迎えたパネルトークが行われ、様々な立場からユニバーサル社会実現に向けての意見や課題が述べられた。

challenged(チャレンジド)というのは「障害を持つ人」を表す新しい米語「the challenged」を語源とし、障害をマイナスとのみ捉えるのでなく、障害を持つゆえに体験する様々な事象を自分自身のため、あるいは社会のためポジティブに生かして行こう、という想いを込め、プロップが提唱している呼称です。(社会福祉法人プロップステーションHPからの引用)

竹中ナミの写真

設備だけでなく、意識や制度の面でもバリアフリーになってはじめてユニバーサル社会が実現する。

竹中ナミさん基調講演


竹中ナミの写真
竹中ナミ
nami takenaka
重症心身障害の長女を授かったことから、障害児医療・福祉・教育について独学し、challenged(障害を持つ人達)の自立と社会参加を目指して、幅広く活動。社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。現在、神戸学院大学客員教授。

約30年前、自分の娘が色んな障害を持って授かったゆえに、ありとあらゆる障害を持つ方とお付き合いしてきました。それは、決して私がその人たちのために何かしてあげようということで付き合ったのではなくて、その人達から「吸収できるものは全部吸収したろ。学べること全部学んだろ。」と、そして、それを自分の娘が少しでも生きていけるために役だったらいいなぁと思って障害者の方達と付き合ってきたんです。で、障害者の方々とお付き合いしてびっくりしました。

”障害者”って世の中では一くくりでいうんですね。”障害者”がいて”健常者”がいる。あたかも違う種類の人のように言っていたにも関わらず、私がお付き合いした色んな障害をもつ人は、十人いたら十人性格が違う、考えていることも違う、夢も違う。自分の娘のように家族や社会が丸抱えで守ってあげなければいけない重症の人は世間が”障害者”って呼んでる中のごく一部で、それ以外の人達は色んな思いや色んな個性や色んなできることや可能性を持っていらっしゃるということを知ったんです。

ですけれども、”障害者”というと、何か一色のように見て、そのできない所を数えて、そこに何か手を差しのべあげたり、予算を入れてあげたりすることが福祉だったり社会保障だったりっていう日本のシステムの中では結局その人たちの可能性の部分には蓋をしてしまっているんだってことに気が付きました。人はできないところだけを数えていけない。

その人の必ずあるできるところや、やりたいと思っているところを世の中にひっぱりだす、そういうことをこれから、福祉と呼んで欲しいなあと思います。その人の可能性に蓋をしている福祉なんてもったいない。障害があるからといってその人のできないところを数えて、そこが「気の毒だね」とか「大変だね」っていって手をさしのべる、これは親切とか同情とか大切なことで失ってはいけないものですが、福祉の形がそれだけしかない時には残念ながら人が自分の力を発揮することができない。チャンスがない。

建物の段差をなくすように、そこで学んだり、先生になれないしくみがあったらそのしくみも、そして、この人が先生になっても当たり前だよねっていうような意識の方も両方とも一緒にバリアフリーにしてはじめてユニバーサルなんです。このことは、自分の娘を育てたくて、自分の娘を通じて出会ったたくさんの障害をもつ人達から教わりました。

 


 

挑戦することさえ

許されない人がいる今の社会

どう思いますか?

 

パネルトーク

各パネラーの意見を一部ご紹介いたします。

野田聖子氏の写真
野田聖子
seiko noda
衆議院厚生労働委員会理事・党政調副会長・与党「ユニバーサル社会の形成促進プロジェクトチーム」座長・骨髄バンクを支援する若手国会議員の会会長・和装振興議。

ユニバーサル社会促進のための法律を作るプロジェクトチームを立ち上げました。与党プロジェクトチームとして来年には基本的な法律を出したいなと取り組んでいます。その目的というのはやはり、もはや日本は開発途上国ではなく、先進国、成熟国家として、人の動き方も変わっていかなければならないということがベースにあります。単一の労働力から多様な労働力、人材、知恵が求められています。昭和の時代は開発途上国だったから単一の労働力だけあれば充分でした。でも、これからの時代は多様な人材を投入することによって国を豊かにしていかなければならない。昭和の時代は、働き手として男性、健常者、15〜55歳位までの人達が社会を構成していました。しかし、これからは、その時に保護されたり、阻止されていて力を使うことができなかった障害者、女性、老人…外国人も入るかもしれませんが、そういう人達が多様性の一員として活躍していくことが求められます。そして、そうするために必要な装置を社会に作っていくための基本ルールを考えることがユニバーサル社会の原点として、今、取り組んでいることです。

 
中川守氏の写真
中川守
nakagawa mamoru
平成3年にNTT三重支社福祉社長、平成6年にNTTアクセス網研究所を経て現職NTTネオメイトITビジネス本部ソリューションビジネス部長に至る。

NTTネオメイトグループでは、電子地図の製造、メンテナンスということをテレワークを活用して実施しています。電子地図づくりというのは非常に多くの人手がかかります。従来8つの工場で分散してやっていたものを統合して1つの工場にしようとしたのですが、200数十名の人を1つの場所に集めるのは大変なことなので、半分くらいをNTTのネットワークだとか技術を使ってテレワークでできないかとチャレンジしてきました。そして、熊本をセンターとして、100人の方々にテレワークで地図のメンテナンス作業をして頂いています。テレワークの半分くらいはチャレンジドの方や母子家庭の方々に参画して頂いています。センターと在宅勤務の方の間にテレビ会議システムなどを取り入れ、センターの指導者と在宅の方がお互いの顔を見ながら話をしたり、同じ画面を触りながら教えてもらったりそういったことができるようにしました。在宅のチャレンジドの方からは、自分の体調に合わせて仕事ができるだとか、会社にいるよりも先生に気軽に質問ができる等のメリットがあるということで非常に良いやり方だと評価は頂いています。

 
勝亦威光氏の写真
勝亦威光
iko katsumata
17歳時バイク事故により脊髄損傷。自らの経験を元に、チャレンジドの就労支援・障害者雇用コンサル・福祉ビジネスコンサルを手掛けるNPO法人設立。

訪問美容室をするようになって、障害をもった方も化粧をして、髪の毛を切ってあげると「じゃあ、今日は外に出て遊びに行きたい!」って、すごくみなさん感謝してくれたんですね。ものすごくやってよかったなって、その時、感じました。そのうち色々とそういう関係で、障害をもった方や子育てをしていてなかなか外に出られない女性、高齢者の方々と接点をもつようになって、「仕事をしたい」って方がたくさんいて、「でも、できない。どうしたらできるんだろう」っていうことを皆さん結構悩んでいることを知りました。そういう話を聞いて、それでしたら、NPOをつくって、障害を持った方でも、女性の方でも、高齢者の方でも仕事ができるような環境を作っていきたいなと思い、NPO法人ユニバーサルデザインリサーチプロジェクトを始めました。障害をもった方の就労ということで、なかなか難しい部分もあったんですが、でも、まず感じたのは、障害を持った方も、もっと努力しなければならない。ということをすごく感じたので、単なるPC教室ではなく、就労に直接結び付く技術者を養成することに力を入れています。

 
坂本ゆきこ氏の写真
坂本ゆきこ
yukiko sakamoto
昭和47年労働省入省。障害者雇用対策課長、婦人政策課長、職業能力開発局長を歴任。静岡県副知事在任時子育て支援、ユニバーサルデザインの推進に取り組む。

世の中には色んな方がいます。女性もいますし、障害者もいますし、そういうすべての人が、自分が何をしたいかということを選べること、そのチャンスが与えられるということ、選択の自由があるということがユニバーサル社会なんだと思うんですね。何を選ぶのかというのは本人の自由なんだけれど、選べないとかあるいはやりたいんだけどそういうところに届かないとか、それを社会がサポートできるそれが大事なことだと思っています。障害者が働く時には雇用率制度というのがあって、企業は従業員の1.8%の障害者を雇わなければいけないということになっているんですよね。この対象が身体障害者と知的障害者で、精神障害者は対象から外れていますが、今後、精神障害者も対象にしようという見直しが行われようとしています。その時に問題なのは働き方をもうすこし柔軟にしないとせっかく雇用率の対象にしてもなかなか働けるようにならないということです。企業がもっとITを駆使して、障害者に色々な仕事を考えてもらいたい。また、そういった企業の社会貢献を認めような法律の枠組みを作っていかなければいけないと思っています。

記者/鈴木瑞絵



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