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SOHOドメイン(旧 月刊SOHO) 2004年6月号より転載 |
プロップ・ステーション便り ナミねえの道 | ||
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第23回――ナミねぇの著書 『プロップ・ステーションの挑戦』を翻訳 「LET'S BE PROUD!」 |
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重複障害を乗り越えた
プロフェッショナルの前進 |
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視覚障害者で点字が読める人の割合は、厳密に言うとわずか1割だという。それだけに音声ガイド機能があるコンピュータの普及は、就労のための武器として期待されている。プロップ・ステーションの翻訳者養成講座に学び、社会の第一線で活躍する武者圭さんのITへの取り組みは、後に続くチャレンジドの希望の光だ。 UDコンサルティングも開始 武者圭さんは、視覚障害と軽度の慢性呼吸不全といった内部障害などの重複障害がある。公立の小学校から盲学校の中高等部を経て、国立音楽大学・大学院では「サウンドスケープ」を研究。その成果を論文などにまとめるため、文章を書く手段としてパソコンを独学で学んだ。一方、音楽学に必要な外国語の文献や資料を読むために英語はもとよりドイツ語、フランス語、イタリア語を履修。途中で体力的な限界と遭遇しながらも、持ち前の明るさと前向きな姿勢で難局を乗り越えてきた。 ● ――サウンドスケープとは。 武者●カナダの現代音楽作曲家R.マリー・シェーファーにより、1960年代末に提唱された比較的新しい分野の学問です。たとえば駅周辺の雑踏やBGM、店の呼び込みの声など混沌とした音を、安全かつ効果があるように整理整頓する「音環境デザイン」と言えるでしょう。現地に足を運んで音を分析調査し、PC上で標準MIDI※とWebファイルなどを組み合わせて効果的な音を出し、提案しています。単に、「視覚障害者に認知させるための音なら何でもいい」というわけではなく、一般の人にとって騒音や雑音にならないような誘導音の創作が求められています。 ――音声ソフトについて。
武者●本格的にPCを使い始めたのは大学に入ってからで、今は主に音声ソフトの「PCトーカー」と「ジョーズ」を利用しています。ホームページへのアクセシビリティに関しては、いまだにFlash対応にノンサポートのソフトウェアもあって、時代のニーズには十分応えていないものも少なくありません。 ――プロップとの出会いは。 武者●大学院を卒業して2年ほど体調の悪い時期がありましたが、1997年にたまたまホームページでプロップが翻訳者養成講座を開講することを知り応募しました。メールのやり取りで約1年間テクニカル翻訳を学びましたが、印象深かったのは翻訳者の一人として、ナミねぇの著書『プロップ・ステーションの挑戦』の英訳プロジェクトに参加できたことです(英題『LET'S
BE PROUD!』)。私にとって初めていただいた大きな仕事でした。 サウンドスケープ普及へ邁進 ――その他の活動について。 武者●UNDNJ(Universal Design Network Japan)というユニバーサルデザインに関心があるメンバーが集まって作った任意団体で、事務局で総務を担当しています。ユニバーサルデザインという理念に合致するものは何かという議論や啓蒙活動をしており、現在120名余のメンバーで構成されています。 ――ITの可能性と今後のビジョンについて。 武者●ITのおかげでいろいろなことが可能になってきましたが、まだ視覚障害者はこうだろうという先入観のみで製品を作る例も少なくありません。単にUDを標榜するだけ、あるいはモニタリング不足で製品がユーザーに受け入れられない場合がじつに多いです。企業が、「開発」「顧客管理」「マネジメント」などに全社をあげて本気で取り組まねば結果的に無駄になり、ブライドイメージを下げることになります。私自身は自分のできることをマイペースで、ITや人脈を大事にしつつ、かつ頼りきらないでバランスよくやっていきたいですね。サウンドスケープの普及はもちろんですが、まだまだ福祉における中途半端なガイドライン等を積極的に見直していくために手伝っていきたいと思います。 ● 視覚障害者、とりわけ生来全盲の人にとっては、PC自体のイメージから入る必要があるため習熟することは大変難しい。また、糖尿病による中途失明は年間4000人と言われ、比較的高齢者に多いそうだ。 ※標準MIDI MIDIは「Musical Instruments Digital Interface」の略称で、デジタル音楽機器同士を繋ぐ世界標準インターフェイス。 [プロフィール]
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構成/木戸隆文 撮影/有本真紀・田中康弘 |
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●月刊サイビズ ソーホー・コンピューティングの公式サイト http://www.soho-web.jp/ ●出版社 株式会社サイビズ |
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