京都新聞 2004年1月30日より転載

 

 
 

ベッドの上でHP作成代行

 
 
障害乗り越え
ネットで起業
 
 
西京の川本さん
 
     

仕事通し命を実感
福祉施設で 顧客拡大に意欲     
年商50万円


施設のベッドで起業した川本さん。パソコンでの営業活動に忙しい

(京都市西京区・洛西ふれあいの里療護園)

 雇ってくれる会社がないなら、自分でつくったらええ―。頚椎の損傷で首から下の自由を失い、京都市西京区大枝の身体障害者療護施設「洛西ふれあいの里療護園」で生活している川本浩之さん(42)が、ベッドの上での起業に成功、口にくわえた棒などでパソコンのキーをたたき、ホームページ(HP)の作成代行などを手掛けている。福祉施設をSOHO(小規模作業所)として働くケースは全国的にも珍しい。今春には設立3年を迎える川本さんは「同世代の公務員並みの収入を目指したい」と張り切っている。

 川本さんは、24歳の時にオートバイ事故で、首から下がまひした。病院と家を往復するだけのひびが続いたが、1989年に入所してからリハビリに励み「働きたい」という意欲を持った。肩の筋肉を訓練し、両腕に付けた補装具と、口にくわえた棒でパソコン操作などを身につけた。

 簿記検定3級やワープロ検定4級なども次々と取得し、職を探した。しかし「手の動かない人に仕事はない」などと冷たくあしらわれ、「そんなら自分で」と2001年5月、40歳の誕生日にネットショップ「上育堂」を立ち上げた。

 これまで、京都市内の出版社や東京のNPO法人(特定非営利活動法人)など十数件のHP作成を手がけ、自分のHP上ではTシャツも販売、アクセスは昨年末で一万件を超えている。ただ「商売としてはまだまだ不十分」という。今は年商50万円ほどで、書類整理などに雇っているアシスタントの給料を差し引くと収支は厳しい。定期的に仕事がないのも悩みだ。

 それでも「仕事をしていると、生きている実感がわく」と話す川本さん。一日5、6時間はパソコンに向かい、ネット上で営業活動を続けながら、新しい技術の習得にも力をそそぎ、顧客の拡大を目指している。

 障害者の就業を支援する社会福祉法人「プロップ・ステーション」(神戸市東灘区)の鈴木重昭事務局長は「IT(情報技術)の進展で障害者の就労の可能性が広がりつつあり、川本さんはその良い例だ」と話している。

 上育堂のHPは http://www.wake-do.com