日本経済新聞 2003年10月11日より転載

     
  障害者の自立・就労促す  
 
売れる商品作り伝授
 
 
経済団体など講習
通販と提携しノウハウ
 
 

 


 障害者が作った商品を積極的に市場流通に乗せ、最低限の賃金を保証していこうとする動きが広がり始めた。受注減や価格競争に苦しむ障害者施設に経営戦略立案のコツを伝授、売れる商品を作ろうとする努力を支援する。施設の側にも、福祉の名の下の甘えを捨て、より現実的に障害者の自立・就労を促そうとの意識が高まってきた。

 

太陽川辺作業所の写真
太陽川辺作業所は営業マンも雇って売れる商品作りに取り組む(和歌山県川辺町)


 和歌山県の作業所などで働く障害者の平均月収は数千円と低い。和歌山県社会就労センター協議会(和歌山市)の宮本久美子会長は「障害者が自立できる最低賃金を目指そう」と、障害者施設向け経営セミナーを企画した。県中小企業家同友会(同)も協力。県内の約20施設の理事らを集め、合宿を含む延べ6日間「売れる物を作る」などの勉強会を行っている。

 同友会の赤桐淳一事務局長は「売り場はバザーでいいという甘えを捨て、消費者ニーズをくみ取る発想を持つことが重要」と強調する。県内の作業所でプリントTシャツやパンなどを手掛けているが、デザインや味など工夫の余地は大きい。

 Tシャツを作る太陽川辺作業所(川辺町)の中橋彦也所長も「利益追求でなく、障害者の自立を目的にする施設でも、利用者や保護者が安心できるような運営は必要」と話す。

 先行する社会福祉法人プロップ・ステーション(神戸市)は兵庫県の45作業所の製品を通信販売カタログに載せた。通販会社フェリシモ(同)と提携し、6月に発売したクッキーと織物は完売。次はジュエリーを準備中だ。「通販会社が売り方のノウハウという企業秘密を開示してくれたため、どんな商品にしたらよいかが分かった」と話す竹中ナミ理事長は、「次は他府県で」と親交のある木村良樹・和歌山県知事と近く会談する。

 さらに、プロップはNTT西日本などからデジタル地図製作業務も受託した。障害者約20人が地図データの入力・編集を担当。当面はプロップの事務所に通勤するが、「将来は障害者の在宅勤務につなげたい」 (竹中理事長)という。

 ヤマト運輸の小倉昌男元会長が設立したヤマト福祉財団は7月、障害者らが切り盛りする関西2店目の「スワン・カフェ&ベーカリー ヒューマン」を大阪・心斎橋にオープンした。「売れる商品として焼きたてパンを選んだ。お客様を待たせることもあるが、懸命に働く姿を見て文句を言う人はいない」 (早川徹店長)。従業員18人中10人が障害者だが、基準最低賃金を上回る時給710円を支払つている。