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公明新聞 2003年8月29日より転載

     
  主張  
 
障害者の社会参加を促そう
 
 
安心して長時間使える車イスを
 
 

 

 厚生労働省は17日、IT(情報技術)を活用し障害者に住宅就労の機会を与える、「バーチャル工房」を、2004年度に全国数十カ所で展開する方針を固めた。インターネットを通じて自宅のパソコンでも作業が可能な仕事を提供し、作業所に通えない重度障害者らに就労の道を開くのが目的。障害者の在宅就労支援活動をしている団体との連携で、仕事を確保する体制の整備も検討している。



シーティングに注目

 車イスの利用者にとって、バリアー(障壁)は段差や階段だけではない。車イスそれ自体がバリアーになっている場合がある。

 長時間、車イスに座っていると褥そう(じょくそう、床ずれ)ができ
たり、上半身が変形したり、疲れやすくなる。こうした2次障害を防ぐことはできないのだろうか。

 こうした悩みを解決する「シーティング」という技術が今、注目されている。先日、千葉市内で開かれた障害を持つ人の自立と社会参画をテーマにしたフォーラムでも紹介され、話題になった。

 シーティングとは、利用者の障害の状態や骨格に合わせて車イスを設計する技術だ。クッションや器具を使って正しい姿勢を保つことで、上半身の変形や褥そうを防ぐこともできる。臀部に加わる圧力を分散し、褥そうを防止する反発性の少ないクッションもある。

 欧米では既に普及している技術だが、日本では、まだあまり知られていない。「2次障害はやむをえない」とあきらめている人も多い。

 せっかく就労しても、頑張って働きすぎたために、辱そうになり、離職せざるを得なくなった--。これでは、あまりにも残念だ。障害を持つ人の社会参加が進む中で、シーティング技術の普及は不可欠になっている。

 なぜ、欧米でシーティングが発達しているのか。まず、障害を持つ人に対する考え方が日本とは違う。

 ある人が、交通事故に遭い、車イスを使うようになった時、日本では「これから、どう生きていくの」と聞かれた。しかし、米国では「あなたの目標や夢を変える必要はない。ただ同じ方法ではできない。別の方法でできるように手伝うのがリハビリだ」と励まされ、勇気を得たという。

 ADA(障害を持つ米国人法)がある米国では、障害の有無にかかわらず、だれもが平等に社会参加できるように、職場や公共機関のバリアフリー化などが事業主に義務づけられている。そこには、障害を持つ人が社会に合わせるのではなく、「社会の方が歩み寄る」という理念がある。
また、米国では、思索に必要なコスト(費用)の考え方も違う。障害を持つ人の能力を引き出すためにIT(情報技術)の開発やコーディネートをしている米国防総省では、1人当たり約500ドル弱のコストで、障害を持つ人の約70%が働けるようになると試算している。

 国防総省には「すべての国民が誇りを持って働けるようにすることが国防の第一歩だ」という発想があるという。

移動の道具でなく

 日本でも、障害を持っている人も、だれもが社会参加できる「ユニバーサル社会」をめざすべきだ。そのためにも、褥そうを心配せずに、長時間でも安心して使える車イスの普及は重要だ。

 あえて、コストを計算すれば、褥そうの手術で入院すると、医療費は約100万円かかる。しかし、褥そうを予防する上質のクッションは約5万円。褥そうになってから医療にかかるよりも、ならないように予防に力を入れることが望ましいことは言うまでもない。

 車イスは単なる移動の道具ではない。「社会参加をするための道具」「2次障害の予防」という視点から、シーティング普及への取り組みが期待される。