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連合 2003年7月号より転載

     
 
まっとうに評価されることは、
誇りを維持するうえですごく重要。
それが働くってこと=
 
 

 

人間は働く葦である
われら働く者は、水辺に揺れる葦のように弱いが、考え働くことで、人としての存在を確かなものにしている。(協力・日本労働研究機構「21世紀と職業」に関する懇話会)
写真集『チャレンジド』(撮影/牧田清)より

働く誇り
「働くって、やっぱりお金を稼ぐだけじゃない。
自分のやったことが認められ、
まっとうに評価されることは、
その人の誇りを維持するうえですごく重要。それが働くってこと」
障害のあるなしは関係ない。
「人間っていうのは働くことを抜きにしては考えられないと私は思う」。

著書『ラッキーウーマン』(飛鳥新社)

ギネス級の心臓と口を武器に


 「働きたい」「コンピューターを武器に」。かつて全国の重度あるいは重症といわれる障害者にアンケートを行ったところ、回答者の8割からそんな返事が寄せられた。大半は在宅で家族の介護を受けている人たちだ。もうすごいびっくりで、みんながそう思っているのだったら、勉強ができる場とか仕事につながるチャンスとかを得られるような仕組みをつくれば彼らは絶対優秀な働く人になるし、それで自分たちの誇りをきちっと取り戻すことができるだろうなと思い、コンピューターの活用を支援の柱に、12年間やってきた。

 幸い「鉄の心臓に苔が五重に生えている」といわれているほど、私はどんな人の前にでても恐くない。学歴は中卒、バツイチ、コンピューターもできないけれど、このギネス級の心臓と口を武器に活動をつづけてきた。

 じつは私には、重い脳障害を持つ30歳の娘がいる。言葉も喋られないし、目も光を感じる程度、耳も音が聞こえるが意味はぜんぜんわからない。そういう子どもと接したことがない人からは同情的な見方をされがちだ。だが彼女の存在は私に、さまざまな目線や考え方、発想を与えつづけている。ちっとも「差し障りがあって害がある」存在なんかじゃない。障害を持った人に対するそうした偏見が、重度のチャレンジド(※)が「自分で働いてお金を稼ぎたい」という願いも封じ込めてきたのだと思う。

 いま日本は世界一のスピードで少子高齢化が進んでいる。医療・福祉をはじめとする諸々の制度が変わらなければ、国の財政は破綻してしまうだろう。そうなったとき、私の娘のように施設に入っている人や、人の手を借りなければ生きていけない人はどうなるのだろうか。うんと貧しかった時代、この国には口べらしのための「姥捨て」や「間引き」があった。このままでは安心して死ねない。

 

働くって、お金を稼ぐだけじゃない
竹中ナミ
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長
(たけなか・なみ) チャレンジドが誇りを持って働ける社会をめざして、政官学業へ独自の人的ネットワークを広げつつ支援活動を推進している。今年1月からは、これまで培ったノウハウをもとに、プロとの連携によって「本当に売れるプロフェショナルなモノを」全国の福祉就労施設でつくり、販売するプロジェクトも立ち上げた。


 日本では、障害者が働くことを支援する法律が、法定雇用率の義務化しかない。この制度の欠陥は、主に通勤で、主にフルタイムで働ける人で、しかも正規雇用。いまプロップ・ステーションで働きたいというような人は、ここからほとんど外れてしまう。外れるけれども、働きたいという人たちは、これまで活かされてこなかった。

 日本はセカンドチャンスのない国で、障害を持つとか、リストラされるとか、女性に生まれたとか、なんかいろんな要件が1個加わっただけでチャンスからすごく離れてしまう。常につぎのチャンスがあって、そのチャンスにチャレンジすることができるっていうふうにしないとだめだと思う。そのシステムをつくりたい、日本を変えたいというのが私。

 働くって、お金を稼ぐだけじゃない。プロップに最重度の脳性麻痺で、手がすごく震えるから直線もまん丸もかけなかったのに、コンピューターグラフィックと出合ったお陰で素晴らしいアーティストになった人もいる。彼が初めて自分の作品が売れて、収入がはいったときの感想は「お金って、こんなに公平なもんやったんやな」。それまで彼にとってお金は、障害者だからもらう、障害者だから割り引いてもらう、そういう意味で不公平なものだったのだ。

 自分のやったことが認められ、まっとうに評価されることは、その人の誇りを維持するうえですごく重要。それが働くってこと。もしまっとうに認められなかったら、逆に人は誇りも失ってしまう。あるいは過剰に認められることに慣れてしまうと、ものすごく安直なものになってしまう。だからお金と人間の関係ってすごく恐い。自分自身の生き方もそこにでてくるわけで。人間っていうのは働くことを抜きにしては考えられないと私は思う。(談)

 


※チャレンジド 障害を持っている人を表すアメリカの言葉。「神から挑戦という使命や課題、あるいはチャンスを与えられた人々」という意味が込められている。正式には「ザ・チャレンジド」。