シルバー新報 2003年7月18日より転載

     
  生まれ変われ!福祉就労  
 
プロップ・ステーションのCCP
通販会社が技術指導
作業所の手作り製品
売れる商品全国に
 
 

 

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「チャレンジド(障害者)を納税者に」の合言葉に、ITを活用して障害者の終了支援に取り組んでいる社会福祉法人プロップ・ステーション(神戸市東灘区)が、新たな事業をかいしした。その名も「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト(CCP)。」授産施設や小規模作業所の障害者が作った手作り製品を、通販会社の大手フェリシモ(同市中央区)がプロの技術とノウハウで“売れる商品”に仕立てて全国販売するものだ。法人代表の竹中ナミさんは、「一流企業と力を合わせて、福祉就労の場を本物のビジネスにうまれかわらせたい」と、意欲を見せている。

(吉田乃美)



 小さなうずまき、大きなぐるぐる模様。コンパスで描いたみたいにきっちりしたものもあれば、ちょっと歪んだうずもある。一つとして同じものは無い形やデザインが、かえって楽しい意気分になるし、どのうずまきもすごく美味しそうだ。「ぐるぐるうずまきクッキー」は、フェリシモの新商品として先月完成したばかりの通販カタログに登場した。作ったのは、兵庫県内八箇所の授産施設と小規模作業所の障害者たち。だが、カタログの商品紹介には“障害者”だの“福祉”といった言葉は一切出てこない。

竹中ナミの写真
竹中ナミさん

 「善意で買ってもらうのではなく、お客様が心底ほしくなる商品をつくること。」これがPPCの原点、と竹中さんは胸を張る。プロップ・ステーションは91年の設立以来、インターネット上でパソコン・セミナーの開設やメールによる相談など、IT一筋で障害者の就労支援を続けてきたことで知られている。これまで1000人を超えるセミナー受講者のうち、約100人が在宅就労を実現するなどその実績も着実に築いてきた。

 しかし、その一方で残されていた“課題”もあった。竹中さんいわく、それが「知的障害者の就労支援であり、福祉就労の改革」だったという。

 「ITは障害を持つ人にとって自立して生活していくための有効なツールには違いないけれど、そのチャレンジが身を結ぶのはほとんどが身体障害者の人たち。それに、私みたいにいくらやってもパソコンが苦手な人だって居るわけで(笑)。そういう人たちでも力を発揮できる自立支援モデルを作りたかった」

 知的障害者が社会復帰を目的として訓練をする場所である授産施設や作業所では、食器やかごなどの生活雑貨やクッキーなどの製品を作っている。しかし、その製品が販売されるのは自治体関連の施設などの一角だったり、福祉祭りでのバザーだったりするのが常。しかも、格安な値段だ。利益を上げることが施設運営の目的でないとはいえ、「福祉の看板を掲げ、世の中の流れとあまりに無縁」な商売の構造を変えるためには、顧客を満足させる製品づくりと販路が必要と考えた竹中さんは、数年前からいくつかの通販会社に協力を呼びかけたがいずれも空振り。しかし、フェリシモはその噂を聞いて社長である矢崎和彦さん自らが、「ぜひやりたい」と申し出てきたのである。昨年5月のことだ。その後、件と神戸市もこの理念に共感し、新しい福祉就労モデルとして積極的にPRしていく姿勢を表明。産・官・民にまたがる四者が一体となって行う全国初のプロジェクトが発足した。

 CCPとして売り出していく商品については、今年1月に県内の授産施設と作業所に対して参加を呼びかけ、応募してきた45施設・110点の製品の中から「クッキー」と「さをり織り」の2品目に選定。18ヵ所の施設と作業所がそのメーカーとして決まったのち、フェリシモのデザイナーが参加施設に対して「ぐるぐる」というテーマのクッキーと、「ぱたぱた」をテーマにしてさをり織りの作品を依頼した。

うずまきの写真
ぱたぱたの写真 「うずまき」(上) には "永遠の発展"、さをり織のぱたぱた (左) は "羽ばたく" という意味を込めて名付けられた

 同社のCCPプロジェクトチームのスタッフは、県内の作業所を回り、障害者が丁寧に手作りしている作業様子や添加物を使わない材料を見て、「宝物を見つけたいみたい」と絶賛したという。

 不揃いな形は、大量生産には無いオリジナリティーとして付加価値となり、かえって今の消費者のニーズに合う。手作りの良さが生きるデザインを考え、ラッピングなどを工夫することによって商品の魅力がぐんぐん高められていく過程を目の当たり下竹中さんは、「やはりプロと仕事をする意義は大きいと確信した」と話す。

 複数の施設が一つの商品にかかわるため、全国からの大量受注にも対応可能なシステムだ。障害者自身にとっては何より、自分の作った商品が注文の数に直結し、売れれば給料に反映されるのだから、やりがいは大きい。

 「障害者はケアを受けるために生きているわけじゃない。その人の持つ力が十分に発揮できる支援がもっとあっていい」と、竹中さん。CCPは、ま,さにそのモデルとなりそうだ。