[up] [next] [previous]
  

SPA 2003年7月1日号より転載

     
  GO! GO! PATRICK パワフルHIVポジティブ  
  関西の元気な姉さん、竹中ナミさんに会う = 2 =
そのパワーの源は?
 
 
とどのつまり、すべては
私の親バカとワガママで
やっているようなもん
 
 

 
「プロップ・ステーション」で実績を重ね、ナミねぇが次の目指すのは「ユニバーサル社会」の実現。ナミねぇの計り知れないパワーの原動力は何なのか? そこには愛娘の存在が
撮影/高橋聖人 イラスト/大寺 聡 構成/茅島奈緒深

前回のあらすじ
障害を持つ人たちをチャレンジドと呼び、彼らに就労支援を行う社会福祉法人「プロップ・ステーション」(http://www.prop.or.jp)の代表・竹中ナミさんとの対談。支援企業でもあるアップルコンピュータやマイクロソフトなど、名だたるIT企業と連携し、技術習得者には仕事の斡旋も行う。さらにチャレンジドだけでなく、あらゆる人が自分の能力を発揮できる社会=ユニバーサル社会の実現に向け、志を同じくする政治家とともに活動。今回は不良(ごんたくれ)時代の話から脳障害を抱える娘さんの話へ

タイトル画像


パト 15歳のとき、バイト先で知り合った20歳の人と同棲して、16歳で結婚! スピード婚&早婚だけど、できちゃった婚じゃない?

ナミねぇ 1人目の子を産んだのは21歳で、2人目が24歳やったよ。

パト その2人目の子が、重い脳障害を持って生まれてきたんだよね。

ナミねぇ 麻紀っていうんや。今、30歳。麻紀はな、言葉がしゃべれなくて、目も光を感じる程度しか見えへん。耳も音は聞こえるけど、意味は全然わからへん。身長は1mぐらい。靴のサイズは16cm。ずっと赤ちゃんのままだから、「赤ちゃんタイプの麻紀」って呼んでる。

パト 麻紀ちゃんが、障害を持っていることがわかったとき、どう思った? って、何でそんなことを聞いたかっていうと、実はボクのお母さんは、ボクの性格や生き方、人生すべてを受け入れられない人で、いくらボクが話し合おうと思っても、まったく取り合ってくれない。それで絶縁状態なんだけど、最近思うんだ。彼女は、自分のせいでこの子はこうなってしまったんだと思い込んでいるんじゃないかって。子供のころ、ボクは多動症で、学校で団体行動できなかった。そのせいでイジメにも遭った。それがなくなったと思ったら、ボクはゲイとして目覚めたわけだ。彼女にとっては、ゲイであることはひとつの障害だから、ボクの考え・行動すべてが理解できなくて許せなくて……。自分は何も悪いことをしていないのに、どうしてこの子は! みたいな……。

ナミねぇ 麻紀が生まれたときな、麻紀の泣き声は蚊の泣くような声で、おっぱいも吸う力がなかったから大丈夫か? でも、麻紀を取り上げてくれた助産婦のおばあちゃんが、ちっちゃく生まれた子はゆっくり育つから気にせんでいいって。そんなもんかと思っていて、3か月健診のとき、初めて麻紀に障害があることがわかった。そうとわかったら、ショック受ける間もなくて、私のお父ちゃんが「ワシがこの孫連れて死んだる! この子がいては、おまえが不幸になる!!」って。ゴッツイ血相だったから、とっさに寝てた麻紀を奪い取るように抱っこしたわ。

パト うぅ〜ん、お父さんの気持ち、わかるな。世間一般の感覚から言ったら、普通だと思うから。お父さんは、ナミねぇさんのことを思うあまりに言ったに違いないもん。

ナミねぇ そりゃわかったけど、自分の娘と父親を同時に亡くすことのほうが、よっぽど不幸やろ? それに私はずっと不良してきて、いつどんな大変なことが起きるかわからへんのが不良道。それがホンマに不幸かどうか、いくら人に言われても鵜呑みにせぇへん。なんぼ、お父ちゃんかて、決めるのは私。勝手に決めんとってちょうだいって。

パト その代わり、自分たちは一切麻紀ちゃんの面倒を見ないからなって言われなかった?

ナミねぇ それが「そうか、わかった」って。「お父ちゃんにできることあったら、何でも言ってくれ」って。とにかく、お父ちゃんは私が警察に何度補導されても、ただの一遍も怒らへんかった優しい人なんや。

パト それでも、行動で「不幸じゃない」ってことを示していくのは、やっぱり大変だったでしょ。

ナミねぇ いい方法を思いついてな。

パト 何、何?

ナミねぇ 麻紀は、視力・聴力をはじめ、さまざまな障害を抱えている。私と麻紀が前向きに生きていくために必要な情報は、当事者に聞けばいいんだって。例えば視力の問題は目の見えへん人と仲良くなって、目が見えないことはどんな気持ちなのか、どんな不便があって楽しみ方は何か教わろうって。そうやって、たくさんのチャレンジドの人たちと付き合っていって、いろんなことを教えてもらった。周囲の人は、ナミさんは障害を抱える子の面倒を見ているのに、ボランティアもして偉いなぁって言われた。そやないのに、な。

パト すべて、麻紀ちゃんとコミュニケーションしたい一心だったんだ。

ナミねぇ たくさんのチャレンジドと付き合ってわかったこと、それはチャレンジドは弱者ないし、彼らの中にはいろんな能力を持った人がたくさんいるってこと。その能力を使わへんのって、もったいない。彼らの働く意欲、彼らをサポートする人、道具。私が目をつけた道具はコンピュータで、この3つがそろえば、いろんなことが実現できると思った。

パト その思いが、プロップ・ステーションの設立につながるわけね。

ナミねぇ こういうやり方もあるってことを実際にやって示していけば、世の中は絶対変わる。そしたら、麻紀のような子に対しても、みんながきちんと存在価値を認めてくれるようになるんじゃないかって。とどのつまり、私は親バカのワガママでやっているようなもんなんや。

 

バトとナミねぇの写真

「一番幸せな時間は、麻紀と一緒にお風呂に入るとき」と言って、笑顔がこぼれたナミさん。パトは「ボクのお母さんが、ナミねぇさんみたいな人だったらよかったのになぁ」と)

Pat'sニュース
毎年6月にフロリダのディズニーワールドで、「ゲイDAY」があるの。あるアンチゲイの宗教団体が、その上空で飛行機を飛ばして宣伝活動をしようとした。が、テロ以降、ディズニーワールドの上空は飛行禁止区域。この宗教団体、裁判を起こしたんだけど判決で負けたの。ホントよかった。
Pat's日記
もうすぐ夏! でも、パトちゃんは、カギ針での編物に夢中。うちのファミリーはみ〜んな編物が得意。この前、アメリカに帰って、おばさんがやってるのを見て、ボクもやりたくなったの。レインボーカラーのベッドカバーを作ってるんだけど、今、160cm×2cmくらい。先はまだ長いけど、寒くなる頃には完成する予定♪

パトのいるお店●イミグランツ・カフェ
 港区南青山5−9−15 共同ビルB1   TEL03−5766−8995

 

またまた転職の予定のパト。
〒105−8070 (株)扶桑社 週刊SPA「パト係」まで