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B-ing 2003年5月14日より転載

     
  『「IT」は、障害者が自分の意志で
人生を切り拓き、自活していく
チャンスをくれたんです』
 
 
 
  障害者を納税者にできる日本を作るチャレンジド・リーダー  
  社会福祉法人 プロップ・ステーション
理事長 竹中ナミ
 
 

 

竹中ナミの写真


インタビュー/黒田真行(本誌編集長)、文章/谷本正美、撮影/中藤眞美(スタジオTボーン)、デザイン/久須美雅代(デイジーヒル)

 

『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』ネット部門賞に続き、昨年は情報化促進に貢献したと総務大臣賞を受賞。今年2月には、わずか2日間の予定で来日したビル・ゲイツが時間を取って面談した女性、それが竹中氏だ。「チャレンジドを納税者にできる日本」をスローガンに福祉の世界に新風を吹き込む竹中氏に、事業にかける思いや目標を聞いた。

 


娘の誕生を機に、神様から与えられたチャンスに挑む

「もったいないなあ。何で、障害者イコール何もできん人と“遊ばせて”おいてくれるんやろ。関西人として、こんなもったいないなこと黙ってみてられへんわってね(笑)」とプロップ・ステーション設立の経緯を笑顔で語る竹中氏。初対面ながら思わず通称の「ナミねえ」と呼んでしまいそうになるほど、気さくであったかな雰囲気に包まれた女性だ。そんな竹中氏が福祉活動に携わり始めたのは今から約30年前。重症心身障害を持つ長女を授かったことがきっかけだった。

「育児の傍ら手話などのボランティア活動を始め、さまざまな障害者と触れ合ってきました。その際、たとえば抜群の絵の才能の持ち主に出会うと、障害者というだけで就労を制限する日本の雇用システムにつくづく疑問を感じるようになったんです」

 そこで全国の重度障害者約1300人にアンケートを行ったところ、ほとんどの人が働きたい、中でもコンピュータ関連の仕事がしたいとの返答が多かったという。障害者自身がITに大きな期待を寄せているのを知ったことで、竹中氏は彼らが在宅で働けるようにと、技術習得の支援にいち早く乗り出すことに。

「なぜなら当時は働こうにも、その前に技能を学ぶ場すらなかったですから。まずは学ぶ場を作ろうと91年にコンピュータセミナーを開講。以来、セミナー事業は今なお当法人の主軸であり昨年までの受講者は約1000名、受講後の就労者は約100名という実績を残しています。生徒の努力はもちろん、実習用コンピュータを無償で提供してくれた企業ほか支援組織の協力なくしては決して実現できなかったことです」

 支援組織リストに名を連ねるのは国内外の大企業、省庁・自治体など。それら“大応援団”の期待に応えるべく、竹中氏は「障害を持つ人(=チャレンジド)を納税者にできる日本」を作るという課題に挑み続いている。

 


年金受給者から納税者へ。チャレンジドの就労を促進

 チャレンジドとはハンディキャップに代わる言葉として、近年アメリカで広まっている新語である。また単に障害者を指すだけでなく『神様から挑戦という課題、あるいはチャンスを与えられた人』という意味もあわせ持つ。娘を通じてチャンスを与えられた竹中氏自身、チャレンジドの一人と胸を張る。

「障害は先天性の人もいれば不慮の事故が原因などさまざまですが、神様から挑戦という課題を与えられたチャレンジドという意味ではみんな同じ。誰もができることなら障害者年金をもらうより納税という国民の義務を果たすことで、誇らしく生きたいと願っているんです」

 そんな前向きに生きるチャレンジドたちの姿を一冊の本にまとめたのが昨年、吉本興業から出版された写真集『チャレンジド』(定価2000円)である。そこで掲載された四肢まひのウェブデザイナー、難病の絵本作家、全盲ながらマイクロソフトに就職したSEなど、彼らの働く表情に一様に光り輝いている。

「働いて賃金を得る限り、チャレンジドだからという甘えは一切許されません。保護と救済の対象とみなすことはチャレンジドの可能性の芽を摘み取ってしまうのだということを知ってほしいですね」

 


実力主義の時代はチャンスに溢れた時代

「障害の有無にかかわらず、社会や組織が個を守ってくれる時代は終わりました。実力次第でチャンスが広がる今の時代は、チャレンジドにとっても大きなチャンス。少子高齢化社会を支えるためにも、不可欠なことだと考えています」

 すでに新たな試みとして、兵庫県、神戸市および『はいせんす絵本』などのカタログ販売で知られるフェリシモと共同で『チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト』を推進。これを機に、従来作業所や授産施設などで作っていた雑貨や小物などを全国規模で流通させ、優良な生産者を生み出していくのが狙いだ。「障害者は決してマイナスの存在ではありません。限りない可能性を秘めた人として、同情ではなく期待をかけてください。きっと期待以上の“エエ仕事”をしてくれますから」。そう言って、おだやかに微笑む彼女の瞳には強靱な意志と不屈のパワーとが満ち溢れていた。

取材後記●意志と行動と度胸の人、である。従来は考えられなかった“障害者を納税者に”という思いを実現するために、闘い、共感を獲得し、“仕事”を通じた社会参画を望む1000人に及ぶチャレンジドを支援してきた。プロとして価値を提供する喜びだけでなく、時にプロに求められる責任と厳しさも堂々と要求する竹中氏の“真正面さ”がこの難事業をここまで育ててきたのだろう。チャレンジドの狭き門をどこまで広げられるかは、確実に今後の日本にとっての重要課題でもある。

 


法人DATA 【設立】 1998年9月(社会福祉法人格取得) 【スタッフ数】 10名 【事業内容】 相談事業および各機関との連絡調整、機関誌や図書の発行、コンピュータセミナーの開催、フォーラム・シンポジウムの開催等 【問い合わせ】 〒658−0032 神戸市東灘区向洋町中6−9  神戸ファッションマート6E−13  TEL078−845−2263 URL/http://www.prop.or.jp