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名刺に点字をプレスする秋山さん(奥)と小泉さん |
JR館山駅から歩いて3分ほどの商店街の一角。地元の商店街振興組合が空き店舗を安く貸し出す「ちょこちょこ弐番館」に店を構えて半年の「ふぁっとえばー」=秋山岩生代表(57)=を訪ねた。身体障害者が自ら働く場を広げることを目指す小さなグループだ。
こぢじんまりとした店の壁際に、1台のパソコンと点字印刷の機械がある。点字名刺の注文を受けると、右半身が不自由な秋山さんは、左手でパソコンを操作し、まずは普通の名刺を作成。これに一枚一枚、点字をプレスする。点字の型は、穴が縦横にならんだ鉄製の台に、ボールペンのペン先のような鋲を入れて点字の凸面を作る細かい作業だ。この日、秋山さんは、1週間前に知り合ったばかりで、ボランティアに来ている小泉和子さん(46)に操作を教えていた。
秋山さんは89年、過労が原因で脳出血で倒れ、後遺症が残った。職業安定所で、職員から「君は障害者で高齢者だから、仕事はないよ」と言われて逆に奮起。コンピューターネットワークを通じて、「チャレンジド」(障害者)の自立と社会参加を目指す社会福祉法人「プロップ・ステーション」と出合い、同法人が掲げる「障害者を納税者に」という言葉に強い共感を覚えた。「社会に支えられるばかりの存在でなく、社会を支える一員として活躍できる状況を作りたい」
自分に何ができるか、模索を続けた結果が、02年のふぁっとえばー設立だった。点字名刺のほかホームページの作成など、独学で仕事を開拓した。点字名刺は、堂本暁子知事や辻田実・館山市長の注文も受け、福祉関係者や地元ホテルなどからの依頼も増えてきたところだ。「点字を入れた名刺を健常者同士で交換することで、思いやりの心が広がれば」と秋山さんは勧める。
現在の課題は、自分たちの会社を作りたいという障害者をいかに集めるかということ。ふぁっとえばーのメンバーはまだ4人。障害を生かせる仕事を考えるワークショップも呼びかけたが、参加者は10人弱と少なく、出会いの場を作ることさえ簡単ではない。8月、プロップ・ステ−ションと自治体が協力、「チャレンジドを納税者にできる日本」を目指し、行政や企業の関係者が課題を話し合うフォーラムが千葉市内で開かれる。秋山さんは「これを機に関心を持つ人が広がるのでは」と期待する。
「ふぁっとえばー」という言葉には「『わっ』と言えば、すぐに『わっか』(ネットワークの輪)がいくつもできる。心のつながった大きな輪を目指す」という思いが込められている。それが現実となるよう、秋山さんはフォーラムに積極的に参加し、粘り強く活動を続けるつもりだ。
【堀井恵理子】
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