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神戸新聞 2002年11月30日より転載

  チャレンジド
中途失聴の私からの手紙 5
 
     
 
働きたい 皆で支え合う社会を願って
 
     
 
 
 
小椋知子
 


より高い技術を求め、学ぶチャレンジドたち。一人ひとりを大切にして、社会を支え合えたらいい=神戸市の社会福祉法人「プロップ・ステーション」

 「先生、分かりません」。生徒が質問すると、講師の足がにゅっと机の上に伸び、パソコンのマウスをつかんだ。講師の両手は障害のため動かない。だが、足を使った巧みなマウス操作で指導が始まる。

 社会福祉法人「プロップ・ステーション」での講習の一コマだ。「プロップ」では、足でマウスを握る人や、口に棒をくわえてキーボード入力する人など当たり前。最初から「できない」と否定せず、チャレンジド本人の「やりたい」を気持ちを尊重し可能性を見つめている。

 車いすの山岡由香理さん(19)=大阪府茨木市在住=はパソコンで地図などを作る練習中。グラフィックセミナーの課程は修了したが、さらに技術を身につけようと週4日プロップに通う。「障害は、先天性ミオパチー・マルチコア病という筋ジストロフィーと似た病気です」

 小学6年生の時に突然発症、車いすの生活に。呼吸する力が弱く、就寝時は人工呼吸器を付けている。「年々障害が重くなっている。でも、もっと力をつけて在宅で仕事をしたい。自分の力で収入を得て納税者になりたい」

 右手の甲と薬指の第二関節だけでパソコンを操作する山崎安雅さん(27)=福井県在住=は大学卒業直後の4年前、バイクの事故で首の骨を折り、四肢まひになった。治療とリハビリが終わるころ、自立するために重度障害者の訓練施設を探した。「どうしたら働けるかで頭がいっぱいだった」

 だが、どこの施設からも「障害が重すぎる」と断られた。困り果てていたとき、プロップのホームページを見つけた。「これや! 僕が求めていたのは」。福井から片道3時間。父の車でセミナーに通った。その努力が実り最近、在宅ワークを始めた。私は山崎さんを見ると、意志のある人の可能性をとても感じる。

 プロップを通じ、多くの挑戦する仲間たちと出会えた。皆の「働きたい」という熱意に共感し、元気をもらっている。一方で、障害のある人の一部は「健常者に支えられているだけ」と悲観し、前に進めなくなっていると思う。私たち障害者自身も変わらなければ。

 人は否定されると自信を失う。だが期待されれば「こたえたい」という気持ちが生まれる。「その人のできることを尊重し、互いに支え合える」。そんな社会になってほしい。障害の有無は関係ない。この社会に生きる私たちは、みんな「チャレンジド」なのだから。

(フリーライター)

=終わり=


おぐら・ともこ

 1965年北九州市生まれ。31才のとき突然聴力を失い中途失聴に。障害者問題を中心に執筆活動中で、取材は手話やパソコン要約筆記という通訳を介して行う。


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