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神戸新聞 2002年11月27日より転載

  チャレンジド
中途失聴の私からの手紙 3
 
     
 
障害者枠 意欲や実力を聞かない社会
 
     
 
 
 
小椋知子
 


最新技術によるシステム構築を習得中の池内里羽さん(右)。将来は「信頼されるコンサルタントになりたい」と話す=東京都渋谷区のフューチャーシステムコンサルティング

 「本当は取材を受けることにも抵抗があるんです」。池内里羽さん(24)=東京都在住=は、少し困りながらも本音を語ってくれた。

 池内さんは、コンピュータープログラムを作るエンジニア。「フューチャーシステムコンサルティング」(東京)に勤務している。技術不足で毎日が勉強だと笑う。だが「就職の過程では悩んだ」と言う。

 「あなたは障害者枠で応募してください。健常者と採用方法が違う」。3年前の就職活動の夏。立命館大で電子工学を学んでいた池内さんは、企業の採用担当者の言葉に戸惑った。初めて耳にした「障害者枠」という言葉。特殊な知識を持つエンジニアを、企業は求めていたはずだった。

 生まれつきの脳性まひによる障害で手足が思うように動かない。ハサミを使ったり文字を書くことが苦手。子どものころからワープロを使った。言語障害も少しある。だがパソコンの操作に支障はなく、生活上の不自由もない。ずっと健常者と同じ教室で学んできた。

 障害者枠で面接に行くと、「階段をのぼれますか?」「普通の生活では何ができますか?」などと聞かれ、学んだ技術への質問はなかった。結局、30社近くの試験を受けたが同級生の中で就職が決まらない最後の1人に。途方に暮れた。

 技術者への夢をあきらめかけた時、社会福祉法人「プロップ・ステーション」の存在を知った。理事長のナミねえ(竹中ナミさん)に相談すると「あなたの希望が、うちを応援してくれている企業の業務内容と合うようだから、試験を受けたら?」と勧められた。それが今の勤務先との出合いにつながった。

 「プロップ」の理事でフューチャー社の金丸恭文社長は「彼女に一定以上のコンピューターの知識と技術があったので、障害は問題にならず採用しました。特別な配慮は何もしていません」と言う。

 池内さんは、今では当時のことを「貴重な体験だった」と振り返る。だが、厳しい表情でこう続けた。「私の障害は生まれつき。でも、性格と同じで個性なんです。なのに働くことすら珍しがられる。いつになったら注目されない社会になるのでしょう」

 音声を文字にし通訳するパソコン要約筆記のモニター画面を見ながら胸が詰まった。私も同じような悔しい思いを繰り返してきたから。なぜ今の社会は障害者だからと区別するだけで、やりたいことや実力を聞こうとしないのだろう。

(フリーライター)


おぐら・ともこ

 1965年北九州市生まれ。31才のとき突然聴力を失い中途失聴に。障害者問題を中心に執筆活動中で、取材は手話やパソコン要約筆記という通訳を介して行う。


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