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大阪日日新聞 2002年11月20日より転載

  人物 なにわ点描  
     
 
チャレンジドを納税者に
 
 
プロップステーション理事長 竹中 ナミ(神戸市東灘区)
 
 
 
 
 


<プロフィル> 神戸市立本山中学校卒。91年5月、兵庫県内で障害者の就労を支援する団体「プロップステーション」を設立。98年9月、厚生大臣認可の社会福祉法人格取得、プロップステーション理事に就任。54歳。ホームページアドレスは次の通り。
http://www.prop.or.jp

 障害者が誇りを持って働くことのできる社会にしたい−。竹中ナミ(たけなか・なみ)が理事長を務める社会福祉法人・プロップステーションは、コンピューターとIT(情報通信技術)を使って働きたいという意思を持つ、障害者のための組織だ。障害を持つ人のことをプロップステーションでは、神から挑戦することを与えられた人という意味の「チャレンジド」と呼んでいる。「チャレンジドを納税者にできる日本に−」。チャレンジドたちから「ナミねえ(姉)」と親しみを込めて呼ばれる竹中の一番の願いだ。

(奥本敬大記者)


□ 眠っている力がもったいない

 プロップステーション設立のきっかけとなったのは、30年前に竹中が重度の心身障害を持つ子どもの母親になったことだった。どう育てていいのかわからず戸惑っていたが、医者は“治療できない”患者にはなにもアドバイスをしてくれず、看護婦にも同情されるだけだった。

  自立と就労促進を目指す

 そんな竹中が「娘の気持ちを理解するため」に選んだのは、ボランティア活動に参加して、障害を持つ人たちと実際に触れ合うことだった。目が見えない人、しゃべることのできない人の気持ちはどんなものなのか、一緒に時間を重ねるうちに障害者たちが感じていること、なにをして欲しいのかがわかってくるようになったという。
 ボランティア活動を通して、もうひとつわかったことがあった。それが障害者の持つ潜在能力のすごさだった「感受性や感性の強さは健常者とは比べ物にならないほど。ただそれを表現するための手段がなかっただけだった」と竹中は話す。
 チャレンジドたちの能力を社会で存分に発揮するためにはどうしたらいいのか思考する日々が続いた。結果、竹中が見つけたのは、在宅でも作業のできるコンピューターだった。これが障害者の就労を支援するプロップステーション誕生のきっかけだった。

◇     ◇

 ボランティア活動を続けていた竹中は、91年にプロップステーション準備会を設立する。それからの7年間、全国で活動するために必要な大臣認可を受けるため、プロップステーションの活動を知ってもらう地道な草の根活動を全国各地で続けた。98年に厚生大臣認可の社会福祉法人格を取得。本格的に「チャレンジド」の就労を支援するための基礎ができあがった。

  企業から仕事を受託

 これまでにプロップステーションのコンピューターセミナーに参加したチャレンジドは千人を超える。そのうち百人は実際に在宅で仕事をしている。チャレンジドたちの仕事は、プロップステーションのスタッフやセミナーの講師などがあるが、竹中は「理想の形」と話すのがセミナーに協賛してくれた企業から受託する仕事だ。チャレンジドがセミナーで育っていく様子を見てもらって、働けることを企業に知ってもらい、実際に仕事を請け負うシステムができあがりつつあるという。
「私が企業とチャレンジドをつなぐパイプになることができたら」


□ コンピューターは打ち出の小づち

 チャレンジドたちにとって「コンピューターは打出の小槌(こづち)」「ITは人類が火を発見したのと同じレベルの変革の道具」と話すほど、コンピューターとITはチャレンジドの世界を広げた。障害があっても多様な働き方ができるんだということを知るきっかけとなった。

  人と人とをつなぐこと

 チャレンジドの中の一人が初めて自分で働いて報酬を受け取ったとき「お金はこんなにも公平なんだ」と話したという。竹中は「まったく不可能だと思ってあきらめていたことができるようになったとき、人はすごい誇りを持つことができるのでは」と考えている。
 「納税者とは社会の構成員であるということの証明。チャレンジドたちが社会を支援できる立場になってほしい」そんな思いから「チャレンジドを納税者にできる日本に−」をプロップステーションのスローガンにした。
 竹中のなによりも大切な仕事は、人と人とをつなぐことだ。いまでもボランティアで年間2千件以上ものメール相談を受けている。「少しでも多くのチャレンジドがプロップステーションで学んで知識を持って、社会に出てくれたらうれしい」と竹中の表情は明るい。
 「自分で自分を好きになってくれたとき、そんな感情が芽生えてくれるのが最高の喜び」
 毎日が綱わたりの状態。支援者の応援がなければやっていけないというが「目的があると毎日が楽しい。お金に代えることのできない幸せ。『ナミねえと出会ってよかった』と思ってくれる人がいたらうれしい」と竹中は満面の笑みを見せた。

   
 「プロップステーションには、これまで10件以上の仕事を発注してきました。主にホームページやデータベースの作成などをやってもらっています。データベースの作成に間違いなどもないし、納期が遅れることもないので、信頼の置ける発注先ですね。ホームページの作成ではこちらが発注した以上のものを作ってくれるので助かっています。特に、高齢者や子ども、妊婦、障害者といった社会的弱者のためのホームページ作成では力を発揮してくれますね。今月中にもまた仕事を発注する予定です。これからも大切なパートナーとして仕事を頼んでいきたいと思っています」(大阪市淀川区の株式会社シィ・エイ・ティ代表取締役の大西由紀さん)

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