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2001年(平成13年)4月22日(日曜日) 神戸新聞 より転載
     
 

街の魅力

市民とともにどう描く

 
     

 家にいながら障害者が収入を得る道はないか。自身も障害を持つ子どもがいる。切実な思いを社会福祉法人につなげたのが「プロップ・ステーション」(本部・神戸市)の理事長、竹中ナミ(五二)だ。

 六甲アイランドのオフィスにはパソコンが並ぶ。障害者向けの仕事を発掘し、企業や行政と交渉し、障害者を研修する。「間をつなぐコーディネイト役」と竹中は言う。

 任意団体から法人になって二年半。竹中は国や三重県などの委員会に携わる。パソコンを活用した障害者就労支援という全国でもユニークな取り組みをバックに、提言に加わる。神戸市が経済活性化の指針を諮問した神戸経済新生会議も、その一つだった。

 同会議が行き着いた提言は「人が活(い)きる価値創造都市」。「アイデアを持つ人が神戸に集まり、人と人の結びつきが新しいエネルギーを生む」とシナリオを描く。

 委員として、もちろん異論はない。しかし問題は、そこへ至る道筋、人をひきつつける「街の魅力」だ。

 「こんな街にしたいというビジョン。地元の人が街を愛し、外の人をひきつける神戸の将来像。それが見えない」と竹中。「市と市民や企業が本気の議論をしてきたか。震災後が機会だったのに…」。

 重厚長大産業が斜陽化するなか、開発と企業誘致に力を入れた宮崎市政は、アパレルを育成するファッション都市などの看板を掲げた。しかし、笹山市政となった一九八九年以降、景気は減速し、バブル崩壊、そして震災へと続く。

 「事業の“種まき”から“収穫”まで行政が手がける時代は終わった」と医療産業都市構想を担当する企画調整局参与、大麻博範(五四)。再生医療などの企業を誘致する同局主幹、三木孝(四二)も「財政が厳しい。少ない予算で企業や人材を呼び込まなければ」と言う。

 かぎを握るのは民間活力をどれだけ導入できるかだ。右肩上がりの経済が終わり、全国自治体が直面する課題でもある。都市間競争の中で、人や企業をひきつける「街の魅力」という原点が、あらためて問われる。

 「心地よく生きることのできる町」。竹中は街のビジョンについてそんなイメージを抱く。「愛着を感じたら、頑張ることができる。その積み重ねが民間の活性化につながると思う」。行政と市民の本気の議論を求める。

 市民や現場の意識に敏感になる。企業を発掘し、育て、根付かせる誘致でも、そこがかぎを握る。神戸ファッションマートでベンチャー企業を支援する事業副本部長、高田恵太郎(五〇)は「どんな支援ができるか。答えは現場から出てくる」と言う。

 インナーシティー活性化も行政だけでは限界が見えた。行き着くところ、地域の活力が頼りだ。

 市民や現場に向き合う姿勢。それは前の宮崎市政が後半期に問われた最大の課題だった。負の教訓を踏まえ、「参加と対話」を掲げた笹山現市政の原点とも言える。

 市民とともに街の未来像をどう描いてゆくのか。都市戦略の行方が注視されている。(敬称略) =おわり=

 

「岐路に立つ都市戦略」編は社会部・西海恵都子、荒川克明、経済部・藤井洋一、宮田一裕、藤本陽子が担当しました。「神戸を問う」シリーズは随時掲載します。

 


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