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Internet ASCII 1998年5月号より転載 |
インターネットは打ち出の小槌。
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インターネットと Challenged 竹中ナミ[文] たけなかなみ(nami@prop.or.jp):コンピュータネットワークを利用することで、重度障害 を持つ人々(challenged)の社会的自立を目指すNPO「プロップ・ステーション」を'92年 に設立。会員から「ナミねぇ」と慕われる、組織の大黒柱。しゃべりはバリバリの大阪弁! vol.12 細田和也くん、 マイクロソフトで始動! |
和也くん、コンサルタントの次は? |
皆さん、こんにちは。ナミねえ@プロップ・ステーションです。早いもので、この連載を始めて1年たちました。連載では、さまざまな形で活躍するchallengedの方たちを紹介してきましたが、マイクロソフト(以下MS)社のコンサルタントに就任した全盲のWindowsユーザー、細田和也くんのことは、"最もその後が気になる1人"なのではないかと思います。たくさんの人から、「細田和也くんのその後の経過と、Windowsがどんなふうになってゆくのかを教えて!」という声をいただいたので、今回は"うれしい後日談"をお伝えすることにしましょう!
和也くんは、この3月に卒業を迎える淑徳大学の4年生。これまでは卒論に追われながら、MSのコンサルタントとして、Windowsのアクセシビリティ(いかにアクセスしやすくするか)における課題の抽出に協力してきた彼ですが、実は、学業を終えた3月から、MSの"研究開発本部ウィンドウズOS部一課"ということで契約社員として働くことになりました(この原稿が掲載される頃は、もうすでに徹夜仕事なども経験してるかもしれません)。 住まいも、通勤に便利なように、MS調布技術センターから徒歩10分のところにお引っ越し。引っ越し当日(2月24日)、さっそく今後の仕事の進め方を話し合うミーティングが行われるということで、就職のお祝いを言いがてら、ナミねえはMS調布技術センターを訪れ、社長室長の道白さんと技術スタッフの面々、そして和也くんに突撃インタビューを試みました。 |
大変なスピードで深い関係に…… |
ナミ 「和也くん、おめでとう! 気分はどない?」 和也 「そりゃ、うれしいっすよ」 ナミ 「それにしても、この1年の和也くんの生活は、劇的な変化の連続やったね」 和也 「去年の今頃は、JAWS(英語版Windows 95画面の読み上げソフト)のデモ版をインストールしてはシステムが壊れ、壊れてはインストールし直して、の繰り返しにうんざりしてたからね。日本語でWindowsが使えるなんて想像もできなかったので、仕方なく英語版を使って・・…、それがまさか自分が日本語版を開発する側にまわるなんて思ってもみなかったです。あの頃はWindowsを使う全盲の人間なんて、それ自体"変な奴"でしたからね」 ナミ 「そうそう、DOSに戻せ! っていう視覚障害者の声も多かったもんね」 和也 「今でもそういう人はいると思うけど、Windowsが使えないので仕事がなくなって家族を養えなくなった、というchallengedユーザーの声なんかを聞いて、なんとか視覚障害者もWindowsが使えるようにならなければ、と真剣に思っています。視覚障害者の職業訓練は今でもMS−DOSのみなので、誰でも使えるWindowsを開発することで、職域が広がるし、すごく重要な開発をこれから自分がするんだと張り切ってます」 ナミ 「新しい仕事への不安より、楽しみが多いってこと?」 和也 「不安はもちろんいっぱいあるけど、自分の力を生かせる楽しみと、本当の技術者の皆さんと一緒に開発できるってことが、すごくうれしいです」 ナミ 「和也くんと道白さんが出会ったのが去年の5月。6月にはコンサルタントに就任し、7月にはchallenged Forumで成毛社長と対談。それが今年3月から社員だなんて、大変なスピードで深い関係(笑)になったもんですね」 道白 「プロップと細田くんに出会って、パソコンやインターネットが障害を持った人にとって大きな力になることを、マイクロソフトは認識しましたからね」 ナミ 「時の運、っていうのも大きいですよね、時代の風とか・・…」 道白 「そうそう、お互いに出会って運が良かった(笑)」 ナミ 「道白さん、和也くんを採用された理由を率直に聞かせていただけますか?」 道白 「技術力、英語力、それからいちばん重要な人柄の点でも、細田くんはマイクロソフトに必要な人材だと思います」 ナミ 「人柄というと・・…」 道白 「開発というのはチームワークですから、チームワークのとれる人柄と、組織人としての自立心。そういう資質を彼は備えていると思いますよ」 ナミ 「コンサルタントから社員になったのにも理由があるんですか?」 道白 「細田くんと卒業後の進路の話をしたときに"米国の大学院への留学希望もあるけど、将来はコンピュータ産業で働きたい"という希望を聞いたので、それなら契約社員として(留学前に)勉強しながら働いてはどうか、と勧めたんです。マイクロソフトとしても、アクセシビリティに力を注いでいくために細田くんが必要だと感じたのでね。コンサルタントのときは、学業の合間に週数時間、視覚障害者の立場からの意見や、要求事項の洗い出し、リサーチなどに協力してもらったんだけど、そういう経験を経てマイクロソフトは"アクセシビリティは最先端の技術が必要で、この部分をやりとげないとコンピュータの10年後はない"と感じるようになったんです。今では、生活の道具としてのコンピュータにならなければいけないと思っています」 |
Windows98をすべての人に使いやすく |
なるほど「マイクロソフトは本気やぜっ」っていうことなんやね、と思いつつ、和也くんの直属の上司であるアクセシビリティ担当のプログラムマネージャーの金子雅彦さんと、OS部の課長である間中信一さんにお聞きました(金子さんは、MS社員会のボランティア代表として、インターネットを使ったプロップのセミナーなどに協力してくださっている方で、間中さんは金子さんの上司にあたります)。
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傘を差しながら技術センターに戻り、明日のOS開発に取り組む青年たちと別れて、ナミねえはポカポカ温まった胸を抱いて東京駅に向かいました。マイクロソフトという巨大な企業が、巨大だけれどベンチャーらしく、俊敏に改革に向けて舵を取る瞬間を「この目で見た」夜でした。 |
米 Microsoft社のアクセシビリティに関するWebサイト(http://www.microsoft.com/enable/)。障害者に対するサポート体制、サポート機器の紹介などを行っている。日本語のページは現在準備中とのこと。日本語ページの開設も和也くんの仕事に関わってきそうだ |