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産経新聞 1996年9月24日より転載


チャレンジド風

垣根のない社会を


平田篤州


9月号は、空色の表紙に白い雲がふわりふわり。

「デザインは絵本作家の鈴木純子さんに、お願いしているんです」

23日夕、西宮市の自宅。ベットの上から、魅力的な声で言った。

桜井龍一郎さん(32)。チャレンジド(障害者)の就労促進を進めている非営利の市民組織「プロップ・ステーション」が発行している情報誌「Flanker」の編集長だ。

「初めて話した時は、ぼそぼそっと小さい声で。それが今では(原稿まだかっ)とこわいこわい・・・」

プロップの代表、ナミねぇ(竹中ナミさん)は、4年前の出会いを、こう振り返る。

オフィスに出勤しないで仕事を行う「リモートワーキングプロジェクト」や全国ボランティアフェスティバルの紹介・・・。A4判、86ページ。何より、巻頭詩があるのが嬉しい。

9月号は「マジカル・コットン・フィールド」。雲の生まれる、秘密の草原のオハナシだ。

<旅人の吐息の中から生まれた雲は手のひらで暖められ、やがてそれは旅人自身を乗せられるほど大きくなります・・・>

表紙との連動。詩の作者も、絵本の鈴木さんだ。

桜井さんは、チャレンジドである。

19歳の6月。宙返りでけい椎を損傷。当時、大学2年生。体操部で練習中の事故だった。

1年半入院して、車いすの生活に。パソコンに親しんだ。そして、ナミねぇたちとの出会い。今、ビデオ製作会社の正社員である。コンピューターグラフィックスの仕事などを、在宅勤務でこなす日々だ。

「Flanker」の編集はボランティア。ベットの上でパソコンを操り、紙面を作っていく。電子メールで仲間たちと対話。桜井さんの思いは、パソコンネットを通じて何の垣根もなく世界を駆け巡るのだ。

でも・・・と、ちょっと顔を曇らせた。街に出る時、垣根が多い。車いすが通れないバリアー(垣根)が、まだまだあるのだ。

白い雲に乗って、垣根を越えてふらりと街へ。編集長の夢を思った。


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