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作成日 1996年7月3日

大阪のボランティア団体
パソコン通信で障害者の就労支援

操作指導や相談などネット通し、在宅学習も

毎日新聞1995年12月11日夕刊より転載
 マルチメデイア時代になれば、職種によっては在宅勤務が可能になると言われる。会議や打合わせ、書類のやりとりなどがコンピユーターネット上で行われるからだ。もっとも恩恵を受けるのは、通勤が困難であるために、働く意欲も能力もありながら仕事に就けないでいる人たちだろう。そうした時代を先取りするかのように大阪の民間ボランテイア団体「プロップ・ステーション」(竹中ナミ代表)が、パソコン通信ネットやインターネットを活用して障害者の仕事を確保する取り組みを始めている。(メデイア情報部・和田隆)

 大阪市北区、大阪ボランテイア協会の研修室で夜間に開かれているプロップステーションのコンピューターセミナー。訪れた時、初級、中級者向けの講座の最中だった。車椅子の人ら八人がボランテイアのサポートを得ながらパソコンに向かっていた。
 「俳句作りが趣味。パソコンで句集を出版したい」(兵庫県西宮市、井上雅友さん、43歳)「絵本作家を目指している。手を前後左右に大きく動かすのが困難で、大きな絵がかけない。パソコンなら、それが可能」(大阪市枚方市、久保利恵さん、21歳)と目標がある。
 セミナーは週に一回。これだけでは時間不足だが、そこをパソコン通信ネットが支えている。プロップ・ステーションが開設している「プロップ・ネット」で、受講者は自宅で自習、分からない所をこのネットを通じて質問する。教えるのは、ネットに参加している約二百人。プロの技術者ばかりではなく、先日まで教わる側だった人の場合もある。教える側も、勤務先や自宅で対応で効率がいい。
 セミナーは、初級、中級者向け以外にも、上級者向けやプログラミングを学ぶコース、パソコンを使った出版システムを学ぶコースなどがあり、計35人が学んでいる。

 プロップ・ステーションは阪神間で約20年間、障害者福祉に取り組んできた竹中代表らが1991年にパソコンを障害者の就労に役立てようと発足させた。パソコンに焦点を当てたのは、重度障害者へのアンケートで回答者の8割が就労の手段としてコンピューターの技術取得をあげたことから。セミナーやネットのほか、相談事業、機関誌の発行などに取り組んでおり、今年9月からはインターネット上にホームページを開設、仕事やボランテイアを募っている。
 実務部門があるのは大阪ボランテイア協会近くのマンションの一室。十台前後のパソコンやワークステーションに囲まれるようにして竹中代表と実務担当者の鈴木重昭さんが作業を進めていた。ハードウェア、ソフトウェアともに、さまざまな企業から寄付されたものが少なくない。ネットの中心になっているホストコンピューターに次々とアクセスが入り、この一室が障害者たちの”よりどころ”になっていることを実感した。同じように「パソコンで仕事を」と考えている障害者団体は各地にあり、最近、見学や問い合わせが相次いでいるという。

 プロップ・ステーションでは障害者のことを「チャレンジド」と呼ぶ。積極的な生き方という意味が込められているそうだ。セミナーの修了者のなかには、高校の教務管理システム作りや貿易会社の在庫管理システム作りなどの仕事をこなした人もおり、同様に、技術を身に着けて、いよいよ仕事の注文に応じられるという人が現在、約十人。「一般の業者と競争できるチャレンジドがたくさんうまれつつある」という竹中代表の言葉にマルチメデイア社会の明るい側面を見たように思った。


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