全ての人が誇りを持って生きられるIT社会を語る 座談会

本年11月1〜2日、三重県志摩スペイン村で開催する 「第7回チャレンジド・ジャパン・フォーラム 2001 国際会議 in みえ」 のプレイベントとして、2月17日、三重県にて 「キックオフ座談会」 を開催しました。

座談会・壇上の様子
司会の谷井さん
パネリスト 坂口 力 厚生労働大臣
北川 正恭 三重県知事
竹中 ナミ プロップ理事長
コーディネータ 成毛 眞 株式会社インスパイア社長
司会(第7回CJF実行委員長)
谷井 亨

第7回CJF三重大会
     キックオフ座談会

2001.02.17.

【谷井】 ではまず、坂口厚生労働大臣からお願いいたします。

【坂口】 ご紹介いただきました坂口でございます。今日は皆さん、お忙しい中、多くお集まりいただいて、本当にありがとうございます。「すべての人が誇りを持って生きられるIT社会を語る」というこのシンポジウムに出席させていただいて、たいへん光栄に思います。また、私に取りましては、ここが地元でございますので、そういう意味でもたいへん感激をいたしております。

 竹中さんとは、これで4〜5回でお会いさせていただいたでしょうか。お会いするたびに、いろいろなことを教えていただいて感激いたしておりますが、やはり「チャレンジド」という言葉をお使いになって「納税者になろう」と呼びかけられたところに、たいへんなお考えがあると思っております。障害者の皆さん方に非常に大きな希望を与えたのと同時に、いわゆる健常者と言われます一般の人々の中にもなかなかチャレンジしない人が多いわけですから、一般の人々への大きな警告でもあったと思います。「皆さん、何をしているのよ」と、そういう風にも聞こえるわけです。そういう意味で、これは障害を持つ皆さんだけの問題だけではなく、日本の社会全体の根底を揺り動かす大きな運動の始まり。私はそんな風に感じております。

 今日は皆さんと一緒に議論させていただきますことを、嬉しく思っております。

【谷井】 続きまして、北川三重県知事、お願いいたします。

【北川】 皆さん、こんにちは。今日はこのフォーラムにたくさんご参加いただいて、ありがとうございました。坂口厚生労働大臣におかれましては、たいへんご多用の中をこの会に快くご出席いただいて、ありがとうございました。

 実は、この会を持つに当たりまして東京で事前の会議を持ったときに、今日コーディネートをしていただく成毛さんが「こういう会だから、できたらカジュアルなスタイルで行こうよ」と提案されたので、私は大臣にもお願いしたんです。「その後仕事があるから背広でどうかね」とおっしゃるので、「成毛さんがこう言っているのでダメです」と言ったら、「実はブレザーがないんです」ということで、この日のためにわざわざ買っていただいて(笑)。そうしたら成毛さんが、昨日は北海道から直接来られて、自分がスーツでやって来た。まったく矛盾した話になっているわけです(笑)。

 竹中ナミさん、通称ナミねぇの方がいいと思いますが、ナミねぇにも昨日聞いたんです。「あんた、スカートはあるのかね」と。そうしたら、「私、ないんです」と。ですから、成毛さんだけが間違って来たと、ご理解いただければと思います(笑)。

 11月1〜2日にスペイン村で「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」をやらせていただきたいと思いますが、スペイン村さんはバリアフリーのことを一生懸命やっていただいています。車椅子への対応や手話通訳など、全部社員の方がやっていただいています。三重県はバリアフリーを目指していますので、先年、スペイン村さんを表彰させていただきました。それで「こういう会合にはふさわしいところだ」ということで、ここでチャレンジド・ジャパン・フォーラムを開催させていただきたいと思っています。そのプレイベントとして、今日はこのポルタをお借りして、坂口厚生労働大臣をお迎えしてのフォーラムになったと、ご理解いただきたいと思います。

 20世紀はなかなか忙しい世紀でもありましたので、健常者ができるだけたくさんお金を儲けて元気の出る世紀にしようということでした。しかし、成熟した社会になったときには、お互いが自尊心を持って参画できる社会を作り上げていくことが、行政にとっての重要な仕事だと、そのように考えております。

 私どもとしては「ノーマライゼーション」「すべての人が社会参画を」という年のスタートにしていきたいと強く願っているところで、今日ご臨席をいただきました皆さんのお力もお借りして、皆さんにご相談も申し上げ、ご協力を賜りながら、この三重県から障害者が納税者になれる、あるいはすべての人が社会に参画していただく、そういう地域社会を作って行きたいと考えております。そして、日本全体がそうなってくれればなといった願いを込めて、今日のフォーラムを開催させていただくということです。どうぞしばらくの間、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

【谷井】 続いて、成毛社長、よろしくお願いいたします。

【成毛】 成毛でございます。ドレスコードを間違えて来まして(笑)、知事はこの性格ですから何回言われるかわかりませんけど……(笑)。

 私はマイクロソフトという会社に18年ほど勤めておりまして、社長を8年していたわけですけれども、去年の5月に退任いたしまして、新しい会社を作らさせていただきました。何でここにいるのかと皆さん不思議に思われるかもしれませんが、実は「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」の第2回からですか、お手伝いをさせていただいています。お手伝いと言いましても、ちゃんとした下心があってお手伝いをしている。その下心を、恐らく竹中ナミねぇが認めてくれているんだと思います。

 第一の下心ですが、だんだん高齢の方が増えて来て、2020年には20%以上の方が65歳以上になるという事情があります。考えてみると、そのときちょうど私が65歳になるんですけど、そういう時代に、もし障害をお持ちの方や高齢の方がコンピュータを使えないとすると、マイクロソフトとしては20〜30%の方にモノを売れなくなってしまうのではないか。ちゃんとその方々が使える製品を作らないと、どんどん売上げが減っていくわけで、「これは何としてでも大切なお客様として確保しよう」と。まず、そういう下心があります。

 もう一つは、ちゃんと働ける人が欲しいという事情がありました。マイクロソフトに全盲の社員がおりまして、プロップステーションからの紹介で入社したのですが、全盲ですから大変な苦労があります。コンピュータが読み上げるのを耳で聞きながら入力するということを、ずっとやるわけです。その彼が何をやっているかというと、全盲または視覚が弱い人向けのコンピュータをどう作るかという研究、商品開発をしています。彼が社員2000人の社員総会で言った言葉がありまして、「あなた方はコンピュータのプロだろうけど、私は目が不自由なプロをもう二十何年やっているんだ」と。それでマイクロソフトの社員が愕然となりまして、「そうだ。あの人たちはプロなんだ」ということに気づいたわけです。

 先ほどナミねぇが「障害があるが故にビジネスチャンスがある」とおっしゃっていましたが、これは冗談ではなく、そうなると思います。それをやらないと企業は存在出来なくなるかもしれない。コストではなく、企業の利益目的に合致するものとして、長期的な投資が必要だと、そういうことになりまして、支援させていただきました。

 長くなりましたが、そういう立場からコーディネータを勤めさせていただければと思っているところです。ありがとうございました。

【谷井】 では、これからの進行はコーディネータを勤めていただく成毛社長にバトンタッチしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【成毛】 承知しました。大臣と知事がおられる会ですから、「打ち合わせがあるんだろう」と思われるかも知れませんが、まったくありません。したがいまして、どんな発言が飛び出すか、ご期待されていいと思います。

 大臣も、最近は大変な問題をお抱えになっています。何の問題かとは申しませんけど(笑)、まずお話をいただきたいと思います。厚生労働省の初代の大臣になられたわけですけど、どういう省になるのか、その辺りからお話しいただけたらと思います。

坂口大臣の写真
役所が変わって行かなくてはならない・・・

【坂口】 いままでは厚生省と労働省という2つの省でした。したがいまして、たとえば子育ての話ですと厚生省の話ですが、育児休業の話になりますと労働省の話になってしまう。また、定年後の話でも、年金の話ですと厚生省の話ですが、定年後の雇用の話になると労働省の話になったわけです。したがいまして、60歳から65歳の皆さんの生活全体を考えようとしても、別々の省にまたがっておりまして、なかなかうまく行かなかったわけです。今回、厚生省と労働省が一つになって「厚生労働省」ということになりましたから、いままで別々で問題だったことを一つの省の中でできるようになります。

 私が局長や課長の皆さんに申し上げているのは、ただ一緒になっただけではダメだということです。たとえば、元厚生省の役人と元労働省の役人が混合しているだけではダメで、物理的に言うと、融合しなければいけない。融合して別の物資にならないといけない。そういうことを、一生懸命に言っているわけです。私としては、厚生労働省というのは、オギャーと生まれたその時から、あるいはその前から、お亡くなりになった後まで、皆さんの生活に関わるところすべてを引き受ける役所であると自負しておりますし、「たいへんな仕事だなあ」と思っているところです。

 過去の役所は「命令」と「禁止」、つまり「こうしなさい、ああしなさい」と「これをしてはいけない、あれをしてはいけない」ということを言うところでしたが、だんだん変わってきております。現在は、「こういう風にしようじゃないですか」「こういうことはやめようじゃないですか」という「指導と「抑制」に変わっているわけです。

 では、これから先どう変わらなければいけないか。それを初代の大臣にならせていただきましてからずっと考えているんですけど、恐らく10年先にはもっと柔軟になって、「こういうことをお手伝いしましょう」「そのためにこういう情報を提供しましょう」という「支援」と情報提供による「誘導」が、これから役所が変わって行かなければならない方向ではないかと、そんなふうに思っています。

 ですから、これから先、役所は皆さま方の「こういう風にしたい」「ああいう風にしたい」というお声を聞いて、「それではこういうお手伝いをしましょう」と。あるいはまた、「それにはこういう問題がありますから、こういう情報をご覧ください」と。そういったことを中心にやっていくようになると考えています。

 チャレンジドの皆さんに対しても、本当にお役に立てる省になっていかなければいけないし、そういう方向に行くだろうと思っています。

【成毛】 知事、いまの大臣のお言葉を、われわれ国民としては、そのまま信じてよろしいんでございましょうか(笑)。

【北川】 大臣のおっしゃることですから間違いないと思いますし、やがてそうなると思います。実は私どもも、「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」を開催するとなりますと、さっそくどの部署が担当かという議論になるわけです。たとえば、ITを使って在宅勤務が可能になりますから、新しい産業を起こすということで新産業創造課の仕事になります。「いや、これは障害の問題がありますから」という話になると、健康福祉部の仕事になります。「障害を持つ人を納税者にするための道具としてITが必要という話なんです」ということになると、情報政策課の仕事になります。「雇用の確保の問題でしょう」となれば、生活部の雇用支援課の仕事になります。

 こうしてすぐに4つの課が重なるわけですから、いままでの縦割り行政がいかに無意味か、これ一つ見ても明らかです。このフォーラムひとつやるにも、やはり横断型の組織、社会にならないと行けないと思うわけです。大臣がおっしゃったような規制型、管理型、そして私どもで言う予算消化型、そういう行政で事足れりという時代はとっくに終わっています。それが、創造型、支援型に変わって来ないと、本当に充実した政策はできないと思っています。

 で、縦割り社会から横断型社会へということですが、この横断型社会は機械が作り上げたネットワークによるものですから、マイクロソフトの社長だった成毛さんの罪は大きいと思います(笑)。そのため、われわれは横断型の行政にすぐに切り換えなければなりませんが、まだまだ従来型の発想が多いものですから、そこに悩みがある。横断型の社会を素早く作り上げる勇気と情熱のない地域は遅れるのではないかなと、そんな感じがいたします。そういう社会を作られた成毛さんの決意をおうかがいしたいと思います(笑)。

【成毛】 あのぉ……、困ってしまいました(笑)。ちょっと話の方向を変えて申し訳ないんですが、私は北海道の出身で、いまは東京にいるんですが、この大臣と知事のお二人を輩出した県ということで、皆さん、恐らく誇らしい気持ちになられるだろうと思います。お二人は、日本を変える、その原点に立っておられると思います。

 ナミねぇは神戸と大阪を中心にやっているわけですね。神戸と大阪は大丈夫ですか。

【竹中】 IT業界の人からそう聞かれるとは思わなかったな(笑)。「ITに地域は関係ないやろ」という感じで、プロップのネットワークでは、北海道の人も沖縄の人も東京の人も三重の人も勉強して、仕事をゲットしています。だから、プロップが大阪にあるか神戸にあるかということは全然問題にならない。

 ただ、手法がベタベタの関西パワーですから、そのままどこまで突き進んでけるかは大きな課題でございまして、ええ(笑)。

【成毛】 そうですね。まさに、そういう風に地域の違いが全然意味を持たない世界になっていくでしょうね。ただ、光ファイバーですとかケーブルテレビですとかネットワークを整備しないと、いまは在宅勤務をしようにも通信費が高くてできないという問題はありまして、そういう意味での地域格差が出てくる時期だと思います。国ではIT戦略会議などでいろいろなディスカッションがあって、2005年ぐらいまでの間に整備するという話が出てまいりました。

 せっかくチャレンジドが納税者になろうとしても、そういうコストが高いという問題があると思いますが、三重県はいろいろおやりになっているようですね。そのあたりをお話しいただきたいと思います。

 

北川知事の写真
三重を情報先進県に・・・

【北川】 スペイン村でチャレンジド・ジャパン・フォーラムを開催させていただくことになったのは、スペイン村さんがバリアフリーが進んでいるということも一つの要因ですが、もう一つは、志摩郡阿児町に6本の海底ケーブルが上がって来るんです。私はこれからもっと増えると思っていますが、この6本の大ケーブルが日本一の大容量・高速・鮮明な通信環境を実現する。そういうこともあって、志摩の地を選びました。

 三重県では、この大ケーブルを生かそうということで、CATVのネットワークを利用して家まで大容量・高速・鮮明な画像を届けようと、懸命の努力をしています。CATVの会社が大変がんばってくれて、先日からずっとその煮つめをやっています。三重県では、CATVのカバー率、「すぐ契約できますよ」という地域が、この3月いっぱいでだいたい78%になると思います。平成13年度いっぱいで86%、平成14年度いっぱいで、だいたい全部をカバーできると思います。

 したがいまして、県内の電話などは当然ほとんど無料になります。三重県はCATVの大容量のラインを全国に先駆けて引くことが出来たましたので、そのラインを専用回線ではなしに、どんなトラックでも乗れる情報の道路網を敷こうと思っています。「どんなトラックでも乗ってください。いっぱい内容の詰まったコンテンツがあっても、全部乗れます。それだけの容量があります」と。これば「ブロードバンド」と言いますけど、それを是非やりたいと考えております。先日も大阪などいろいろなところで、その話をご説明申し上げたら、たいへん興味を持っていただきました。

 というわけで、安く、大容量・大高速・鮮明な画像が送れるCATVのネットを活用させていただいて、三重県を情報先進県にしたいと思いますし、ITと障害を持つ方を結びつけて「在宅でも勤務ができますよ」と。そういうことを、志摩スペイン村の大会でお見せしたいと思っています。

 今朝ほども読売新聞や中日新聞に載っておりましたが、私どもは四日市のNPOの方と一緒に、障害を持つ方がITを活用して納税者になる取り組みを行います。今度そのための予算を組みましたのでお載せいただきましたが、その一番の元のツールとしてはCATVのネットワークを活用させていただきたい。そう思っています。

【成毛】 大いに期待できるお話のように思います。そうすると、だんだんチャレンジドがコンピュータを使って仕事ができるようになるわけですが、では実際に雇用があるのかというと、先ほどのナミねぇのお話のように、インターネットの上では地域は関係なくて、発注者がアメリカにいようが東京にいようが北海道にいようが全然問題ない。恐らくそういうことになっていくわけですね。

 そうすると、大臣、いま職業安定所で行っている職業紹介など、労働行政のあり方もものすごく変わって来るのではないでしょうか

【坂口】 変わって来ると思います。いま職業安定所が全国にございますね。職を求める人と人を雇いたい会社が、ともに職業安定所に行って、そこで出会いをして、直接お話をしていただいく。これが、いままでのやり方だったわけです。ところが、最近だんだんと職業安定所に来ない人が増えています。いま職業安定所は「こういう雇用があります」という情報をインターネットで出していますから、それを見て直接会社にお問い合わになる人が増えているわけです。

 雇用の問題に限らず、もう役所は、いままでのようなことでは立ち行かないようになってきている。他のところが大きく動いているので、役所もだいぶ変わって行かないといけないという気がいたします。

 たとえば、モノが売れているかどうか、消費が伸びているかどうか、そういうことも今までのように百貨店やスーパーだけを見ていたのでは、本当に売れているのかどうかわからないということがあります。百貨店やスーパーでは、いくらぐらいするのか値段だけ見ておいて、他の安く売っているところに行って買う、そういう人も多くなっているわけです。そのように、今までと同じことをしていると見間違うということが、かなり多くなっているのではないかという気がしています。

 このところインターネットによる変化が急激に進んで来ましたし、これからまた、変化はどんどん進んでいくだろうと思います。それに早く対応して行かないと、国のほうとしては大変だと、非常に切羽詰まった気持ちでいます。一生懸命勉強しているところです。決してKSDのことだけやっているわけではございません(笑)。

【成毛】 私はインスパイアという会社を始めたんですが、この会社は日本の中堅企業、従業員数で2000名以下ぐらい、かつ非IT産業、つまり建設関連ですとか水産加工ですとか自動車部品製造ですとか、そういうITとは何の関係もないような会社に投資してコンサルティングをするというビジネスを始めました。

 コンサルティングの内容は、ITとマーケティングです。これやることで、古い体質の企業を蘇らせる。その結果として株が上がるだろうから、儲かって嬉しいねと。そういう自己責任型のコンサルティングという妙な商売を始めました。

 なぜこういう話をしたかと申しますと、いま中堅企業の、全部とは言いませんが、かなりの数が非常に重度の障害を持っているような感じを受けるんです。マスコミを見ていますと、官が悪い、国が悪いという報道ばっかりあるわけですが、私の立場から見ると、中堅企業よりもむしろ霞が関を含めた行政の方が速く変わっているかもしれない。むしろ企業のほうに、問題を抱えたまま、それこそ座して死を待つような姿が多いように思うんです。

 で、どういう企業が良いのか悪いのかを見る尺度は必ずしも一定ではないんですけれども、環境問題ですとか障害者問題に取り組んでいる企業というのは、それに取り組むが故に組織を横断的に使わなければならなかったり、お金を有効に使わなければならなかったりしたことで変わる。それで、いまでは環境問題とか障害者問題に取り組む会社に投資家のお金が流れるようになってきているんです。

 で、この社会福祉法人(プロップステーション)は、私が言うのも変ですが、たとえば「官公庁にぶらさがってそこからお金をもらおう」なんてことは一切していませんから、企業とのつきあいの方が多いんですね。それで敢えて聞きますが、ナミねぇから見て企業の取り組みは十分ですか?

【竹中】 十分不十分というよりも、チャレンジドが勉強をして実力をつけるプロップのような活動があるとか、もう高いスキルを持った人がいるとか、そういう状況を知らない企業が、まだ多いと思うんですよ。成毛さんなんかは、早くからプロップと一緒にやっていただいているので、ご存知なんですけど、まだまだ知られていないですよね。だから、私たちの活動としては、「自分たちはこんなことをやってるで」ということを自ら発信していかないといけないと思いますね。

 企業の方が来られるのは、ほとんど「雇用率が未達成で、どうしたらいいでしょう」という相談なんですよ。「じゃあ、どんな仕事ができる人が必要なんですか」とお聞きすると、「いや、とりあえず1ポイント、ひとり欲しいんですけど」みたいな、「おいおい、人間は数字かい」みたいな相談が多いんです(笑)。プロップに来た人は、「こんなことができる人が欲しいんだ」という相談をして欲しいですね。

 職安ではそういうことを言ってはいけないんです。私はそれが不思議でしょうがないんですけど、とにかく本当にいいマッチングができるプロップでありたいし、企業の方に率直に要望をぶつけていただける関係でありたいと思っています。

 いま「国からの補助金はもらってない」というお話がありましたけど、プロップは第二種の社会法人なので、行政の補助はない。自力でがんばるNPOなわけです。NPOのおもしろいところは、行政の補助金が入っていないから、縛りもない。綱渡りのような毎日ですけど、自分たちがやりたいことをやれるところが、おもしろいところです。

 実はつい先週から、プロップのホームページで「チャレンジドの在宅ワーカー募集」コーナーを設けました。これ、ほんの数年前だったら、労働省からお叱りを受けることだったんですよ。ですけど、いまは在宅就労の支援機関という認定を、一円のお金ももらってませんけど(笑)、そういう認定をいただきましたので、こういうことを始めました。いや、われわれは、お金もらえるよりも、認知してもらえたらいいんです。そういうわけでワーカーの募集をしていますので、戻られましたら是非ホームページをのぞいていただきたいと思います。

 プロップでは、応募してくださった方のスキルをきちんとチェックして、企業や行政からのお仕事をきちんとこなせるチームを組んで行きます。そうすることで、企業や行政から「こういう仕事は彼らにやってもらおう」と思っていただける、そういう流れができるのかなと思っています。

 だから、単なる職業紹介を超えたことが、インターネットでできる。しかも、NPOだからできた……。行政の方、ごめんなさいね。でも、それを最後にシステムにしていただくのは、行政のお仕事だと思います。ですから、「企業はどんどん期待をかけてください。行政はどこかでこれを社会システムにしてください」ということですかね。

成毛さんの写真
大組織も個人も対等の時代・・・

【成毛】 国、自治体、企業、NPO。これらが対立する構造がずっとありましたけど、それではものごとが前に進まなくなってきた感じですよね。そして、大きな組織も個人も対等に考えないと無理だぞという感じも受けております。

 大臣、政治家の御立場から、そのあたりの変化をどうご覧になりますか。

【坂口】 これまで「これは役所の仕事だ」「役所にしかできない仕事だ」と思って来た仕事の中に、ITの進歩等によって「これは民間レベルでやっていただける」ということが、ずいぶん出て来たと思うんです。その一つが、雇用の問題に現われていると思います。そういうところはどんどん民間の皆さんにお願いしたほうが、お仕事ならお仕事を探すことについても、もっときめ細かくできるかも知れない。

 そういうことは、もっと民間がおやりになれるようにしていくことが大事で、それを各分野で行っていけば、もっと小さな政府になるでしょうし、皆さんからいただく税金も、これまでのようには要らなくなる。民間の皆さん方からすれば、いままで公がやっていたことをやることによって、新しい雇用の場を作れる。そういう方向に、時代は大きく動いている。

 それを動きやすくしているのは、やはりITに間違いないだろうと思っております。

【成毛】 今度は知事にうかがいたいと思います。坂口大臣がおっしゃったことの最先端を行っているのが、自治体レベルでは三重県だと思うんです。三重が最先端になれたのは知事が偉かったんですか、議会が偉かったんですか、それとも選んだ有権者が偉かったんですか(笑)。

【北川】 最近、変わった知事が三重県以外でも出て来ていますよね。某東京都とか、某長野県とか(笑)。これは本人の個性もさることながら、ITがもたらしている状況変化だと思っています。

 いままで県は、県民の皆さんに対する説明責任を、ほとんど果たして来なかったんです。8割は国のほうを向いて、補助金がどうか、制度がどうかということで、国に対して説明責任を果たすという、そういう流れがあったと思うんです。

 ところが、地方分権一括法によって、「国の下請け機関ではありませんよ」ということになりました。この4月には、国で情報公開法が施行されますが、私どもはすでに情報公開条例を持っております。ですから、私どもは主権者である県民の皆さんに説明責任を果たさざるを得なくなっています。国が間違っていたら国に対して訴えるといったことができるようになってきています。

 いままでは国の言うことを来ているのがいい知事でしたが、もう「国とは対等協力の関係で上下主従ではない」という立場を貫かないと、知事が勤まらない。そういう風に状況が変わって来たことで、変わった知事が生まれているわけで、これからどんどん変わった知事が出て来ます。ITで情報が相互にリアルタイムに飛び交いますから、それに対してキチッと説明できることがとても重要、ということが言えると思います。

 また、今日も三重県議会の方が何人かおいでいただいていますが、議会の情報公開度は日本一です。私は議会の皆さんに毎日叱られておりますが、こうあるべきだということを非常に前向きにおっしゃっていただいています。私は県議会の皆さんの要望に答えられなければ、186 万の県民の方々の要望にはとても答えられないと思いますが、その県議会が執行部より日本一に近いか日本一になっていると思います。「進んでいる」とおっしゃっていただけるのは、そういうことだろうと思います。

 もうひとつ、「対立の時代ではない」というお話がありましたが、私と職員組合の皆さんの関係も対立の関係ではありません。県民サービスをしていく生産活動においてはまったく対立する必要などない。そういうわけで「労使共同委員会」というものをやっておりますが、ろえで生産性は格段に上がったと思います。

 したがって、行政は知事・執行部だけで成り立っているわけではなくて、県民の代表の県議会の皆さんや職員の代表の組合の皆さんとコラボレーションができて初めて、県民の皆さんに対して開けたや県庁ができる。そういうことがスムーズに回転しはじめております。やればやるほど問題はいろいろ出てきますが、全体最適に向けた動きは回転しはじめたと思うんです。

 回転すればするほど、実は私は叱られることになるんですが、その叱られる期間を短くして叱られる度合いを大きくすれば、世の中は早く変わるわけです。日本中がそういう風になれば、「21世紀、確かに日本は立ち直ったな」「閉塞感がとれたな」ということになると思うんです。

 問題を隠して先送りではなく、出して解決のほうが、早いわけです。

【成毛】 もう一つ知事におうかがいしたいんですが、チャレンジドの人たちがITで力をつけたとしても、必ずしもITがすべてではなくて、そのネットワークを使ってモノをつくったりするわけですね。みんながみんなソフトを作るわけでもホームページを作るわけでもない。そうすると、そのIT以外のベンチャーの育成や外資系企業の誘致というような政策も、ないと困ると思うんですが。

【北川】 いろいろな誘致の仕方があると思います。企業を誘致するのも有効な手段だと思いますが、企業は来なくても仕事を誘致するという道があります。企業も仕事も来なくても、人材を誘致するという道があります。企業の誘致、仕事の誘致、人材の誘致、それぞれ区分けして、すべてやる必要があると思います。行政は理想ばかりでもいけませんので、どんどんそういうことをやっていこうと思っています。

 企業を誘致する上でいま一番いい手段の一つは、ホームオフィス、在宅勤務です。実は、三重県庁は在宅勤務を認めています。企業立地課で、「県庁に来なくてよろしい。成果だけで計ります」ということで、東京に2名おります。彼らは知事の決裁や上司の決裁をほとんど受けることなく、ひとりで一から十まですべてやります。だから、外の人にしてみれば、たらい回しがないわけですね。そのやり方を外資系企業が見て、「日本の行政もここまで来たか」と注目しています。それで最近、外資系が3社、三重県に来てくれましたが、今年中にあと数社、必ず来てくれると思っています。

 これは、ITがもたらした在宅勤務を認めたことによて、勤務形態が変わたことによて、企業誘致がしやすくなたということです。

 もう一つ、圧倒的な大容量・大高速の光ケーブルが敷設されますと、それに向かってデータセンターなどがドッと押し寄せてくれるだろうと期待しています。従来の「土地が安い」とか「水があります」というのも重要なインフラですが、それに加えて太い情報ネットワークの張られていることも、とても重要なことだと思います。

 県ではいま、新たなIT産業が来られるときに、高等学校や実業のさまざまな学校がどういうカリキュラムで勉強すれば、その企業が採用してくれるかということを、教育委員会と相談しています。いま、「こういう人材がいれば必ず行きますよ」という企業さんが多いですね。人材なんです。

 かつて札幌と私どもとコールセンターの取り合いをして負けたことがあるんですが、なぜかというと、札幌は100 万都市ですから、英語の話せるコールセンター要員200 名を集めることができたんです。三重県はそういう人材が点在していて、なかなか1ヶ所に集めるということができなかった。そういう意味のインフラも、県は整えて行かないといけない。

 外資系企業の人に「三重県のホテルはフロントに英語のしゃべれる人がいないので困ります」と言われたことがあります。「部屋でパソコンが使えませんね」ということも言われます。こういうことも全部直さないと、なかなか地方分権は進まないなと、そう感じています。

【成毛】 札幌出身としては複雑な気持ちで聞いておりましたが、実は札幌だけではなくて、沖縄とか、いま意外なところが伸びているんですよね。

【北川】 札幌、沖縄、あるいはオーストラリアとか。いま電話の番号案内は、ほとんどオーストラリア経由で答えが返って来ているわけですよね。ですから、やはり世界と競争できるような地域社会を作って行かないと、なかなか新しい企業は来て来れない。こういうことですね。

【成毛】 そうですね。非常におもしろい時代になったと……。

【北川】 大変な時代ですよ(笑)。

【成毛】 ただ、「日本はベンチャーが全然出て来ない」という話がありますけど、現実には戦前・戦後を通して見ますと、日本ほどベンチャーを出した国はないんですね。

【北川】 あっ、ちょっとご紹介しておきますが、成毛さんには三重県のベンチャーを見ていただいています。この前、三重県のベンチャー企業の審査をしてくれました。で、何が一位になったかというと、生まれた豚のオスメスを判定する技術を持った会社でした。どういう選択だったのか、委員長さんにお聞きしたいんですが(笑)、三重県のベンチャーのことをちょっとご紹介していただけませんか。

【成毛】 実は優れたベンチャー企業を育成するという目的で、賞金が500 万円用意されまして、「200 万円をIT企業の第1位に、100 万円を非ITの第1位に、以下は50万円ずつぐらい」と、県のほうと割り振りを決めました。三重県で募集したんですけど、三重県以外の方からも相当応募がありました。3分の1ぐらいが三重県以外からの応募でした。中には、アメリカからの応募もありました。すごいなと思いますしたが、その方は、実際にアメリカから来られて、プレゼンテーションをなさいました。

 で、審査の結果どうなったかというと、ITベンチャーでも三重県の中にすごい方が何社もたったんですが、最後に残ったのは豚の妊娠判定法でした。極めてユニークで、なおかつ全世界的に競争して勝つ可能性が高いと思ったんです。その結果、どの程度の就労を生み出すかまでは算定できませんでしたが、「とにかく、これは本当にいい」ということで、当初のITと非ITの賞金枠を取っ払ってしまおう、賞金も1位が200 万円のところを240 万円にしてしまおうという、ワケのわからないことに……(笑)。

【北川】 この場に県会議員さんもおられるので、後で怒られるので、もうそのあたりでやめておいていただけると……(笑)。

【成毛】 まあ、そういうわけで、いずれにしましても、ベンチャーはこれからいっぱい出てくると思います。ベンチャーは地域を選びません。マイクロソフトが生まれたのはシアトルで、ニューヨークでもなければシリコンバレーでもありません。日本の昔のベンチャーである松下電器は大阪ですし、ダイエーは神戸、京セラは京都です。日本を代表するような企業で、東京で生まれたというのは、さほど多くはないんです。そういう意味で、大いに期待できると思うんです。

 さて、ナミねぇ、NPOや障害者支援の面でも、これからベンチャー的な要素が出てくるんだろうと思うんですけど、どうなっていくでしょうか。また、大臣には、障害者支援という面では医療の重要な要素だと思うんですけど、これがどうなっていくのか。この2つの面について、お二人にひと言ずつおうかがいしたいと思います。

ナミねぇの写真
プロップは「支援団体」じゃなく「みんなでやろう!」組織・・・

【竹中】 よくプロップは「支援する団体」と誤解されているんですけど、そうじゃなくて、「みんなでやろう」という人が集まっている団体なんですよ。だから、プロップに何か助けてもらうつもりで来た人は、「えっ、助けてくれるんじゃないんですか」ということになるんです。

 私は、娘のこともあって、30年ぐらいチャレンジドの世界を見て来たんですけど、役所や企業の縦割りよりもこの世界の縦割りの方がずっとすごいという面もあります。障害の違いによって団体が違って、その間で喧嘩していたりする。それこそ「私たちの障害こそ一番不幸だ」「いや、私たちこそ」みたい話もあった。そういうのを見ていて、「役所の縦割りを責めている場合じゃないぞ」と。

 プロップの場合は、最初からそういうんじゃない活動を目指して来ました。「自分を高めたり自己実現をしたりして自分が変わり、社会も変えていこう」と。そういう気持ちを持った人が集まって、「一緒にやっていこう」と。「障害者はかわいそうだから助けて上げよう」じゃなくて、障害を持った人たちの中にはエネルギーが眠っている。そのことに気づいた人が集まって、力を発揮していこうという活動なんです。だから、既存の社会福祉法人とは全然違う。

 プロットはいままでとは違うひとつの実験プラントで、「『その実験に参加してみよう』という人だけ集まってくれたらええやん」「こんな選択肢はなかったんだから、ひとつぐらいあってええやん」ということで始めました。で、そうやって始めてみると、「こういう風に枠を取っ払って目的で集まるのって、いままでなかったね」と。

 実は、ADA=障害を持つアメリカ人法は、アメリカのチャレンジドが障害の枠を取っ払って、自分たちも社会の中で力を発揮したいと訴えたことから、大統領の政策になって制定されたものです。そういう、チャレンジド自らが変わって一歩を踏み出すということを、プロップも踏み出したんです。

 ですから、プロップに何かしてほしいと思う人にとっては苛酷に思えるかも知れないですけど、プロップで挑戦して自己実現に向けて進んでいく人を見て、それに続く人が現われるという流れにはなっています。

【成毛】 わかりました。で、そこから話は飛んで恐縮ですが、大臣に、厚生労働省ですから厚生のほうについても聞いておきたいということで、先ほど申し上げたように医療のことをお聞きしたいと思います。

【坂口】 医療のほうにもIT革命はかなり影響を与えるだろうと思います。正直なところ、どういうところにどういう影響を及ぼすか、私には計り知れないところがありますが、一般的なことで言えば、離島などの医療は大きく変わります。いままではそこにいる先生や保健婦さんが診るだけだったのが、今後はそこで取った心電図やレントゲン写真を専門の先生に送って、すぐに診断を得られるようになる。そういうことになるのは当然です。

 それだけではなくて、それぞれの病院で診察を受けたその時のデータを一つのカードに入れて、そのカードを持って別の病院にも行けるという時代にもなってくる。個人情報保護との関係でいろいろ難しい面はありますが、全体としてはそういうことになってくると私は思っています。

 そして、一番大きいのは、ITによる解析力の進歩によって遺伝子に関する研究が大きく進歩することだと思います。いままででしたら5年、10年とかかっていた研究が、何ヶ月という時間でできるようになる。そして、たとえば「あなたの高血圧は、これこれの遺伝子が原因ですよ」ということがすぐわかって、それに合わせた治療ができるようになってくる。そういうふうに、どんな病気でも原因別にすぐに治療が可能になるという方向に、これから凄まじい勢いで進んでいくと思います。

 そうなると、さらに長生きできるようになるわけですね。いま平均寿命が80歳ぐらいですけれども、これからオギャーと生まれた人の半分は、少なくとも85歳まで、ひょっとすると90歳まで生きるかもしれない。そして、85歳の人の85%は自立している。そういう時代が、すぐそこまで来ていると思います。

 そういう意味で、IT革命はわれわれの健康管理にも大変に大きな影響を与えるであろうと思っています。

【成毛】 しかし、そうなると凄いでしょうね。80歳を超えた人間がいっぱい町を歩いていて、よく見るとそれは自分だったりするわけですね(笑)。そうなると、作るもの、売れるものが全然変わっちゃうでしょうね。

【坂口】 ベビー用品よりも、60代、70代の“青年”の皆さんが使うものが売れるようになってくるんじゃないでしょうか(笑)。

 そういう意味では、経済効果も非常に大きいわけです。高齢化時代は医療に大変なお金がかかるというのも事実ですが、そのお金以上に、高齢者層が生み出す産業の活力というものがあると思います。ですから、これまでのような公共事業に投資するよりも、高齢化社会に投資するほうが、より大きな経済効果を生み出す。雇用も生み出す。そういうわけで、高齢社会は明るい社会になると、私は思っています。

【成毛】 本当に同感いたします。高齢者問題も障害者問題も環境問題も、いままでずっとコストだと思われて来たわけですね。実際、行政も企業も、たとえば環境問題のためにお金を使って来ました。ところが、たとえばいま中国では大気汚染がひどくて、重慶では住民の3分の2が何らかの器官障害を持つようになったと言われます。で、これを何とかしなければいけないといった時、日本の技術が一番いいわけですね。それで、日本の環境問題の会社が、いま絶好調なんです。

 そんな風に、ビジネスにとってコストだった環境対策が、どんどんプロフィットに転換し始めているんですね。ですから、先に高齢化社会を迎える日本が、高齢社会向けの製品やサービスを作っておくと、これもやがて世界全体に貢献できるようなるかも知れないと、ぼくは思っています。

 まあ、何でもかんでもポジティブに考えるのは、ちょっと躁状態ではなかろうかと思わないではありませんが、その躁状態をずっと維持されておられる知事のご意見をうかがいましょう(笑)

【北川】 20世紀は、環境と経営は対立するものだという認識で、ずっと来ました。とにかく大量にモノを作って豊になろうよということで、大量に生産して、大量に消費して、大量廃棄まで行っていた。再生するよりも新しく作ったほうが安かった。

 ところが、昨年、循環型社会の促進基本法という法律ができまして、これからは再生品のほうが安くつくという社会に必ず変わります。また、変わらないといけないと思うんですね。21世紀は、環境と経営は同軸で行く。いま日本の優れた企業は、ゴミをまったく出さないゼロエミッションまで行っています。環境に配慮しない企業や団体は存続しえないというところまで来ています。もちろん地方公共団体もそうです。いまや「環境に配慮したほうが得だ」「その方が儲かる」という時代に突入したと思います。

 環境が悪くなっている対応するという「環境対応」から、最初から環境が悪くならないようにするという「環境保全」に変わる。さらにもう一歩進んで、環境に配慮したら必ず儲かるという「環境経営」に変わる。そこまで行かないと、地球温暖化防止・京都会議で決めた目標はとても達成できません。

 また、チャレンジドの問題でナミねぇなどと一緒に勉強して来たことは、何でもかんでも官が面倒見た場合の費用と、仕事に就いて自己実現していただくのをサポートする費用と、どっちが高いか。必ず後者のほうが安くついて、効果は高いと、私は思うわけです。したがって、福祉行政も、医療費が30兆円を超えて毎年1兆円増えているということであれば、このまま行ったら皆が生活できなくなることがわかっているわけです。そうしたら、行政のありようを全部ひっくり返して考えてみる必要があります。その変えるところで、いま自治体も民間の皆さんもご苦労いただいていると思うんですけど。

【成毛】 時間が迫って来ました。この11月にチャレンジド・ジャパン・フォーラムの第7回が開かれます。今日はそのキックオフですので、これを機会に皆さんにお願いしたいのは、お1人10人の方にこの話をしていただきたい。

 11月のチャレンジド・ジャパン・フォーラムをいいものにしたいということで、今日は大臣にもお忙しい中をおいでいただきました。最後に、大臣には、このチャレンジド・ジャパン・フォーラムに何を期待されているか、知事とナミねぇには、どうするつもりなのか、ひと言ずつお聞きしたいと思います。では、まず大臣から。

【坂口】 北川知事とナミねぇというお二人がおやりになることですから、多分すごいことになるんだろうと(笑)、思っております。なかなか私の想像できないところもありまして、今日のこの場へ参加するように言われましたときも「私がしゃべらせていただく時間はあるんですか」と(笑)。つまり、お二人だけがしゃべって、私に回って来るのかどうかを一番心配したわけですけど、司会者のご友情で私もだいぶしゃべらせていただきました。

 最初のご挨拶でも申し上げましたが、これはチャレンジドの皆さんだけの話ではなくて、日本の構造を変えていく大変に大きな課題を提起されていると、私は思っております。したがって、「われわれは日本全体の改革を発信しているんだよ」というところを明確にしていただいて、特徴ある三重県大会にしていただけたら、大変ありがたいと思っております。

 まあ、私はその頃まで持ちますかどうか(笑)。私は客席から拝聴することになる可能性もありますので、その時はどうぞよろしくお願いいたします(笑)。

【竹中】 いやあ、坂口さんは、本当に率直な方ですね(笑)。

 さて、重度のチャレンジドが家族の介護あるいは社会的なサポートを受けながらも働けるということは、女性や高齢者、あるいは家族を介護している側の人など、いろんな人が働ける仕組みにつながると思うんです。ですから、私たちはチャレンジドを救済するためではなく、その人たちの力がいまこそ必要だということで活動しているんです。

 私の娘のような存在は本当に100 %保護が必要ですから、いわば純粋な金食い虫、介護食い虫なわけです。人間として、そういう人を切り捨てるのか、それとも人間として認めて生きていってもらうのか、日本はどっちなのか。そのためにITをどう使って行けるのか。まさに、いま分かれ目の時代だと思うんです。

 そのことを、今年のCJFではもう一歩踏み込んで、三重という場所で皆さんと一緒にやりたいなあと思っています。

 去年はアメリカの国防総省の方をお招きしました。実は国防総省の中には、最も重度の方に最先端の技術を駆使して国防総省あるいは他のいろんな機関で働けるようにするという部署があるんです。そこの理事長の女性をお招きしてフォーラムを開きました。

 今年は大統領が代りましたけど、そのセクションの予算が倍ぐらいになって、すべての省庁に対してチャレンジドがもっと働けるように、強力に後押しできるようになったと聞いています。ですから、その一層パワーアップしたアメリカの取り組みの紹介なども、プログラムに入れられたらいいなあと思って、準備を進めています。

 11月にはぜひ、今日に倍する皆さんのお越しをお願いしたいと思います。

【北川】 最初に成毛さんがナミねぇとの関係をお話になりましたが、あるとき成毛さんは、「実はわれわれ健常者が障害者の皆さんに励まされることのほうがはるかに多いんだ」ということを、さりげない会話の中でされました。

 成毛さんはITの勝者、一人勝ちしたわけですから、恐らく資産は何百億円だと思いますが、昨日も札幌から夜遅く名古屋に着かれまして、それから三重県に入っていただきました。ナミねぇの一声でここまで来られたということです。

 そうさせたのは何かということを、成毛さんは我々の会議でお話になりました。戦後は貧しかったですから、豊になることが政治・行政の目的だったと思う。「あの人はなんぼ儲けたんや」あるいは「予算をいくら取ってきたんや」、そういうモノサシで人の価値を見て、世の中が動いて来た。その結果、たとえば我々には考えられないような17歳の少年の問題も起こって来たかも知れない。そんなことを、いろいろ教えられているんだと、成毛さんはお話になったわけです。

 行政も、やはりもう一度立ち止まって、よく考えなければいけない。前回のCJFのキャッチフレーズは「レッツ・ビー・プラウド」、つまり「誇りを持とうよ」「尊厳を持って生きようよ」というものでした。やはり、皆が社会参加できるような社会を作り上げていくことこそが、成熟した日本社会における行政の役割ではないかと思います。きざっぽい言い方をして申し訳ないんですけど、そういうことをこの三重県で是非お示ししたいなあと思ってCJFの開催に立候補し、それぞれの皆さんにご理解をいただいて、11月1〜2日に志摩スペイン村で開催という運びになったところです。

 社会を部分的に変える彌縫策ではなく、全体を変える。全体最適社会を作っていくということをしないと、うまくいかない。そういうことを感じているところで、私たちもまだまだ不慣れなことがいっぱいですから、試行錯誤の連続だと思いますが、ぜひノーマライゼーション、皆が社会参画できる21世紀をこの三重県から。こんなことを思わせていただいていますので、ご列席の皆さんや多くの県民の方にこの考えをご理解していただいて、この輪が大きく広がるような、そんな年にしていただくことを心からお願い申し上げます。

 今日、坂口厚生労働大臣がいま一番忙しいときにご列席いただいたことは、私たちにとっては望外の喜びであり、地元ゆえに甘えたお願いをして恐縮しておりますが、今後とも格別のご指導をいただければありがたいと思っております。本当にありがとうございました。

【成毛】 私の拙いコーディネーションで話は飛び飛びになりましたけれども、それぞれのお話の中身は濃かったですし、率直でしたし、裏表のない本当のお話を聞けたと感謝しております。最後に大臣、国会でもぜひこういう討論を期待いたします(笑)。ということで、この討論会を終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

(TEXT 中和 正彦)


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