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脳性麻痺の重い障害を持ちながら、俳人として、作家として、障害者問題を語る知的リーダーとして活躍してこられた春兆さんは、今年76歳になられます。 春兆さん、ホームページに挑戦 竹中: 今日は、春兆さんが特別養護老人ホームでインターネットをお始めになったという話を聞いて、「それはすごい」と思って、ぜひお話をうかがいたくて、神戸からやってきました。 花田: ぼくはいま、陶俳画をやっています。 竹中: トウハイガ、ですか? 花田: はい。陶板で、たとえば兜を作って焼いて、板に貼り付けて、その板に墨で俳句を書くんです。だから、陶俳画。 竹中: はー、なるほど。(春兆さん持参のスケッチブックを見て)この絵に描いてあるのを、陶板で作るわけですね。なるほど、なるほど。新しい色紙みたいな感じですね。落したら割れるけど(笑) 花田: 思いっきり割れる(笑) 竹中: でも、これって誰が考えたんですか? 花田: ぼくです。 竹中: もう作品はあるんですか? 花田: もうじき、できます。 竹中: すごいですね。でも、こういうことをやるということは、焼き物をやるお友だちもおられるんですか? 花田: いや、ここに入所したら陶芸教室をやっていて、それで思いついたんです。 竹中: 「トウハイガ」というのは、音で聞くと何のことかピンと来ませんね。漢字で書けばわかりますけど。“春兆オリジナルグッズ”とか言って、ホームページでも作って紹介して、販売したらどうですか(笑)。 花田: ははは(笑)。どこかで個展でもやろうかと考えてはいます。それと、ホームページは、いま準備しています。 竹中: えっ、ホントですか。 花田: この『しののめミニ通信』(春兆さんたちのグループが折々の話題を綴って自ら発行している刊行物)などは、印刷して郵送していたんだけど、面倒くさい。それもあるけれど、もしかするとぼくの知らない人でも物好きに開けて読んでくれるかもしれない。そんな期待もある。もちろん郵送を止めるわけにも行かないけれど。
竹中: ああ、それはいいですね。プロップも、昔はまず機関誌を出して、それをホームページで紹介していたんですけど、今はまずホームページに載っけて、それに新しい原稿を入れて機関誌にまとめている。 花田: はい。やっぱり、危なっかしくて見ていられないんでしょう(笑)。
竹中: ホームページって、けっこう作る人の個性が出ます。だから、春兆さんが手伝ってくださる方に伝えて、どれだけ春兆さんの個性が出るか、楽しみです。 花田: パソコンはお手の物かと思ってた。なんだ、それじゃあ、ぼくと同じだ。もっと早く会えば良かった(笑)。ぼくも、パソボラに囲まれているから、いかにもパソコンをやれるみたいだって言われるんだ。 竹中: でも、それでいいんですよ。要は、これやって、あれやってって言える口があれば。だって、自分でやってもダメなもんは、できる人にやってもらった方が早い。私なんか、うまく動かないとパソコンに蹴りを入れる。そうすると、周りが「お願いだから、ナミねえ、やめて」と止める。「じゃあ、あんた、直してよ」。これでOK(笑) 花田: やっぱり、ボスだ(笑) 竹中: いや、誰も私の言うことに従ってやっているわけじゃなくて、放っといたら壊しちゃうから止めに入るんです。 俳句は好みで選べばいい
竹中: ところで、私は俳句を勉強したことがないんですけど、俳句教室とかありますよね。習うと上達するものなんですか。 花田: まあ、ある程度は教わっても、それから先は自分が持っているもの次第です。 竹中: 「障害を持つ人の俳句」という特別なジャンルがあるわけじゃないですよね。 花田: はい。障害を見つめることに重きを置いている人はいますけど。 竹中: 春兆さんはどうなんですか。 花田: やっぱり他の人がやることをやっていたんでは、おもしろくないから、自分を見つめることが多かった。
竹中: ということは、俳句をお作りになることとご自身の有りようが、本当に一体だったんでしょうね。それに、俳句って、短い中にも作者の人生観が出ますよね。「ああ、これはこの人の性格が出とるわ」とか感じると、ごっつう怖い感じがします(笑)。 花田: 好みに合うか合わないか、じゃないかな。 竹中: はあ、好みでいいんですか。実は私は絵が好きで、よう見に行くんですけど、そういう話をすると、「ナミねえが絵なんか見て、わかるんか?」と聞かれる。それに対して、私は「好きな絵と、嫌いな絵と、どうでもいい絵があるだけや」と言っていたんですけど、そうですよね。やっぱり好みですよね。 花田: だって、決まった物差しなんかないんだから、好きか嫌いかで分けるしか、しょうがないでしょう。だから、初心者に選ばせると、初心者の作品を選ぶ。 竹中: えっ。そうですか。それは、初心者としての感覚に、初心者の作品がわかりやすく入ってくるからですか。 花田: そう。 竹中: 春兆に俳句を師事したい人がオンラインで集まるというのは、どうですか。 花田: ぼくは、教えるガラじゃないな。ぼくがやっていることを、勝手に盗んでいけばいいの。 竹中: 実は私の母方の大叔母が、中村汀女さんなんです。子どもの頃、お会いしているんです。だから、私にもちょっとぐらいは俳句の才能があるかと(笑)。でも、アカンのやね。磨けば磨けるものですか? 花田: やる気がないでしょ(笑) 竹中: はっ、失礼しました(笑) 実は、プロップのホームページに春兆さんコーナーか何かを作って、俳句の発表やデジタル俳画との連携をやって、広まって行けばいいなと思っていたんです。でも、ご自分のホームページを作られるなら、ぜひリンクさせてください。いまは俳句よりエッセイや評論のほうが多いですか? 花田: そう。いまは、そっちのほうがおもしろい。 竹中: かなり反響がある? 花田: はい。だから、ホームページをやることにした。 竹中: 楽しみやね。反響も増えると思います。できあがったら、教えてください。 施設入所は仕事のため
竹中: いま国がIT戦略会議などを作って、IT革命を推し進めようとしていますけど、どうご覧になっていますか? 花田: 革命というのは、上からやるものじゃないでしょう。そういう意味で、おかしいね。情報は今まで上が流していたけれど、インターネットが情報の主流になると、そういうやり方が利かなくなるよね。横の情報が主流になるから、障害者だろうと何だろうと同じになれる。 竹中: そうですね。情報においては、障害の有る無しとか、男性か女性かとか、年齢とか、関係なくなる。そういう意味では、革命ですね。 花田: そう。 竹中: ワープロを使うようになられた頃といま電子メールを使うようになられてからでは、そのあたりの実感は変わってきましたか。 花田: やっぱりメールは早くて便利です。これでホームページを始めたら、完全にインターネットにハマり込むと思う(笑)。 竹中: こういう施設のベッドサイドで“IT基地”を作るご苦労を記事に書いておられましたけど、周りの皆さんの反応はどうですか。あまり歓迎されていない? それとも、おもしろがられてる? 花田: 人によりますね。 竹中: 「私もやりたい」というような人は出てきましたか。 花田: まだ、そういう人は。
竹中: プロップのチャレンジドは、インターネットを駆使してコミュニケーションを取ったり仕事をしたりしていますけど、その他の日常生活では何らかのサポートの要る人たちが、たくさん居ます。だから、家族の介護力が落ちた時や、介護ができなくなった時には、施設に入ることになるかもしれない。
花田: いま、「ここに入る人は介護が必要な人」イコール「何もできない人」ということになってしまっている。その「イコール」が困るんだよね。事実、イコールの人も多いとは見えるけれど。ぼくも、こういう施設にいることで、そういう見方をされることがある。 竹中: それは見識だと思います。こういう場所に入って、インターネットを使って外の社会と交流したり、仕事をしたり、自分のやりたいことをやる。そういうことを、誰かがやらなければいけないと思っていました。でも、まさか春兆さんのような年齢の方がおやりになるとは思いませんでした。すごいなと思いました。私は、それで今日、ここに来ることになったんです。 能力主義はあっていい 花田: 内閣府の障害者対策推進本部の担当官がここに来た時、「こういうところでもITを使えるようにすべきだ」という話をしたら、「こういうところは社会資源なんだから大いに使わないといけないですね」と言われました。「わかっている人は、わかっているんだな」と思いました。 竹中: でも、わかっている人はいても、なかなかそれが政策に反映されていかないのが現実ですね。 花田: そう。だから、たとえば今、2005年に向けて障害者も介護保険に組み入れることを検討しようという話になっているけれど、いまの介護保険でやられたら、介護は得られても、社会活動ができなくなってしまう危険性がある。
竹中: 介護保険は、自立のための制度ではないですからね。だから私は、介護を受けながら社会参加しようとする人の問題が、介護保険で何でもかんでも解決できるという期待は持っていません。 花田: ぼくは不精で縦ものを横にもしない。ましてや横文字の英語を縦の日本語にするなんてことやれるわけが無い(笑)。語学も外国事情もぜんぜん駄目。ADAにしても詳しくない。ただ、公的な社会保障を要求している連中までADAに期待しているんで、直感的に、そんなに甘くないぞ、と言ったまで。生来の天の邪鬼が顔を出したんだな(笑)。ただ、能力のある人が能力を発揮できないような仕組みもある。それは、どうかと思う。だから、能力主義と言われる部分はあっていいと思う。
竹中: その「能力主義」ですけど、どうも一般には「自分だけ伸びればいい」という人ばかりの社会になるようなイメージがありますよね。でも、私は「本当の意味で能力のある人は、絶対に自分のことだけを考える人ではない」と思っているんです。 花田: これからは、自分を発信する人が増えると思う。 ぼくは孫悟空!
花田: 実はこの施設で、最初は電動車いすの使用が認められませんでした。いわゆる社会防衛的な考え方で、「周りの人に対して危ないから」と。「近くを通るだけでも、よろける人がいるから、見合わせてくれ」と。
竹中: やりまんなぁ(笑) 花田: 孫悟空みたいなものです。孫悟空はきんと雲と如意棒がなくなったら終わりでしょう。ぼくにとっては、電動車いすがきんと雲で、ワープロが如意棒です。これを取られたら、ただの石猿、つまり石ころになっちゃう。 竹中: なるほど。孫悟空ですか。でも、結局、お釈迦様の手の上だったりして(笑) 花田: そう。だから、女性には勝てないんだ(笑) 竹中: はは(笑)、オチもつきましたね。でも、春兆さんは、さっき言った「介護を受ける人間がどこまで仕事や社会への発信ができるか」という問題について、ぜひぜひ身をもって発信するリーダーになっていただきたい。エッセイとか俳句とか、そういう知の部分で発信できる方なので。 花田: もうこれだけ生きてくると、「あとが怖いからやらない」というわけには行かないな(笑)。 竹中: いま75歳でしたね。おいくつまで生きたいと思われます? 花田: 葛飾北斎が「80歳になって、ようやく仕事がわかった」と言っている。だから80歳以上は生きてみたい。 竹中: その馬力の源はなんですか? 花田: だって、ぼくが電動車いすで自由に動けるようになったのは50歳。それまで家にいたから、エネルギーがいっぱいたまっているんだ(笑)。 竹中: まだ25歳なんだ(笑)。75歳だけど50歳からだから。 花田: そういうこと(笑) 竹中: でも、それだけ自由に動けるようになることで変わるんですね。 花田: そう。ただ、その前の50年間に本を読んだことなども、いま生きている。 竹中: その50年間は、どんなだったんでしょうね。 花田: すごくおとなしい、真面目な人間でした(笑)。 竹中: ということは、今はおとなしくないし、不真面目ということですね(笑)。 花田: 不良。だから、ナミねえちゃんが寄ってくる(笑)。
竹中: ははは、それで引き寄せられてしまったんか(笑)。これを機に、いい連携をさせていただけたらと思います。 花田: どういうことをすればいいか、言ってくれたら、やります。 竹中: ほんまに? 嫌々おっしゃってるんじゃないですよね?(笑) 花田: いや、女性に弱いから(笑)。
竹中: ありがとうございます。嬉しいです。最近、誰もそんなふうに言うてくれへん。女性扱いしてくれへん(笑)。 花田: 障害者が自分たちの文化を再確認するというようなのは、どうですか? 竹中: いいですね。では、どういう形でやるか、今後、具体的なお話をさせてください。また一つ楽しみができました。今日はどうもありがとうございました。 (TEXT 中和 正彦) |
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対談の中で春兆さんがおっしゃっていた、ホームページが完成しました。 http://www5c.biglobe.ne.jp/~shuncho/index.html
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