2000.08.30(1日目)
セッション2
「ライファー教授のWBLを生かす」

総合司会
 清原 慶子:東京工科大学メディア学部教授、CJF副座長

ナビゲーター
 須藤 修:東京大学教授、CJF座長

パネリスト
 ラリー・ライファー:スタンフォード大学教授
 清家 一雄:重度四肢まひ者の就労問題研究会代表
 安延 申:スタンフォード大学日本センター所長


通訳 アンジーさん、ライファー教授、総合司会 清原 慶子さん
通訳:アンジーさん(左)、
ライファー教授(中)、
総合司会:清原 慶子さん(右)

清原 慶子:ライファー先生ありがとうございました。では、ライファー先生の講演を基礎にセッション2にいきますが、その準備を壇上でする間、また私のほうからインタビューさせていただきたいと思います。

 京都、東京、日本の中でもコラボレーションされていますが、日本にはたびたび来られるのでしょうか?

 ……ライファーさんは非常に明瞭に発音されますので、初対面の方はまさか聴覚に障害をお持ちだとはわからなくて、私もそうでしたが、どんどん話しかけてしまいます。しかし、日本人の英語ですし、高い音でないと届かないので筆記していただきました。

ラリー・ライファー:今回は最初ではありません。1984年に最初に来ましたが、その時は、障害者支援技術の学習方法について来日したんですが、いまは毎年2回ほど来ています。アシスティブ・ラーニング、グローバル・ラーニングなどのことで来ています。

清原:それでは、セッション2、ライファー教授の「Webベースラーニングを生かす」をはじめます。最初にナビゲーター紹介します。須藤修さん。そして先ほど記念講演していただいたラリー・ライファー教授。横で筆記していただくため山本さんにも残っていただきます。お隣が、重度四肢まひ者就労問題研究会の清家一雄さん。そして安延伸さんです。

東京大学教授、CJF座長 須藤 修さん
ナビゲーター
東京大学教授、CJF座長
 須藤 修 さん

須藤 修:興味深い話をしていただきました。私が昨年5月にノルウェーで初めてお会いしたときには、Webベーストラーニングについて発表していただきました。これもヨーロッパで非常に関心が高く、たとえばイタリア代表はEUでの取り組みを発表してくれました。ディスカッションが活発に行われたのが印象に残っています。

 今回は、ライファー教授はWebベースト・ラーニングに焦点を当てるというよりも、どこにいてもコンピューティングできて、みんながバリアなく使えて、そして能力を伸ばすにはどうするか。そういう研究開発に焦点を当てて話していただきました。

 Webベースド・ラーニングについても、もう少し焦点をあててお話ししていただこうと思いますが、その前に清家さんと安延さんの2人に自己紹介をしていただき、感想もお話いただこうと思います。

 スケジュール的には、その後でライファー教授に答えていただき、それからもう少し専門的な話、あるいは自分の関心から清家さんと安延さんに質問を投げかけていただきたいと思います。もちろん、ライファー教授がおっしゃったように忌憚のないところをお願いします。それを踏まえて、またライファー教授に応答していただき、その後で会場からのご質問を2〜3承りたいと思います。質問したい方は質問を用意していただれば、と思います。それでは、清家さん。

重度四肢まひ者の就労問題研究会 代表 清家 一雄さん
重度四肢まひ者の就労問題研究会
代表 清家 一雄さん

清家 一雄:いま紹介いただきました、清家です。今回はプロップ・ステーションの竹中さんに呼んでいただき光栄です。皆さんの前で話せて、ありがたく思っています。

 最初に遠くからで見にくいと思いますが、写真を2枚見せたいと思います。まずエド・ロバーツさんです。もう一人は、ジャスティン・ダートさん。この2人にアメリカでお会いしましたが、とても影響を受けました。一人は自立生活運動を始めた人。もう一人はイコール・オポチュニティとエンパワメントという概念をを打ち立てた人です。

 Webによるチャレンジドの活動ということで、「ワーキング・クォーズ」のホームページを見ていただけたらと思います。これが「ワーキング・クォーズ」のトップページです。ジャスティンさん、ADAの功労者です。今日のプレゼンテーションでは、出てくることになっています。これを下にスクロールしてください。これは、いま私が使っているウィンドウズのPCです。もう少し下げてください。

 今日お話したいのは、技術の進歩が障害者の生活に与えた影響ということで、まず、それをひろげてください。20世紀後半にメディカル・テクノロジーというか、メディスンがとても進みまして、それまでは死んでいた人たちが死ねなくなりました。

 ロバーツさんは、家のなかでこういうのにはいってます。これはキャスリンといってヒューストンでベンチレーターをつかっています。病院の顧問弁護士として働いています。みんなお会いした人です。バークレーで生活していたダイアンさんというひとです。シュミレーターという横隔膜を刺激して腹式呼吸をさせる。次はウィリウムズさんといって夜間にベンチレーターをつけています。日本の大阪の吉田さんです。やはりベンチレーターですね。ほっぺのわずかに動く筋肉で信号を取り出して、コンピュータ操作します。次はマサヒロウエダさん。かれはベンチレータだけでなく、食事が経管栄養になります。この前、亡くなりましたけど。

 こういう人たちが、死ななくなった日本、USA、カナダ、ヨーロッパでいったいどうしていくのか。ライファー教授が最後に締めくくられたように、障害者にとっていちばん大事なのはマインドの問題です。最後はマインドの問題になってくると思います。一番大事なのが自己決定と自己責任なんです。ただ、これをやりなさいと言っても、トレーニングできてない人にはできません。いい判断を行う能力、合理的な判断能力が必要になってきます。これを身につけるものが、ライファー教授のいうコミュニケーション、マインドに栄養を与えるコミュニケーションだと思います。これがいちばん低コストで、自宅、病院、施設のなかにいて、ベッドからなかなか出られない最重度の障害を持った人たちにいちばん有効なものだと考えます。こういうところでテクノロジーが一番重度の人たちのマインドに栄養を与えるコミュニケーションになっていければ嬉しいと思います。

須藤:どうもありがとうございました。清家さんも研究者としてユビキタスな環境をつくる研究をしているということです。続いて、安延さんについてですが、つい先頃まで通産省でIT政策立案の第一線で活躍されていましたが、今はライファー教授の同僚です。

スタンフォード大学日本センター所長 安延 申さん
スタンフォード大学日本センター所長
安延 申さん

安延 申:須藤先生からご紹介いただきましたが、厳密には私はまだライファー教授の同僚ではありませんで、明後日、先ほど紹介があったスタンフォードの日本センターの研究部門の所長を勤めることになっています。ライファー教授とは初対面ですし、いまライファー教授のプレゼンテーションを伺っていて、「そうか、来年はこのシステムを、竹中さんと一緒にトライアルをやろう、と一生懸命やることになるか」と思っていました。

 須藤先生からお話があった通り、1ヶ月前まで通産省の情報関係の政策に携わっていました。さきほどコーエンさんのプレゼンテーションにもありましたが、私が当時から非常に思っていたのは、既にいろいろなところで言われていますが、日本はこれから15年後には間違いなく世界で一番の高齢化社会になります。これからその15年、20年という期間で見ていくと、多かれ少なかれ、皆が障害を抱えることになる。実は私自身も一度網膜剥離をやっているので、今後15年、20年経つ間にはどこかに支障が出る可能性が高いんです。その日本社会で、ディスアビリティを持つ人が社会活動、経済活動に参加するときに、技術が強いサポート役になれるのではないかということで、通産省時代は情報機器のアクセシビリティ向上させるなど、技術開発を応援していました。

 他方、難しいといいますか、そうなったときに大事なのは、いま清家さんやライファー教授がおっしゃた、結局はそれだけ多くの人が、それこそ20代、30代の健常者に比べると、何らかの問題を抱えるようになったときに、コーエンさんのスピーチにありましたが、チャレンジドのあらゆるケースを想定して、技術や社会のメカニズムを用意しておけば、軽度の人、あるいは老人などいろいろな人が利用可能になる時代が間違いなく来るわけです。あとでご質問しますが、スタンフォード大学で行われている技術開発、プロジェクトの実施に対する経済、企業、社会、政府の支援、そういうものが、まだまだ私がやっていたことに比べて差があると認めざるをえない。

 そういう意味で、今日ライファー教授がおっしゃったマインドを持っている方、清家さんのおっしゃったマインドを持っている方が誰でも利用できるという意味で、インターネットは大きな可能性を持っていると思いますので、後でそのあたりのことをライファー教授に質問したいと思います。

須藤:では、お二人の話についての感想をライファー教授に伺いたいと思います。

スタンフォード大学 ラリー・ライファー教授
スタンフォード大学
ラリー・ライファー教授

ライファー:まず、通産省ですが、このような支援的技術については、日本でも素晴らしいものがあると思っています。ですから、私もそういうものを見に日本に来たわけです。アメリカと日本との間では面白い差があります。まず研究所や大学などでやり、それを現実世界に出していく、こういったことはアメリカではあまりいい仕事をしていませんが、日本よりは少し活発にやっているかも知れません。

 この数年、スタンフォードのラーニング・ラボでやってきたのは、私がいままで見てきた中で、最もラジカルなやり方です。どのクラス、どの生徒、どの教授を取ってみても、みんなが実験的に、何が有効であるかないかを見ながら解決方法を見つけられる。こういう態度こそが、国防総省では「善良であれ、強靱であれ、迅速にやれ」というものに合うかも知れません。

 グローバルに物事に取り組むには、相互の違いが重要かもしれません。スウェーデンは先進的な社会制度や技術を持っていますが、私たちがスウェーデンと一緒にやるときも、面白い違いが見られます。彼らは最初にプランを立てて行動しますが、シリコンバレーではまず実行。それから計画を立てて、その後に勉強するという感じで、まったく逆の過程が見られます。だからこそ、私どもは共同してやる必要があると思うのです。どちらが良い悪いではなく、違いがあるということです。そこでお互いが補完的役割を果たすことができます。

 それから、重度障害者と一緒に働くということですが、これは本当に世間の人たちによく知ってもらう必要があります。たとえば、知的な能力はあっても身体的な障害があるという人はいいんですが、知的障害がある人には、人工的な知能を作ってあげることはできません。

フォーラム風景 実はアメリカで興味深いことが見られます。四肢麻痺の70%が男性で、しかも20代までになる人がいます。その人たちは、教育課程が終わらないうちに障害を負い、その後に50年もの生産的な年代が待っているということです。こういう人たちに対して、もっと注意を払わなければいけません。

 それから、Webベースの学習方法については、ノルウェーの会議で重要なメッセージが発せられました。「もし大学がやらないのであれば、企業がやるだろう」ということです。シスコシステムズから人が来ていましたよね。同社は、シスコアカデミーという学校を作ったそうです。14ヶ月の中で会社が1800人のためのオンラインの学習システムを作ったそうで、これはすでに始まっているらしいです。私のやってるプログラムは800人から1200人に増えただけです。ですから、われわれ学問の世界にいる人間は、彼らと手を携えて、彼らの持っている技術を取り入れて、チャレンジドのために取り組んで行かなければいけないと思います。

須藤:安延さん・清家さんから、さらに突っ込んだご意見はありませんか。

清家:2000年4月から、日本では介護保険が始まりました。これは高齢者の世界を変えるものだと思います。障害者にも2種類います。日常生活動作が可能な人と不可能な人。この2種類の障害者がいます。後者、つまり他人の手助けがないと生きていけない人が、障害者の中に300万人います。マーケットとしては狭いですが、この人たちは生きていくのが非常に大変です。マインドもペッチャンコになっている人がいます。生まれた時からそういう人もいますが、障害を負ったばかりの人は本当にペッチャンコになっています。

 こういう人たちのマインドを回復し、成長させる必要があります。その時にWebは非常に有効で、厚生省が出している介護保険のWebサイトは非常に役にたつサイトだと思います。こういうものが、施設や病院や家で寝ている障害者や高齢者にとって、非常にいいインフォメーション・リソースになると思います。

 こういうものを、へこたれずにサーチして、より良い決定を探していく能力をつけていくこと。そういう方法を編み出して行けば、それは高齢社会に対して提供していけます。こういう役割は、これはマインドとシンキングが残っている障害者や高齢者の得意とする仕事ではないかと思います。

安延:プロジェクト・ベースト・ラーニングの手法は、障害のある無しに関わらず、いろいろな人がこれから必要としていく手法だと思います。具体的に、スタンフォード大学が自分のプロジェクトとして企業と結んでやるのはわかりますが、それ以上、社会一般に他の目的の教育でも進んでいるのかどうか。あるいは、スタンフォードとして、そういうことを進めていく用意があるのかどうか。そこをおうかがいしたい。

ライファー:スタンフォード・リサーチスクールについて説明します。ここでは正しい方向に行くために仕事をしたいのですが、大規模ではやるのは不可能です。

 それから、ベーシングリサーチをしているところがあります。だいたい5年から20年の基礎研究です。15人がWebラーニングがより迅速化させるための研究をしています。

 それから、障害を持った学生のためにのオフィスがあります。さっきの国防総省のプログラムと似ていますが、もっといい仕事ができると思っています。現在提供しているサービスと研究をミックスすることでよって、より良いサービスを学生に提供できると思います。遠隔学習は非常にうまく行っていて、他の大学とか企業と提携してやっています。

 ですから、大規模にやるために、企業とパートナーシップを組んでやっています。先ほどのコメントと関連しますが、企業のほうがわれわれよりもスピードが速いと思います。

須藤:まだまだ突っ込んで聞きたいことがありますが、残り時間が5分です。ここで会場からのご質問を受けます。

会場 女性会場・女性:札幌で障害者と高齢者のためのパソコンセミナーを開いているNPOの者です。今回は北海道庁から障害者の情報化に関するユニバーサルデザインの調査の仕事をいただいて、その一環で来ました。

 ライファー教授のお話をうかがって、距離が問題になっていないというのに励まされました。敢えてうかがいますが、仕事のパートナーが遠隔地にいることが弊害になることがあるかと思います。その具体的なお話と、距離の弊害を超える工夫がありましたら、お願いします。

ライファー:質問が全部ここに出ているかどうかわかりませんが、2つコメントがあります。まず、時差のほうが、物理的な距離よりも問題です。たとえば、セミナーでは、事実や知識を伝えるのには問題ないのですが、感情的なつながりを作るのが大変です。きちんとした関係を築かないで距離を隔てて事実や知識だけをやりとりする、あるいは知識だけを共有するというのは、うまくいかないんです。

会場 女性会場・女性:この共同学習のためのプログラムは、英語だけですか? それとも多言語で行われているのでしょうか?

ライファー:音声は来ているんですが、反響などで聞き取れませんでした。でも、キーワードが2つ聞き取れました。英語を話さない人との共同研究の方法ですね。

 ここで皆さんを説得したいと思うんです。私どもの研究では、世界にまたがっている研究で、しかも言語が共通でない研究のほうが、実は同じ部屋で同じ言語を使っている研究よりも優れた結果が出たということがあるんです。どうしてでしょう。

 どうしてかというと、多分、相手をよく知らず、言語も共通でないので、コミュニケーションを慎重にしなければならない。たとえば書いたりして明確にして、それから他の人が何を考えているか仮定を立てながらコミュニケーションするわけです。これは共同研究の良いやりかたです。ですから、距離があることによって余計な仕事はしなくても良いのですが、正しいやり方でコミュニケーションを取るわけです。一方、お互いに言語が同じだと、簡単に臨んでしまって、後で何を話したのか頭に残らない。これは本当に驚くべき結果だったんですが、言葉が違うということは手助けになるんですよ。

 それから、興味深いのは、一人の言語が判る人が他の人を助けてあげるかもしれない、そうしたチームの役割が出てきます。前は、ビジネス上の理由だけでチームを作りましたが、今は本当によいチームを作ろうとして、それでビジネスをやる。

須藤:もう時間が過ぎております。清家さんと安延さんに最後のコメントを30秒か1分ほどいただいてこのセッションを終わりたいと思います。

清家:今日は呼んでいただいて光栄です。「ワーキング・クォーズ」のページを見ていただけたら、ありがたいです。

安延:私も、清家さんのお話、ライファーさんのお話、ある意味勇気づけられました。今は民間人ではありますが、地方自治体に関わって、知っている人もいますので、私もむしろメンバーに加えていただいて、インターネット、ウェブなどの新しい技術を、より多くのスピリッツをもった人が自分の可能性を実現する助けになる、そのお助けができたらと思います。

須藤:ありがとうございます。ライファー教授の話にもありましたが、ラーニング、エデュケーションの概念が、これから根本的に変わると思います。それはチャレンジドの人たちにとって非常にいいことであり、大学や高等教育機関に行きたいけど行けなかった人にも、非常にいいことになると思います。そのとき、企業が積極的に動くでしょう。敵の本丸は大学かもしれません。ただ、大学に中にも僕らのように自己改革をしようとする人間もたくさんいます。バリアになろうとする人もいます。でも、スタンフォードとかミュンヘン大学とかMITとか慶応大学とか東京大学とかで、それをぶち破ってチャレンジドの人たちと一緒に変えていこう、大学をもっと開かれたものにしようとしている人間がたくさんいるということをご理解いただきたいと思います。

 では、このセッションはこれで終わります。ご静聴ありがとうございました。


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