作成日 1999年9月吉日

 
 
 
     
   
  http://www.ascii.co.jp/ascii24/issue/990517/topi02.html
writing by 樋口 由紀子
 
 
 
     
   4月17、18日の2日間にわたって神戸市で開催された、プロップ・ステーションの社会福祉法人化を記念したシンポジウム。開催2日目の18日には、特別鼎談“コンピュータとチャレンジド”、チャレンジド・アート作品の発表、シンポジウム“高齢社会は怖くない!”が行なわれた。  
 
シンポジストとして参加したチャレンジドや各界の支援者、スタッフ全員がス テージに上がった様子(シンポジウム全体のエンディングで)
 
     
  不況で変わる企業と顧客  
   まず最初に、プロップ・ステーション代表の竹中 ナミ氏が、マイクロソフト(株)代表取締役社長の成毛真氏、通産省電子政策課課長の安延申氏を迎える形で、特別鼎談“コンピュータとチャレンジド”が催された。安延氏は、情報化の流れとともに企業の考え方が変わってきた理由を、ここ数年の不況にあるとみる。企業の冷静な判断で、無駄な部分、削除する部分がインターネットやデータベースで置き換えられるようになった。そのため企業は、障害者、健常者を問わずコンピューター技能を持つ者を受け入れるようになってきたという。
 
 一方、成毛氏は、アメリカのマイクロソフト社で実際行なわれている“テレセールス”を例に、数年前は受け入れられなかった電話による営業が、明らかに成果を上げている現状を紹介した。この“テレセールス”は、顧客に対し製品の状態や評価を尋ね、その結果、よい反応があったところへ営業担当者を派遣するもの。
 
 在宅で、多くの障害者によって行なわれているという。成毛氏はこの成果によって、企業ではなく顧客が変わってきたと実感していると語った。
 
 しかし、企業や顧客のこのような急速な変化に比べ、行政の動きの遅れを感じるという安延氏。遅れの原因でもあるルール(条例や制度)の改正や新たな制定こそが、今後の行政の役割だと位置付けた。
 
 次に、“プロップ・バーチャル工房”のメンバーのパソコンを使ったアートが紹介され、その後は前日同様、座談会が催された。テーマは、“高齢社会は怖くない!”。ナビゲーターは、1日目のシンポジウムと同じく竹中氏と、チャレンジドの吉田幾俊氏が務めた。
 
 
竹中氏は「コンピューターを使って弱者を助けるのではなく、チャレンジド自身 が社会を構成する一員として誇りを持って社会参画することがプロップ・ステー ションの活動」だと語る。
 
     
  高まる行政の意識と高齢社会への対策  
   第1部では、“高齢社会はチャレンジド社会”をテーマに、労働省障害者雇用対策課課長の村木厚子氏、羽曳野市長の福谷剛蔵氏、チャレンジド・プログラマーの山崎博史氏、チャレンジド・アーティストの貝本充広氏、プロップ・ステーションのシニアメンバー米島実氏がシンポジストとして参加した。また、兵庫県知事の貝原俊民氏がビデオでコメントを寄せた。
 
 村木氏は、労働省のパソコンを使った在宅就労の支援について報告。具体的に計画されているのは、障害者のための500台のパソコンと購入と貸出、在宅就労に関するホームページの開設、入門用ビデオの制作などだ。
 
 これは、詳細が決まる前に予算5億円を獲得した稀な例で、村木氏は、この行政の取り組みに注目する自治体やNPOも少なくないと語る。羽曳野市もその1つで、いち早く高齢者、障害者に配慮をしたまちづくりを行ってきた自治体だ。同市市長の福谷氏は、先進的に取り入れている市役所のバリアフリーの模様を紹介した。
 
 兵庫県の貝原知事はビデオで登場。マイナスで捉えられがちな高齢社会だが、知恵や経験を持った高齢者によって社会全体が成熟した組織に変わる可能性もあると語る。貝原氏は、それを実現させるため、“生きがい創造開発”や“福祉まちづくり条例”にも力を入れていれていることをアピールした。
 
 続いて“高齢社会は怖くない”と題した第2部では、大阪市立大学教授の中野秀男氏、マイクロソフ ト(株)代表取締役社長の成毛真氏、通産省電子政策課課長の安延申氏、神戸大学工学部部長の北村新三氏がシンポジストとなった。今後の高齢社会において、コンピューター、情報通信の進化をいかに受 け入れるかについての議論がなされた。
 
 
     
 
通常ルール作りが先に行われる行政の取り組みに対し、実験的な試みとしてス タートした事業に、意欲を高める労働省の村木氏   プロップ・ステーションでパソコン技術を習得した米島氏は「パソコンが高齢者 の孤独を解消してくれる」と語った。
 
  ネットワーク間のトラブルへの対応  
   大阪市立大学の中野教授は、インターネットにおいて、実際にけんかやいがみ合いが起きていることへの懸念を表明した。ネット上のコミュニティーに言葉をナビゲートする管理者的な役割を果たす人や仕組みが必要ではないかと述べた。これについて成毛氏は、インターネット上のトラブルが現実社会よりも大きく取り上げられることを指摘。逆に、高齢者にとって、特に困難な遠隔地の人とのコミュニ ケーションが可能というインターネットの利点を挙げた。
 
 成毛氏は、テレビの画面を見てメニューを選択するEPG(エレクトロニックプログラムガイド)の技術によって、今後急速にテレビのコンピューター化が進むと予想する。成毛氏は、「視線、音、身振り手振 りによる入力が可能になれば、ハンディキャップがある人たちの悩みはかなり解消されるだろう」と、前向な見解を示した。
 
 一方、神戸大学の北村教授は、コンピューターは、情報空間と脳の空間の間を相互作用する機械だと定義し、精神活動のためにも有効だと語る。通産省の安延氏は、例えば後継者が少ない伝統工芸を、ソフトウェアで残す時、優秀なプログラマーが何人いても、高齢者の経験や知識が必要だと述べた。また、社会から退いている高齢者の技能や情報を使ったシニアベンチャーをソフトウェア開発により支援するという通産省の意向も伝えられた。
 
 企業や行政のさまざまな材料や支援の提供によって、実験プランが進められている。2日間にわたって開かれたシンポジウムのナビゲーターを務めたチャレンジド、吉田氏。氏の、「自分が実験材料になりたい」という言葉は、会場に訪れた多数の参加者の印象に深く残ったことであろう。
 
 
     
 
地域の情報化やメールでコミュニティーを作るセミナーに携わる大阪市大の中野 教授は「高齢者には段階を踏んだパソコンの教え方が有効」だと語る。  

 「既に企業内で行われているテレビ会議も、次第に家庭に普及されるようになっ ていくだろう」と成毛氏

 

[up]  [next]  [previous]


TOPページへ