必要な人に必要なサービスを

第10回リハ工カンファレンス(大阪)に参加して


駅にエレベーターを!
福祉の街づくり条例を!大阪府民の会事務局長

尾上 浩二


 去る8月24日〜26日の3日間、大阪ピロティホールにて第10回リハビリテーション工学カンファレンスが開催された。
 今回の実行委員会事務局は大阪市立リハビリテーションセンター。そこの職業リハセン所長の関さんとは、以前から懇意にさせていただいている。そうした縁から「企画委員」として、リハ工カンファレンスに関わることに相成った。とはいうものの、リハ工カンファレンスは雑誌の報告記事などで知っているくらいで、参加は初めて。持ち前の「何とかなるさ」精神でお引き受けし、シンポジウムの司会等を務めさせていただいた。


■会場探し、交通アクセス面での苦労

  何度かの企画委員では、シンポジウムの進行など内容面での打ち合わせが中心の議題だったが、それ以外にも会場や周辺の交通機関のアクセスなども頭の痛い問題だった。
 大阪では、500名規模くらいの集会で、会場の使い勝手、会場周辺の交通アクセス、宿舎への移動、とすべての面で満足のいく会場が見当たらない。
 今回の会場となったピロティホールとアピオ大阪も十分な場所ではない。そのことは、リハ工カンファレンスの1ヶ月前にまったく同じ会場で、ある全国的な障害者団体の全国集会が開催されているので体験済み(?)。ただ、そのことを承知の上で、できる手だてをとるしかない。
 最寄り駅であるJR森ノ宮駅への介助スタッフの配置をするとともに、周辺のリフト付きバスの情報などを知らせることや、会場からの移動ができるだけ楽な宿舎を押さえてもらうことを事務局にお願いした。
 ふと5年前に大阪で開催した自立生活問題研究集会の準備を思い出す。その時も、事務局として会場探しで困ったのだった。 その後、 大阪府「福祉のまちづくり条例」も制定され駅舎や地下街などの改善は一定進んできているが、「まだまだな」との思いを強くする。

■リラックスした雰囲気のカンファレンス

  さて、初参加の私は、例年との比較はできないが、いわゆる「学会」的なイメージとは異なったリラックスした雰囲気が好ましく思われた。
 とくに、印象に残っているのは、丸一日ぎっしり詰まった分科会の後、繰り広げられるナイトセッションだった。ジュースなどを飲みながら車座になっての自己紹介や活発な自由討論は、リハ工カンファレンスならではだろう。どこに議論が進むか分からないくらいにいろいろな意見が交される。障害者団体の大会の交流会に近い雰囲気だ。
 今回は開催地が地元の大阪なので、私の知人も参加し、当事者の参加者は多かったという。だが、このような雰囲気ならば、もっと気軽に参加できるのではないかと思った。とくに、情報機器関連の開発がテーマの一つになっている割には聴覚障害者など、情報コミュニケーションでの課題を持つ当事者の参加が少ないのが気になった。

■広がる「バリアフリーデザイン」重要性増す当事者参加

  私は、50近くある分科会の内、「交通アクセス」、「情報機器・アクセス」関連のテーマの分科会を選んで参加した。
 いろいろな福祉機器の開発のアイデアなど新しく知り得たことも多かったが、とくに、福祉機器や補装具などの開発に当たって、評価システムの確立が重要だとの感想を持った。
 様々な素晴らしい、あるいはユニークなアイデアが、利用者一人ひとりにとって手に入れやすく使い勝手の良いものとして具体化されるためには、生活場面で実際に使う当事者の意見をフィードバックしていくことが必要不可欠だ。
 今、「人にやさしい」「環境にやさしい」と、「〜にやさしい」という言葉がブームになるくらい、行政はもとより様々な企業活動でも取り入れられるフレーズとなっている。これは、もちろん、障害者の自立や社会参加に対する理解の広がりが背景にある。 その中で、 障害者、高齢者をはじめだれもが使いやすく配慮された「バリアフリーデザイン」「ユニヴァーサルデザイン」の商品がつくられ始めてきている。(詳しくは『「バリアフリー」の商品開発』日本経済新聞社刊を参照)
 だが、他方で、ブームに乗りかかっているだけの事例もある。例えば、JRは今春、タッチパネル式券売機を開発した。液晶表示で料金が表示され、タッチスイッチを押して目的の料金の切符を買うようになっている。しかし、このタイプのものは、現在の銀行の自動支払機と同様に視覚障害者や盲ろう者にとっては一人では使えない。それだけでなく、斜めになったタッチパネルは車いすの利用者にとっても別の段のスイッチを押してしまいそうになり、使いづらい。
 しかも、これが「人にやさしい券売機」のキャッチフレーズで開発されたことに、問題の深刻さが現れている。「人にやさしい」、その実、「障害者にきびしい」という、ブラックジョークのような話だ。
 これはあまりにもひどい例ではあるけれども、当事者のニーズや意見が適切に把握されず評価も受けずに開発が進められた場合、どこまで行ってしまうかの失敗例である。そして、すでに出来上がってしまったものの実際に使えないために、当事者からの抗議を受けて、再度開発し直さなければならないという「浪費」の見本でもある。
 様々な場面で「バリアフリーデザイン」「ユニヴァーサルデザイン」の開発が進められようとしている時に、開発段階から当事者のニード・意見を積極的に取り入れていくことの重要さを強調しておきたい。その方が、はるかに無駄なく、満足度の高いものが開発できることは、諸外国の事例や日本のいくつかの企業の実践例が示している。

■情報アクセスに向けて必要な法的・制度的整備

  今回のリハ工カンファレンスで、日本IBMでSpecial Need Support(SNS)の関根さんのレポートを聞くことができることも楽しみの一つだった。 昨年あるシンポジウムで同席し、そのサポートや障害者ユーザーからの提言についての考え方を聞かせていただいて以来、ファンの一人になった。
 今回も関根さんの報告の中で、SNSの活動実績や、インターネットを活用した「こころWEB」へ発展してきていること等をお聞きした。その中で、「私たちの所には、IBMユーザー以外の障害を持つパソコンユーザーからも電話が入る。そうしたユーザーをサポートするシステムを行政や様々な機関が協力できる体制が必要」という趣旨の発言が忘れられない。
 日本IBMをはじめ、個々の企業での努力を大いに期待しているが、それだけですべてをカバーできるものではないだろう。法的・制度的な整備や行政機関の協力など、社会資源の適切な配置と連携が重要だと思った。
 もちろん、そうした条件整備をただ待っているだけでなく、障害のあるユーザーがもっと増え、その中で出てきた問題や改善提案をフィードバックし、より使いやすくしていく努力が重要であることは言うまでもない。
 今、世を上げてのウィンドウズ95ブームだが、その中には「ユーザー補助」という障害を持つユーザーが使いやすくするための機能が内蔵されている。コントロールキーやシフトキーを逐次打鍵で入力できるようにするロック機能や、10キーでマウスの代替えをする機能、エラーの警告音を聴覚障害者向けに画面で表示するための機能などがある。いずれもウィンドウズ3.1ではフリーソフトなどでどうにか実現していた機能が、基本ソフトに内在化されたわけである。
 これも、法的な整備とともに、アメリカの障害当事者はキャンペーン活動など様々な活動を行ってきたことの成果である。

■南仏からやってきた障害当事者のまちづくり専門官

  今回のリハ工カンファレンスは10回目。10周年記念の特別企画として、一つは基調講演にフランスからのゲストを招いたこと、もう一つは、各省庁の障害者担当官を招き公開講座形式でシンポジウムを開催したことがあげられる。
 フランスからのゲストは、ジャン・ジャック・ヴィヤールさん。彼は、南フランス・プロバンス地方のニーム市に住み、市長室直属の専門官として「福祉のまちづくり」の推進に向けて政策提起と個々の建築物のチェックを担当している。大学時代に交通事故で脊損になり、車いす生活を送っておられる。
 今回の来日では1ヶ月間に渡って滞在され、大阪や京都、東京の町田市等日本各地を訪問された。大阪ではテレビ番組の取材でなんばの地下街を一緒に歩いたり、私の勤める中部障害者解放センターを訪問いただいたりした。
 基調講演では、1ヶ月間の日本滞在の感想を中心に、今後の日本でのまちづくりや交通アクセスの問題についての提言を話された。
 「なぜ、日本ではエレベーターの車いす対応ボタンは、いくつかあるエレベーターの一つにしか付いていないのか。費用的には変わらないはず。車いす対応ボタンは、すべてのエレベーターに設置されるべきだ」との日本の印象を語られ、よく観察されていることに感心した。日本の「少なくとも一つ以上」との「最低基準」が、ともすれば「一つ付けておけば十分」という「最高基準」として受け止められがちな風潮への批判だ。
 また、JR東京駅で荷物用通路を通らされたことに心底ショックを受けられたようで、「私たち障害者を荷物のように扱って平然としている」と厳しい批判を述べられた。
 そして、今後の課題として、政策決定者や関係者が直接障害者と対話をはじめ意見を反映させていく、「コミュニケーション」の重要さを強調された。
 いずれも、現在の日本の「まちづくり」をめぐる状況の核心に触れた提言であった。

■全省庁で始まった障害者問題への取り組み「必要な人に必要なサービスを」

  もう一つのシンポジウム形式の公開講座のテーマは「必要な人に必要なサービスを」。総理府、厚生省、労働省、通産省、郵政省、建設省、運輸省の各省庁の障害者関連施策の担当官7人と、リハビリテーション工学協会・理事であり、障害当事者でもある上村さんの各シンポジストから発言を頂き、会場も交えて討論を進めるという形で進行した。総勢8人の発言者で時間不足ではあったが、それでも会場からの熱心な発言もあり、非常に興味深い内容となった。(そうした皆さんの発言を司会として十分活かせたかは、さておいて・・・(^^ゞ)
 各省庁の担当者からの理念・施策の説明の後、上村さんからは、ご自身の福祉機器活用の体験を踏まえて、 People First(障害者である前に、 まず人間であること)の意義を理解し、積極的にそのニーズ・意見を受け止めてほしいとの提起を頂いた。
 私は各省庁の説明を聞きながら、あらためて1990年に制定されたアメリカ障害者法(ADA)の影響力の大きさを感じた。厚生省・労働省等以外の省庁で、障害者関連施策を扱う部署が設置されたのは、ここ3〜4年のことである。それまでは、運賃やNHK料金の割引など「割引」制度が中心で、それぞれの省庁の施策の中に障害者のニードへの配慮をどう盛り込んでいくかという視点に乏しかった。それからすれば大きな変化である。
 今回のシンポジウムで、全省庁で障害者施策への取り組みを確認できたことは大きな成果であろう。しかも、障害者施策に最近取り組みはじめた省庁は、理念的にもすっきりしている部分がある。
 会場から、「福祉機器を市場に任せると、障害者の手に届かなくなるのでは」と危惧する質問が出されたが、それを受けて通産省から出席された後藤さんは、「私たちが考えている“市場として成り立つ”という意味は、本当に障害者の皆さんが必要とされている機器が開発され、普及していくこと。ニードに合致しない商品は売れなくて当然。そして、そうしたニードへの配慮が一般商品の中に含まれていくことを期待しているのです」と、まさに、「ユニヴァーサルデザイン」の趣旨に沿った説明をされていたのが、非常に印象に残っている。
 今回のリハ工カンファレンスを通して、行政レベルでも企業レベルでも、障害者ニードへの対応が始まってきていることを実感した。と、同時に一抹の不安もある。現在の「福祉のまちづくり」ブームで、厚生省・建設省・運輸省など各省の予算項目に盛り込まれている。しかし、「縦割り行政」の弊害で当事者からすると移動の連続性に欠け使いづらい結果もまま見られる。障害者のニードに対する様々な分野での取り組みが落語の「ぜんざい公社」のように、細切れのサービスにならないとも限らない。社会全体での障害者問題への取り組みが始まっている今、「当事者とのコミュニケーション・参加」を実現しながら展開していくことができれば、私たち障害者の生活に目に見える変化が生まれるのではないかとの感想を持って会場を後にした。


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