レポート NPOの未来を探る

ジャーナリスト森川 明義


 未曾有の被害をもたらした阪神大震災。ここで私たちが分かったこととは何なのか。
震災支援を契機に情報を共有するシステムVCOMをインターネット上に作った金子郁容慶応大教授の言葉を借りれば 「これまで行政さえしっかりしていれば、たいていの出来事に対応できると思っていたのが実は幻想にすぎなかった」 ということだ。
このギャップを埋めたのが一人一人の個人によるボランタリーな行動だった。全国民の86%が義援金や 物資の提供などで協力、また、直接、現地で汗を流したボランティアも百万とも二百万人とも言われている。
この中で にわかに注目を集めた感のあるのが、NPO(非営利市民組織)。これまでも行政がなし得ない先駆的な事業で脚光をあび ることはあったが、実はその役割はふだんの生活の中にもあるというのを多くの人が知った。多様な社会の象徴でもある NGO/NPOを社会はどう支援し、関わっていけばいいのだろうか。

6月下旬から7月上旬にかけ、大阪市内で二回のシンポジウムが開かれた。


      

公開フォーラム「市民活動の制度を考える」

主催:市民活動の制度に関する連絡会

 6月24日、大阪YMCAで開かれた公開フォーラム「市民活動の制度を考える」は、市民活動の制度に関する連絡会の主催。同連絡会は、阪神大震災以降、ボランティア支援立法の動きが行政、政党レベルで急速に活発になってきたのを受け、国民的な論議を盛り上げるとともに、その成立過程に何らかの形で参画することが必要との考えで、4月に設立された。

 問題に関心を持つ、市民団体の緩やかな連合体で、「独立性・自立性を持った市民活動の強化のための制度的基盤の確立」という共通の目的を掲げている。  フォーラムでは初めに、同連絡会世話人の山岡義典さんが「いま、なぜ市民活動の制度的基盤の確立が必要か」を説明。

 前提として、「今、ボランティアにばかりに目が向いているが、必要なのは市民活動全体の強化。民間の市民団体が育たないと、ボランティアもパワーになり得ず、行政の手伝いばかりになる」と、大政翼賛的なボランティア支援論議に危惧を示した。  その上で、現行の制度での最大の問題点として「市民活動を行う団体が、権利能力を持てる団体として法人格を取るのが非常に難しいという点」を挙げた。

 現行民法による公益法人(財団法人、社団法人)制度は、税制面で優遇されるなど魅力ではあるが、その恩恵を受けるためには主務官庁の許可を受けなければならない。そのために、事業目的が制約されたり、人事への介入があったりするほか、民間には厳しい公益条件が付けられる。  その結果、役所は簡単に団体を設立できるのに対し、独立性の高い民間団体の場合は法人化は非常に困難ということだ。極論すれば行政にとって不都合と判断されれば許可されない。さらに、民間の主導では、資金面だけ見ても1〜3億円は必要と言われている。

 では、法人格を取ると、税制面以外にどのようなメリットが考えられるのか。  山岡さんはレジメを示しながら、法人格を持つことで

(1) 意識の上でも団体としての自己確立ができ、優しいがひ弱な団体から優しく逞しい市民団体に脱皮できる
(2) 電話を引く場合や銀行口座を作るときでも、代表個人ではなく団体として契約主体になることができ、社会的信頼性が高まる
(3) 国際的なNGO/NPOコミュニティへの参加が促進される(会社や任意団体では国際的に認知されにくい)
などの利点を示した。

 現行制度に変わる新しい非営利法人制度としてどのようなものが考えられるのか。山岡さんは6つの類型を提示した。

(1) 公益法人の制度だけを定めている民法を抜本改正し、公益・非営利法人を一つの法律で規定する。
(2) 現行民法に非営利法人の規定を別枠で追加する。
(3) 現行民法の公益法人規定を非営利法人規定に改正し、その上で新たな公益法人法を作る。
(4) 現行民法はそのままにして、新たに非営利法人法を作る。
(5) 現行民法はそのままにして、各省庁が個別に非営利法人法を縦割りで作る。
(6) 現行民法はそのままにして、一定の社会的活動の範囲内で省庁にとらわれない法人制度を作る。

 以上の6類型だが、民法改正がそう簡単でない(技術的にではなくこれまでの例から)ことや、改正しない場合でも新しく作る法律との整合性など、それぞれ一長一短があることも併せて説明された。

 これを基礎知識として会場参加者に提示した上で、既に改正試案をまとめている「NPO研究フォーラム」「市民公益活動の基盤整備を考える会」「市民活動を支える制度をつくる会(シーズ)」の3団体からそれぞれの以下の案が提示された。

★ 「NPO研究フォーラム」

 登録非営利法人の制度を創設する。会社の設立登記のように、法人名、代表者、所在地、活動内容を法務局に登録(登記)することで、ほぼ自動的に法人格を与える。さらにその枠内に、公益性や情報公開度に応じて、免税非営利法人、公益寄付金控除法人を作り、税制上の優遇措置を与える。その公益性は、行政から独立した組織「公益審査委員会」が審査する。

★ 「市民公益活動の基盤整備を考える会」

 現行民法を一部改正し、非営利法人制度(新たな財団法人、社団法人)と公益法人(従来の財団、社団法人)の二本立てにする。非営利法人は登記だけで設立できる。法人税での扱いは現行制度を援用しメリットがあるように定める。

★ 「市民活動を支える制度をつくる会(シーズ)」

 市民活動推進法を新たに制定する。登記により「市民活動法人」となる。要件としては発起人が10人以上で、非営利活動を定めることなど。情報公開などを条件に税制上の優遇措置を与える。

 3案は民法の改正が必要なもの、そうでないものと分かれたが、基本的には、登記だけで設立できる準則主義を採用。また、税制上のメリットを得るための条件として情報公開を規定している点が共通している。
 ただ、法人格が取得しやすくなることで、NPOが即座に資金が導入しやすくなり、活動が活性化するわけではない。
 「これからの市民団体に問われるのはオリジナリティ。寄付など一般からの支援、支持は法人格があるからといって自然に集まるのではない」「いいことをやっているから金は集まるというのは甘い。社会と活動をつなぐプログラム・オフィッサーの養成が必要」など、提案者側からもやや厳しい意見も出された。
 フォーラムでは、各案の具体的な検討、今後の戦略を決めるまでには至らなかったが、今後もこのような積極的な意見交換を続けていくことを申し合わせた。

 最後に、大阪ボランティア協会の早瀬昇事務局長が「我々は制度で支援してほしいのではない。今の制度が活動を妨害しているというのが制度をつくる基本的なスタンス。NPOオタクになるのはいけないが、活動に思い入れを持つことは大切。それが多彩な活動につながる。オタクになるならスーパーオタクになろう」と締めくくった。


21世紀地球市民フォーラム「市民活動を支える新しい社会像を目指して」

主催:社団法人 大阪青年会議所

 一方、経済界のNPOに対する関心も高まっている。
7月1日、大阪市中央区のコスモ証券ホールで、「市民活動を支える新しい社会像を目指して」をテーマに開かれた「21世紀地球市民フォーラム」は、若手経済人の集まりである社団法人大阪青年会議所の主催だった。

 初めに主催者代表の田所伸浩・同会議所理事長が「阪神大震災は悲しい出来事だったが、ボランティアの大活躍は大きな勇気を与えてくれた。そして、それを支える市民団体がいかに大切かがクローズアップされた」と挨拶。
三木秀夫・同フォーラム実行委員長も「地域団体とのネットワーク、社会開発には市民の自主的活動が重要になるが、それが21世紀に向けどう発達していくのか、市民がどう支えていけるのか」と、フォーラムの開催主旨を説明した。

 フォーラムでは大阪大学大学院教授で、NPO研究フォーラム会長の本間正明さんが「21世紀における地球市民社会とは」と題して基調講演、市民運動を支える制度をつくる会(シーズ)事務局長の松原明さんが、NPOをめぐる最近の社会状況を報告。続いて「市民活動を支える新しい社会像とは」をテーマにしたパネルディスカッションが行われ、より具体的に論議を深めた。
 本間教授は「阪神大震災でNPOの関心が高まっているが、一方的な賛美論だけでは問題の本質が見えない」と指摘。  サリンの事件で国民の関心が飛んでしまったことから継続性をどう考えるか、専門性の欠如、さらに制度化されているNPOがボランティアと被災者との仲介機能を果たせたのか、を検証する必要があるという。  その上で「活躍したのは本来の公益目的で認可されている財団などのNPOではなく、任意団体としてのNPO。このパラドックスをどう理解するか」と指摘する。

 ここでも問題点として挙げられたのは、NPOの設立が行政の許可になっている日本の制度。「NPOを官が許可するというのは民主国家では異常。行政が戸惑う中、ゲリラ的にやるのがNPOで、多元的なネットワークこそがNPOの命」と制度改革の必要性を訴えた。

 また、「主役である市民も立場を使い分けるなどの矛盾がある」という。問題が起こると行政に頼り、批判もする。それは傍観者的でもあり、もっと参加型の市民にならなければならないということだ。それが、ボランティアブームの次の段階に必要なことでもある。

 松原事務局長は「かつての市民運動は、公共的なことは官がやるとの前提で、要求、批判団体だったが70年代からは行政が対応できない問題が増えてきた。環境、エイズ、リサイクル、ライフスタイルなど、国家の利益を超える、あるいは個別的な問題で、それらに関わるのは市民団体が向いている」と、NPOを取りまく概略を説明。さらに、人、モノ、金といったNPOの経営資源を確保するために法整備が問題になっていること、また、行政との連携では「国連は予算の40%をNGO/NPOとのパートナーシップに使っている」と、その重要性を指摘した。

 パネルディスカッションは、サントリー文化財団の出口正之・事務局長をコーディネーターに、森信茂樹・大蔵省税制第二課長、木原勝彬・奈良まちづくりセンター理事長、竹中ナミプロップ・ステーション代表、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)海外事業担当の鶴田厚子さん、落語家の桂あやめさんの5人がパネリストとして登壇した。

 コンピューターを武器に障害を持つ人の就労を支援している、竹中さんは「障害を持っている人の中で、すべてにおいて保護の必要な人はごく一部。サポートがあれば就労のチャンスもあるし、納税者にもなれる。プロップとは支え合いを意味しており、障害を持っていても得意な分野で支える側になれる」と、活動の理念を紹介。
 阪神大震災に関しては、パソコン通信ですばやく安否情報が飛び交った例を挙げ「人とともに文明の利器を利用したネットワークもますます必要になってくる」と強調した。さらに、NPOが法人格を取りにくい現状で、企業から「法人格があればもっと助成してあげられるのに」と言われた例を挙げ、法人格がないことによる不利な実状を説明した。

 鶴田さんは、タイ、ネパールなどの農村部で子供の福祉を中心にした長期的なSCJの活動を紹介。その上で「阪神大震災など緊急対応が得意な団体もあるが、SCJは国内では未経験だった。スタッフがいてコミュニケーションがあるネパールなら可能だったろうが、神戸ですぐに態勢をつくるのは難しかった。しかし、専門性、長期的な視点も必要で、得意とする分野に役割があるのではないか」と話した。

 奈良で街づくり活動を16年続けている木原さんは、NPOの財政事情にも触れた。
「仕事は多く、休みは少ない。そして、給料も少ないというのが実情。自己実現欲が支えてくれるが、いつまでもこのままではいけない。若い優秀な人材に来てもらうためにも経済基盤の整備は我々の責務」と言う。
 そして政府によるNPOの法制化の動きが急速に進んでいることに危惧を示した。社団化した経験から「足下を見直すことも大事。制度ができても金がどんどん入ってくるわけではない。具体的な動きを地域で行い信頼されることが大切。今は、活動が地域に伝わっておらず、行政も知ろうとしない。積極的な情報発信が必要」と、実績作りの重要性を指摘した。「より簡単な制度は望ましいが、将来を決める大切な時期であり拙速は禁物」と言う。

   あやめさんは「全国でもベスト8に入る女流落語家(実は8人しかいない)」とユーモアたっぷりに自己紹介したが、震災では母親を亡くすという辛い思いもしてきた。
 その経験から「いろんなボランティアの方が来たが、最も大事だと思ったのは町内会のネットワークだった」と言う。NPOの制度化に関しても「暴力団なんかがすごくいいことをしようと団体をつくろうとしたらどうなるのか」と、基準の難しさを突いた。

 行政からの参加者である森信さんは「NPOにどんな資格を与えるかということと、税制でどんな支援をするかというのは別の問題。税金は国会で法律を作って使うのが大原則。寄付控除など個人のレベルで使途を決めるのはそれに反すること。NPOに税制がどう支援できるかは、大きな枠組みの中で考えなければならない」と、原則論を述べた。
 が、一方では個人的な見解として「これまでの日本社会は敷居を高くして、事前コントロールの下、有資格者を決めていた。だが、社会が多様化してこれまでのシステムがいろんな所でうまくいかなくなっている。もっと参入しやすくして事後にチェックする方が効率的になっている。NPOの問題もその転換という意味で象徴的」との認識を示した。

 最後に出口さんが「20世紀、人類には二つの夢があった。共産主義的平等と、ゆりかごから墓場までという高福祉社会。前者は崩壊し、後者も高齢化社会の到来で難しくなり、福祉国家観が変わってきた。その中で、クローズアップされているのがNPO。個人の公共的な活動と自己充足、その二つをつなぐ橋としてのNPOも出てきた。行政、企業、NPOの関係はより複雑になっているが、三者がザックバラン、率直に話していくことが21世紀を考える第一歩」とまとめた。


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