「寝たきり老人」の
いる国 いない国 ―真の豊かさへの挑戦― |
朝日新聞論説委員 大熊由紀子 著 |
ひょんなところで出会った本。私は放射線取扱主任者研修会に参加していた。「寝たきり老人」とはまったく関係ない集まりだった。そこで大熊さんの特別講演「『寝たきり老人』と放射線」を聞いた後、会場での限定販売で大熊さんの著書を買い求めた。
「北欧の社会と出会ったとき私は悲しくなりました。
私たちの国と違いすぎるのです。
そこでは、老いた人も、障害を持った人も、
誇り高く生きていました。
なぜ? どうして?
それが知りたくて、私は歩きました。
海外の国々を、そして私たちの国を。
やがて、この思いを私一人のものにしておいてはならない、と
思うようになりました。
その思いが
この本になりました。」 巻頭より
タイトルからもおわかりのとおり、老人問題をジャーナリストの鋭い目でとらえられている。しかし、老人問題にとどまらず、全編、障害者問題と並行して語られていた。これは、著者が“「障害者」の身の上と「寝たきり老人」の存在の深い関係に気づいた”と語っているくだりから納得した。
全体は、3部構成になっている。「寝たきり老人」が社会問題で大きく取り上げられていた1985年頃、日本より高齢化の進んだ国々に答を求め、旅立った結果、著者が得た答とは? 「寝たきり老人」はおろか、「寝たきり老人」の概念そのものがなくなった(あるいは、なくなっていたというべきか)。
第一章では、スウェーデン、デンマーク等の国々にどうして「寝たきり老人」がいないのか、その秘密が明らかにされている。
第二章では、「ノーマリゼーション」の言葉の意味からその奥にある思想まで、やはり、老人問題から障害者、さらに医療の問題等を例に挙げ、解説されている。冒頭の例を引用すると、「知的ハンディキャップをもった子どもたちのスウェーデンの政策」の中に何度も「ノーマリゼーション」の言葉がでてきた。『知的ハンディキャップをもった子のための政策の基本は、ノーマリゼーションである。ノーマリゼーションは、この子たちのハンディキャップを無視することではない。』ここでいう「ノーマリゼーション」とは、「ふつうの生活ができるように環境を整える」ということ。
第三章では、「真の豊かさを実現するために」どうすればいいのか? 日本国内でのお手本の施設等が紹介されている。そして、「イタリア、スウェーデン、日本と、遠く離れているのに、また、ハンディの中身も違っているのに、どの人たちも試行錯誤の末に同じ道を探りあてているように、私には思えます。」「イタリアでは法律が、スウェーデンでは法律と税金が支援します。ですから、ごくふつうの施設、平凡な職員が利用する人の身になって、新しいことに挑戦できるのです。それも、さりげなく。けれど、私たちの国では、利用者の身になってなにか新しいことをしようとすると、法律や制度やしきたりが、壁となって立ちふさがります。」このくだりは、まさにプロップ・ステーション設立の準備を進めている私たちにぴったりあてはまっているように感じました。さらに「ハードル(壁)を乗り越えるには、涙ぐましい努力で資金を集め、ずば抜けたアイデアや説得力で法律の解釈を変え、無償の労働で資金不足を補うことが必要とされるのです。日本では『すごい男』『すごい女』にしか飛び越えられないのです。」(プロップでもスーパーマン、スーパーウーマンがいて、日夜がんばっています!)
全編、読んでいて泣きそうになったり、本当に泣いてしまったり。知らないことだらけの私は、大カルチャーショックを受けた。
読書感想文は、大苦手の大和なでしこですが、この本はひとりでも多くの方に読んでいただきたいと思い、立候補してこのコーナーを受け持つことになりました。
研修会の会場で購入した「「寝たきり老人」のいる国いない国」にはなんと、目の前で著者がサインを入れてくださった! 後で、握手もしてもらえばよかったと後悔しきりでした。
(ミーハーだなぁ…)
(大和なでしこ)