[up] [next] [previous]
  

介護保険情報 2004年7月号より転載

 

 
 

クローズアップ

 
 
「やりたい」ことを
実現する支援を
 
 

社会福祉法人プロップ・ステーション理事長
竹中 ナミさん
Takenaka Nami

 
 

 

竹中ナミの写真


チャレンジドが納税者に
なれる日本をめざして


 「講演会で『竹中先生』なんて紹介されると、最後に『ナミねぇって呼んでください』というの」
 茶髪の笑顔がはじけた。

 ”ナミねぇ”こと竹中ナミさんは、コンピュータを利用した障害者の就労・自立を支援する社会福祉法人プロップ・ステーションの理事長だ。財政審・財政制度分化会をはじめ、国や地方自治体の審議会・検討会の委員の顔も持つ。

 ナミねぇは、子どものころ家出を繰り返し、水商売に足を踏み入れたこともあった。15歳で同棲、16歳で結婚。高校は除籍処分に。そして24歳のときに重度心身障害の長女・麻紀さんを授かる。

 当初は「なんでや?!」と原因を必死で探ったが、ある時すっぱりとやめた。当時、サリドマイドが大きな社会問題になっていた。

 「原因があろうがなかろうが、障害を持った子どもは一定の割合で生まれる。また、薬など原因がわかり裁判を起こす人を見ていて、理解できる面もあったが、障害を否定し、プラスのこととは捉えられない気持ちも強いと感じた。自分にもし障害があり、『あんたの障害はマイナスだ』と決め付けられたら耐えられないと思った」

 その後、手話通訳、身体障害者施設での介護などボランティアを経験。障害者の就労支援を考えてプロップ・ステーションを任意団体として設立した。「プロップ」とは「支え合い」という意味だ。さらに、マイクロソフト日本法人の代表取締役社長(当時)の成毛真さんらの協力を得て、社会福祉法人格を取得。平成10年のことだ。

 ナミねぇは障害者のことを「チャレンジド(=The challenged)」と呼ぶ。「神から挑戦という使命や課題、チャンスを与えられた人々」との意味を込めた米国での呼称を使うことで「障害はプラス」と明言したものだ。そして「チャレンジドを納税者にできる日本!」だ。

 「納税できるほど稼げるかはわからない。だけど、チャレンジドは税金で保護される人とか、働かなくていいとか、決めつけるのは差別だ。チャレンジドが納税できるようにする意思を国家が持つことが重要。だから『日本』までつけている」

 


誰もが納得できる制度を
各層が議論する場が必要


 介護保険への評価を聞くと、「これまで家族・地域で抱えてきた介護を社会全体で支えることになったのはいいこと」と語るが、今後の介護・福祉を考えると、「『できること』『やりたい』に着目してそのための支援を行うという発想の大転換が必要」と強調する。

 たとえば、日本の車いすは、座位のまま運ぶという考えで作られているから、本人の状態を見ずに寸法だけ聞いて製作する事業者もいるという。その結果、長時間乗っていると姿勢が歪んだり、褥瘡ができたりする。

 「本来、外出したいなど本人が望む生活があり、それを支援するために車いすがあるはずなのに全く逆の発想でつくられている。事業者は補助金を受け取れるように国が定めた基準に合わせた仕事だけをしがち。だから姿勢が歪んだりする。欧米ではないこと。車いすを使ってどう社会参画をするかなど意識や制度の転換が必要だ」
 これは何も車いすに限ったことではない。「日本の福祉は”できないこと”に対して手当てする制度になっており、『あれもこれもできない』と支援を求めるモラルハザードが起こっている」と続ける。

竹中ナミの写真
■たけなか・なみ 1948年神戸市生まれ。重度心身障害をおった長女の療育のかたわら、身体障害者施設での介護などボランティアに従事。1989年に障害者の自立支援を行う「メインストリーム協会」に参加し、就労部門を担当する。1990年、コンピュータを利用した就労を支援する「プロップ・ステーション」を任意団体として設立。1998年、同団体の社会福祉法人格取得にともない、理事長に就任する。2002年総務大臣賞を受賞。著書に『ラッキーウーマン』(飛鳥新社)など。

 さらに、この状況を打破するために、「旧来の利害関係者が集まって議論していては、パイの奪い合いにしかならない。負担する納税者をはじめ、あらゆる立場の人が集まり意見交換をする。そして自分が障害をおったときのことを考え、誰もが納得した制度が作られる必要がある」と訴える。

 ナミねぇは、「ユニバーサル社会基本法案」(仮称)の検討を自民党の野田聖子衆院議員や公明党の浜四津敏子代表代行と、3年ほど前から続けている。障害者、高齢者、女性など全ての人が持っている能力を発揮できる社会の土台づくりを目指したものだ。年内にまず「宣言」をつくり、各省庁の大臣などに実行する施策をあげてもらうことを考えている。

 プロップ・ステーションからの提案が全国に広がることをめざし、ナミねぇの挑戦は続く。

(写真/竹林尚哉)

 



[up] [next] [previous]



プロップのトップページへ

TOPページへ