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日本経済新聞 1999年(平成11年)12月8日(水曜日)より転載 |
経済教室 企業、NPOなどと連携急げ |
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重要な「利害関係者」
価値の多様性、受容必要に 米ベントレー大学客員研究員:菱山 隆二
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NGOの抗議 シェルも揺らす | |
NGOは先の世界貿易機関(WTO)閣僚会議で一部過激な動きをみせたが、対企業を含め影響力が増しているのは確かである。 |
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事業の免許は社会全体から | |
自信を持った判断にもかかわらず、それが招いた社会の反発は大きい。欠けていたのは何か。 シェルは対応の徹底的な見直しに乗り出し、10ヵ国7500人の一般人、25ヵ国1300人のオピニオンリーダー、55ヵ国600人の社員に面接した。その結果は「世界は変化していた。価値観は多様化している。多国籍企業や政府が、判断を信用してほしいと望んでも、それが通る時代ではなくなった。異なった価値観を持った人たちにも情報を開示し、対話をして、社会全体から"ライセンス・トゥ・ドゥ"(事業免許)を得なければやって行けない時代となっている」というものである。 同社は「社会との合意形成」路線へ体質を変革しグレント・スパーについても改めて処分法を募った。NGOなどを招き4ヵ所で対話集会を開催、関係者の納得を得て代替案を決定し、ナイジェリアについては世界人種宣言支持を表明、アムネスティ・インターナショナルやパックス・クリスティなどの人権NGOと定期的な対話を開始した。 政府や伝統的企業などの権威が低下している。「まず話を聞かせてほしい」と望み、それから自らの価値観に照らし自分たちで考える人たちが増えている。現在社会には様々な価値観の人たちが存在するがゆえに、企業は異なる意見や主張に耳を傾ける努力が必要であり、それは今後さらに強化されねばならない。 今やNGOなどがそのプレゼンスを実証し、社会が評価するようになった。ノーベル平和賞は97年の「地雷禁止国際キャンペーン」、99年の「国境なき医師団」とNGOなどへの授賞が増え始めている。 今年2月に経済協力開発機構(OECD)の贈賄防止条約が発効するまでは、汚職監視の分野で「トランスアレンシー・インターナショナル(TI)」というNGOも国際貢献してきた。今年10月、TIは「海外で仕事を取るために賄賂を贈るのは、どの国の企業と思うか」という調査を14の輸入増加国で実施、その結果を発表し評価が悪い国の反省を求めている。ちなみに日本企業は主要19輸出国の中でワースト5と認識された(ニューヨーク・タイムズ紙による)。 |
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協調未熟だが萌芽もみえ | |
NGOは多国籍企業との関係をどう見ているだろうか。米ノートルダム大学などが140の世界の主要NGOを対象に実施した調査によると、41%が対立関係にあり、47%がかかわりなしと答えた半面、61%が将来は協力関係を持つと見ている。企業とNGOはお互いの力を再認識し、対話を重ねてともに歩むことを考える時代となってきている、といえよう。 協調を組む例はシェルだけではない。この9月、ダウ・ケミカルは「パブリック・リポート99年版」を発刊し社会的、環境的、経済的責任をバランスさせる、いわゆる「3つの最低条件」を化学業界で初めて経営哲学に掲げた。その方針と実績を公表する課程で、環境NGOや地域社会と対話しつつ、ライセンス・トゥ・ドゥを得ていく様子を示している。 環境については、7人前後のNGOリーダー、学者、ジャーナリスト、コンサルタントをメンバーとする「環境諮問委員会」を、年に2〜3回開催している。そこには社会のかい離をなくし透明度を高める意識が働いている。 これまで論じた中では「NGO」という言葉を使ったが、日本国内を考える場合は「NPO」と置き換えて考えるほうが適切だろう。NGOが海外での協力活動を主とする団体を指し、NPOが主に国内での地域活動を担う団体を指す場合が多い。歴史的経緯が異なり、地域をベースにするNPOが多いこともあって、現時点ではNPOから企業への働きかけは少ない。企業との協調体制を作り出していく力も十分ではない。 一方、企業側のNPOに対する認識も未熟ではあるが萌芽(ほうが)も出てきている。国内NPOでは例えば「共用品推進機構」(東京)が複数企業と提携して目の不自由な人も健常者も使える商品を開発し、「プロップ・ステーション」(大阪)はコンピューター・ネットワークを活用して障害を持つ人の雇用創出を促している。NPOが新しい存在理由を持ちつつあり、パートナーとして連携する重要性に企業が目に向けることが望まれる。 今後、アクティビストが企業に問題提起し、株主総会で議決権の行使をする動きは強まろう。NGOやアクティビストだけでなく、地域社会もその存在感を高めていく。政府や労働組合もそれぞれの役割を担う。こうした多様な価値観を内包する組織すべてを、重要なステークホールダー(利害関係者)の一員として認識し、対話を重ねるべきである。その課程でライセンス・トゥ・ドゥを獲得し、次のミレニアム(千年紀)の経営の在り方を探っていくことになるだろう。 欧米の社会、企業は先行してこうした道を歩み始めている。グローバル化とは日本企業も、海外であろうと国内であろうと、新しい社会の潮流の蚊帳の外に居続けられないことを意味するのである。 |
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35年生まれ。国際基督教大卒、三菱石油開発専務など経て現大学に。専門は企業行動論、経営論理。 |
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