作成日 1996年9月17日

「高齢者・身体障害者の社会参加支援のための
情報通信の在り方に関する調査研究会」報告書

 21世紀を目前に控え、高齢化がますます進展するとともに高齢者・身体障害者の社会参加の支援に対するニーズが高まってきています。こうした状況を踏まえ、高齢者・身体障害者の社会参加を支援する情報通信の在り方について検討を行うことを目的として、平成7年(1995年)4月から本研究会(座長:岩男 壽美子 慶応義塾大学教授)を開催してきましたが、このたび、その報告書が取りまとめられました。
 報告書の概要は、別紙のとおりです。
 今後は、本報告書を踏まえ、来るべき高度情報通信社会の姿として示された「共生型情報社会」の実現に向けて、各種施策の検討・実施を行うこととします。

連絡先:郵政省通信政策局情報企画課
電 話:03-3504-4952



報告書の概要

1 共生型情報社会に向けて

2 高齢者・身体障害者の社会参加の現状

(1)高齢者・身体障害者の社会参加支援の現状

 高齢者・身体障害者の社会参加支援としては、手話通訳などの人による支援、呼気や瞬きで操作する機器などの技術・機器による支援、テレビの字幕放送などのシステム・サービスによる支援などが行われている。

(2)社会参加に向けたニーズ

 高齢者・身体障害者の社会参加の支援に対するニーズとして、次のようなことが指摘されている。

〈公共性の高い場所における行動の円滑化及び安全の保障〉
 目的地への経路が分からない、福祉公衆電話の位置が分からないなどの問題点が指摘されており、公共性の高い場所における行動の円滑化及び安全の保障が求められている。

〈公共的機器の利便性向上〉
 例えばATM(自動預払機)の操作が押しボタン式からタッチパネル式に変わるなど、高齢者や視覚障害者にとって使いにくくなってきている。タッチパネルの表示を大きくするなど、高齢者・身体障害者の利用を考慮した機器の利便性の向上が求められている。

〈放送、新聞からの情報取得の改善〉
 テレビの字幕放送、手話放送などの内容の充実及び放送時間の拡大、音声や点字による新聞情報の提供などの要望があり、放送、新聞からの情報取得の改善が求められている。

〈身近な機器・サービスの利便性向上〉
 使いやすい電話機、ファックス、パソコンの開発やファックス読み上げサービスなどの要望があり、身近な機器・サービスの利便性の向上が求められている。

〈高齢者・身体障害者が利用できる情報通信機器の生活用品化〉
 電話機、パソコンなどを日常生活で気軽に利用できるようにしてほしいとの要望があり、これらの情報通信機器の生活用品化が求められている。

〈情報化教育の充実〉
 パソコン通信の方法を教えてくれる機会が少ない等の問題点が指摘されており、情報化に関する教育の充実がもとめられている。

〈開発サイドにおける高齢者・身体障害者への意識〉
 機器の開発には、高齢者・身体障害者の使いやすさを常に意識することが求められている。

3 先進的な取組事例

 情報通信を活用した社会参加支援の先進的な取組の事例として、次のようなものがある。

 プロップ・ネット

 パソコン通信やインターネットを積極的に活用して、身体障害者の就労、社会参加を支援しているボランティア団体の活動。身体障害者やその家族からの自立に関する相談への応対、コンピュータのセミナー、データベースの作成方法の教育等を行うとともに、データベースの作成やインターネットのホームページの作成等の仕事について、企業と在宅の身体障害者の間をつなぐ役割を果たしている。

 電子新聞情報の提供

 新聞情報を電子化し、商用パソコン通信網を介して提供(1995年8月から本格的全国サービスを開始)。新聞情報が電子化されたことにより、音声や点字への変換が容易になり、視覚障害者が新聞情報を得ることに寄与。紙面による情報の提供より若干遅れる、多くの視覚障害者に新聞情報を毎日取得する習慣がないことから利用者が少ないなどの問題があげられている。

 テレビ放送の電波を利用した電子新聞

 テレビ放送の電波を利用した世界で初めて電子新聞の実用化(1996年サービス開始予定)。新聞記事(朝刊)をデータ化し、これをテレビ電波に乗せて送信する。読者は、専用の受信機・端末(携帯型)で情報を取得し、記事を再現する。音声への変換については検討中。

 全盲の方によるシステム管理

 コンピュータの製造・販売を主な業務とする外資系企業において音声変換機器等の 情報通信機器や専用のソフトウエア等を整備し、採用した全盲の社員によるシステム管理業務を実施。
 業務遂行に関しては、社員全員がワークステーションを保有し、ほとんどの情報が電子的にやりとりされているため、全盲の方が認識できる形態に容易に変換できる。情報の認識には、多少時間がかかるが、比較的時間の制約が少ない仕事なので、特に問題は生じていない。

 WHIS NET21

 社会福祉・医療事業団が中心となって運営しているネットワークであり、中央センター(社会福祉・医療事業団)から地方センター(高齢者総合センター)を介して利用機関(市町村など)に保健・医療・福祉に関する情報を提供。中央センターでは、保健・医療・福祉に関する様々な情報をデータベース化。地方センターでは、地域住民のニーズにあった地域の独自の情報(地域の福祉情報、ボランティア情報など)をデータベース化し、中央センターからの情報と併せて利用機関に提供している。

 特別養護老人ホーム内でのナースコール

 特別養護老人ホーム内のベッドサイド、トイレなどにナースコールを設置し、ホーム内のどこからでも看護婦ありKは看護指導員のPHS端末を呼び出せる。ナースステーション、施設室長室、事務所に情報通信端末を設置し、入園者のカルテ、介護日誌などの情報を集中管理。また、徘徊老人は発信機を携帯し、出入口を通過すると感知される。

 シニアネット

 米国及びニュージーランドでパソコン等の使い方を高齢者に教え、高齢者が積極的に情報交換を行い、趣味を深めるなど新たな生きがいを見いだすことを支援。会員は、17,000人にのぼり、75の学習センターを持つ。

 ライフケアシステム(在宅医療システム)

 1980年に発足した会員制の在宅医療システム。電話、留守番電話、ボイスメール 等を利用して24時間医師と連絡できる体制を整備。

 重度障害者のサテライト・オフィス

 介護機器等の開発・輸入を行っている企業が、1995年に車椅子利用の重度障害者を対象としたサテライト・オフィスを川崎市に設置し、毎年2名を採用。業務は、通信販売の受注及びシステム管理。サテライト・オフィスと本社間を専用線で直結し、端末から入力されたデータは瞬時に本社のコンピュータに記憶され、円滑な業務が図れる。

4 課題と提言

(1)高齢者・身体障害者の社会参加を促進するための環境整備
(2)情報通信技術の活用
(3)社会的資源の連携

の3つの観点から、課題の抽出と提言が行われている。

(1)高齢者・身体障害者の社会参加を促進するための環境整備
  1.  高齢者・身体障害者への情報提供を円滑に行うためには、情報を高齢者・身体障害者が正確に認識できる形態に変換し、自宅などに伝送する必要がある。公表された情報についてこのようなことが自由に行えるよう、著作権の適用について検討を行う必要がある。

  2.  高齢者・身体障害者が過度の負担なく情報の利用ができるよう、情報の料金、通信料金、端末機器の料金等トータルの料金の低廉化を図ることが重要である。特に、身体に障害があるがゆえに発生する負担増については、社会全体としての公正な負担の実現が必要である。
(2)情報通信技術の活用
  1.  自動預払機等の押しボタン式からタッチパネル式への移行や、補聴器と連動できない電話機の増加など、情報通信技術の進歩によって高齢者・身体障害者の利便が逆に阻害される事例が現れている。情報通信機器の研究開発に際しては、高齢者・身体障害者が利用者となることを常に意識する必要がある。例えば、ファックス送信の際に用紙をセットする向きを表向き、裏向きのどちらかに統一する、表示や記号を統一する、補聴器と連動できるよう受話器に磁気コイルスピーカを付ける、異なる通信端末相互間で通信の互換性が保たれるようにするなど、高齢者・身体障害者が利用しやすい機器やサービスを提供するという視点に立ち、使いやすさに関わる事項などについての標準化を推進する必要がある。
     このため、国によるガイドラインの制定、あるいは、各種情報通信機器を提供・開発している民間企業の団体である高齢者・障害者支援情報通信提供・開発推進協議会等による標準制定の促進が求められる。

  2.  情報長寿まちづくりモデル体験」が金沢市で行われているが、このようなモデルプロジェクトについて、地域や利用者の拡大、内容の一層の充実を図ることが必要である。特に、過疎地、辺地、離島等においては、福祉などの公的サービスの維持・向上を図る観点から情報通信の活用が期待されており、これらの地域におけるアプリケーション整備のためのモデルプロジェクト推進等により、その普及に努めることが必要である。
(3)社会的資源の連携

 人的資源、情報資源などの社会的資源を有効に活用し、効率的な活動を行うため、国内外に点在する情報の発掘と連携、研究開発機関の連携、行政機関の連携、非営利団体の連携を図っていくことが必要である。



高齢者・身体障害者の社会参加支援のための
情報通信の在り方に関する調査研究会

〜構成員〜(敬省略、五十音順)

安藤 豊喜
(あんどう とよき)
財団法人全日本聾唖連盟 副理事長
座 長岩男 壽美子
(いわお すみこ)
慶応義塾大学 新聞研究所 教授
大山 永昭
(おおやま ながあき)
東京工業大学 工学部 教授
萩生 和成
(おぎう かずしげ)
財団法人長寿社会開発センター  専務理事
金子 郁容
(かねこ いくよう)
慶応義塾大学 総合政策学部 教授
清原 慶子
(きよはら けいこ)
日本ルーテル神学大学 文学部 教授
見坊 和雄
(けんぼう かずお)
財団法人全国老人クラブ連合会 常務理事
佐藤 直子
(さとう なおこ)
株式会社ナオコ・カンパニー
杉岡 良一
(すぎおか りょういち)
富士通株式会社 専務取締役
高岡 正
(たかおか ただし)
社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事長
座長代理高橋 紘士
(たかはし ひろし)
法政大学 社会学部 教授
富岡 悟
(とみおか さとる)
厚生省 社会・援護局更正課 課長
中村 清次
(なかむら せいじ)
NHK放送文化研究所 所長
仁木 壯
(にき たけし)
厚生省 老人保健福祉局 老人福祉振興課 課長
西垣 浩司
(にしがき こうじ)
日本電気株式会社 専務取締役
宮脇 陞
(みやわき のぼる)
日本電信電話株式会社 常務取締役
村谷 昌弘
(むらたに まさひろ)
社会福祉法人日本身体障害者団体連合会 会長

−ライフプロモーション部会−

〜構成員名簿〜(敬省略、五十音順)

国光 登志子
(くにみつ としこ)
板橋区衛生部 管理課長
近藤 則子
(こんどう のりこ)
高齢者/障害者の立場でマルチメディアを考える研究会 事務局長
佐藤 直子
(さとう なおこ)
株式会社ナオコ・カンパニー
島津 久夫
(しまづ ひさお)
社団法人日本セカンドライフ協会 本部事務局次長
頭川 潔
(ずがわ きよし)
金沢市市民福祉部長
杉本 政治
(すぎもと まさはる)
NHK放送文化研究所 世論調査部主任研究員
鈴木 五郎
(すずき ごろう)
財団法人全国老人クラブ連合会 事務局長
主 査高橋 紘士
(たかはし ひろし)
法政大学 社会学部 教授
富山 一成
(とみやま かずしげ)
厚生省老人保健福祉局老人福祉振興課 課長補佐
古城 義隆
(ふるき よしたか)
仙台市企画局次長 仙台市企画局市長
前田 勲治
(まえだ くんじ)
社団法人電気通信協会 調査部長
村上 満雄
(むらかみ みつお)
日本電信電話株式会社 通信機器始業推進部 第一商品開発部長
山谷 えり子
(やまたに えりこ)
サンケイリビング新聞社 編集長
山田 美和子
(やまだ みわこ)
社会福祉法人全国社会福祉協議会 高年福祉部長
吉田 あこ
(よしだ あこ)
筑波技術短期大学 建築工学科教授

−バリアフリー部会−

〜構成員名簿〜(敬省略、五十音順)

大石 忠
(おおいし ただし)
社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 高年部 副部長
大島 眞理子
(おおしま まりこ)
シニアライフアドバイザー
大槻 芳子
(おおつき よしこ)
財団法人全日本聾唖連盟 本部事務所長
梶尾 雅弘
(かじお まさひろ)
厚生省 社会・援護局更正課 課長補佐
主 査清原 慶子
(きよはら けいこ)
日本ルーテル神学大学 文学部 教授
薗部 英夫
(そのべ ひでお)
日本障害者協議会 ネットワーク通信小委員長
高村 明良
(たかむら あきよし)
筑波大学付属盲学校 教諭
竹中 ナミ
(たけなか なみ)
プロップ・ステーション 代表
長谷 雅彦
(はせ まさひこ)
日本電信電話株式会社 第一商品開発部ISDN担当部長
林 元行
(はやし もとゆき)
社会福祉法人日本身体障害者団体連合会 常務理事
牧田 克輔
(まきた かつすけ)
社会福祉法人日本盲人会連合 情報部長
宮坂 栄一
(みやさか えいいち)
NHK放送技術研究所 音響聴覚研究部長
山崎 泰広
(やまざき やすひろ)
株式会社メディアワークス(アクティブジャパン) 編集長取締役 社長

バリアフリー部会委員の意見

(1)多くの人の参加による社会形成の第一歩
  全国社会福祉協議会高年福祉部長
  山田 美和子

 平成8年度からスタートする「障害者プラン」は障害者に対するサービスが、従来の施設偏重型から在宅サービス型の施策へのシフト化が図られることを示しています。
 高齢者も障害を持つ人も、すべて一人の市民として地域で生活できるよう、地域社会の環境整備を進めていくという、ごく当たり前のことが、ようやくわが国の社会的コンセンサスとなったということです。
 障害者プランにおいては、「教育・福祉・雇用等各分野との連携により障害者がその適性と能力に応じて、可能な限り雇用の場に就き、職業を通じて社会参加をすることができるような施策を展開する」とあります。これは、これから増大する高齢者層にも必要なことです。高齢者も社会の中で可能な限り一人の市民として社会に関わって生きていきたいという、人間としてごく当然の欲求を持ち続けています。
 高齢者の加齢によって衰えていく、さまざまな能力をカバーするものとして、マルチメディアに期待されます。また、障害をもつがゆえに不可能とされてきたさまざまな活動が、マルチメディアによって可能になることがたくさんあります。しかし、マルチメディアに触れる機会がないと、これらは実現できないでしょう。
 誰もがよりよく生きていきたいという「人間としてのささやかな欲求」が具体化されるという、身近なところで活用できる社会的環境整備が望まれます。
 この社会を実現するには、行政だけでなくひとり一人の市民が、高齢者も障害を持って不自由な生活をしている市民こそ参加していく事が大切です。
 今回の研究委員会には、多くの方の参加があり、積極的な発言がなされ大変良かったと思います。こういった機会が数多く用意されることがまた大切であろうと思います。

(2)生涯現役・輝いて生きる
  サンケイリビング新聞社 編集長
  山谷 えり子

 戦後初の国勢調査では、女性の平均寿命54才、男性の平均寿命50才とまだ人生50年の社会であった。今、“人生80年”、世界長寿命国になったが、意識と社会のシステムは、高齢者や身体障害者をいまだに生産性の低いグループと見なして、生きがいを見つけづらくしている。
 これまで高齢者文化というと、ご隠居文化であり、“暇すぎる”。余生という考えはヨセ!というのが人生80年の考え方の中心。生涯現役で働き、学び、遊ぶ生活が出来る環境整備と意識の変革が必要で、そのためには、情報通信の整備は強力な助っ人となる。イキイキするための10ヶ条というのがある。「歌う、考える、人の世話をする、共を作る、感謝する、感動する、創造する、オシャレする、歩く、五感にいいことをする」の10ヶ条で、人には、社会性と行動がイキイキするために必要である。
 私の母は30才半ばで身体障害者になったが、働く場を見つけてからイキイキとした日々がすごせるようになった。
 個人用のパソコンが前年比80%の伸びで、10軒のうち1軒の家に普及しているという。2000年に世帯普及率42%になるともいわれていることから、パソコンを通して、雇用創出やボランティア活動が広がり、買物宅配や福祉の出前が、高齢者・身体障害者のセルフエンパワーメントを高めていくことが考えられる。自治体は独自にキーグループとキーパーソンを育てることを急いでほしい。そのためにも通信料金を安くしたり、操作が簡単な機器の開発などを進めて、アクセスしやすくしなければいけないだろう。情報の質のチェックや「情報障害者」対策も必要となってくる。
 なお、昨年のテレビドラマ「愛しているといってくれ」の大ヒット以来、私のところに聴覚障害者からの問い合わせがファックスでよく来るようになった。心理的バリアがなくなり、情報の助けを借りて行動力が広がった例として、感動している。この報告書が、多くの人々の幸せにつながることを期待している。

(3)目にやさしい画像へもうひと息
  筑波技術短期大学教授
  吉田 あこ

 地球の裏側から自由に取り出せる情報を満喫しているのはまさに、聴覚障害者の私の学生達や自宅に引きこもったリタイヤー層です。
 でも、今ひとつ、お願いがあります。以下に2点書きました。

●情報をふるい分け強弱をつけてくれるシステムが必要
(多いばかりがよいのではない、権威を持って選んでくれて眼に入りやすく)
 本の姿はもう消えると言われて久しい。事実ハイパーテキストを使って必要情報を次々と詳細部から関連資料まで取り出し、拡大が可能になる時代である。私もバリア・フリーの指針とこれに連動したカタログや工事概算まで随時取り出せる会話型選択システム“リフォーム君”の開発に着手してはや8年にもなる。“コンピュータは金喰い虫”と言われて研究費を喰っているが、毎年モデルデモンストレーション止まりで一向にはかどらない。元の資料の体系化が大変だからである。建築学会の建築設計資料集成という12巻にわたる巨大な本があるが、これがこの度また改訂に着手することになった。20年前現在の版の作成の時すでに“本の体裁をとるのはこれが最後”と言われて作った本がなんと今回改訂しさらに本にするという。“結局本は滅びない。なぜなら頁毎に見やすくわかりやすい情報を選択・配置・編集する技術までにコンピュータの画面はまだまだ追いつけない“というわけである。信じられない自信だが、丸善が言うのだから本当化かも…。

●美しく、色あざやかで遊びもある画面だが、加齢黄変化対応がされていない
 必要情報が見やすくそれぞれが紛れ込まないように画面上の配置や色彩が効果的になってきかけた。しかし、人間は加齢に伴って眼球運動がにぶり一種の視野狭窄的現象となる。加齢につれて画面全体に視線が回らない事があるのに、次の画面に展開させて、見落しを起こしている。
 また、水晶体の黄変化に伴って色彩の変化が極端に違うものがいくつか出る。 この結果まったく違った画面に見えたり、必要情報が消える事にもなる。これを年をとっても必要情報が消えてしまわないように色彩計画を前もって計算しておく必要がある。たとえば、大いに強調して黄色掛けした色は高齢者には消えて見えなくなったり、印象的な色として特別につけた青色が全く鈍い色に変色しているなど。この時にも、見えやすいようにシミュレーションしておく必要がある。

(4)情報共生社会を阻むものとしての「情報障害者」
  シニアライフアドバイザー
  大島 眞理子

 21世紀の高度情報化社会では、高齢者、障害者を含む高度な情報機器を使いこなせない人が大量に発生してくることが考えられる。
 これらの人々が「情報障害者」(テレコミュニケーションハンディキャップ)として位置づけられ、高度情報化社会の新しい障害者として留意されることが共生社会を実現していくうえで真の支援策につながるものと思われる。
 下記に図表を示して多くの人々に理解を促したい。

テレコミュニケーション・ハンディキャップ

 テレコミュニケーションハンディがある人というのは、さまざまな背景で電話やファックス、パソコンを利用するために“見る、聞く、話す、機器を利用するために体を動かす”ことに何らかの障害を持つ人々だ。たとえばこんな人たちである。
  1. 生まれつきの視覚、聴覚の障害者、聾唖者、知的障害者、身体障害者
  2. 事故や病気などで中途で失明、中途で失聴や難聴になった者、身体障害者。高齢化による痴呆になった人。
  3. 短期間ではあるが、けがや、病気(出産)で入院していたり、在宅でも自由に動けない人。
  4. 機械が苦手であったり、複雑な機器の操作に対応できない人。幼い子供、高齢者、女性に多い。

(5)福祉の領域でマルチメディアを実用化するための基本的視点
  金沢市市民福祉部長
  頭川 潔

 金沢における実験を直接担当している立場から、テレビ電話等のマルチメディアが、福祉の領域で実用化されるために踏まえておくべき基本的な視点を二つ提起したい。
 その一つは、テレビ電話を、高齢化社会の課題である保健・医療・福祉の連携の場で、実際にどのように使えばよいかということである。
 電話の従来的機能は、1対1対応が原則であると考えられるが、デジタルテレビ電話では、多地点を結んでの多元通話が可能である。
 今回の実験でも、お年寄り宅とデイサービスセンター、保健所、医療機関を結んだ多地点同時通話を実施しているが、お年寄りの生活の場で保健・医療・福祉の連携をより一層進めるため、この新たな高次機能の積極的な活用を図っていく必要があるものと考えられる。
 お年寄りの身体状況は、寝たきりの方からほぼ自立している方まで多様である。実験では、医療的な見地からの経過観察が必要なお年寄りに対してテレビ会議システムを導入したが、画像が鮮明であり、ズームアップの遠隔操作機能が付加されている等から、医療機関の高い評価を得られた。しかし、一方でお年寄りやご家族が、その使用方法に慣れるためにかなりの努力を必要としたことも事実である。
 もう一つは、機器の設定思想転換の必要性である。
 どのような機器も、全ての人ににとって使いやすいものでなければならない、ということをコンセプトに、設計思想を提供者本位から利用者本位へと、転換していく必要があると考えられる。
 最後に、テレビ電話等のマルチメディアが福祉に融合していくための基礎としての地域福祉の環境を整えることも、情報長寿社会を実現していくための大切な要件の一つであると考えられ、それらを両輪とした施策の展開を図るための郵政、厚生両省の連携の推進を望みたい。

(6)情報アクセス、コミュニケーションは現代の人権
  日本障害者協議会ネットワーク通信委員会
  薗部 英夫

 現在国連は、社会開発委員会を通して、「障害者の機会均等に関する基準規則」(1993年12月、国連総会採択)の実施をはかるため、各国に対してモニタリングを実施している。6つの国際障害者団体による「専門委員会」が組織され、規則のうち6項目に重点がおかれるが、その第一が「アクセシビリティ」である。すなわち、「どのような種別の障害を持つ人に対しても、政府は、情報とコミュニケーションを提供するための方策を開始するべきである」の具体化である。
 その意味で、1995年5月、郵政省の電気通信審議会が「情報アクセス、情報発信は新たな基本的人権」と明快にうちだしたことは評価されよう。情報にアクセスできること、情報を発信し、コミュニケーションできることは現代の新しい人権である。その権利は、知的な障害をもつ人々も含めて、すべての障害者に保障されなければならない。障害者にやさしい機器はだれもが使いやすいものである。そして、障害をもつ人に良い社会は、万人のためにも良い社会であるからである。
 そのためには、まず、96年に各市町村で作成される「新長期計画」に、「情報アクセスは基本的人権」という水準を割り引くことなく徹底することが大切である。
 そして、日本障害者協議会が作成した「新長期行動計画」の以下の点が肝要であろう。
  1. すべての障害者が社会的な情報にアクセスできるため、文字放送の普及 手話通訳の配置。行政、マスコミ等の公共的な電子情報の公開と情報提供サービスの充実。
  2. 日常生活用具に、「自立と社会参加のコミュニケーション機器」としてパソコン及びソフト、通信モデム等の助成枠の拡大。
  3. コミュニケーション福祉機器に関する地域での人的なサポートシステムを総合的に確立する。とくに在宅障害者および高齢者に対する援助活動を各省庁連携のもとに確立する。

(7)コンピュータネットワークを全ての市民の有効なツールにするために
  プロップ・ステーション代表
  竹中 ナミ

 プロップステーションはコンピュータネットワークを活用して「Challenged(障害を持つ人達)を納税者にできる日本」を合言葉に活動するNPOです。1992年より4年間にわたりチャレンジドを対象とするコンピュータセミナーを開催し、昨年からは阪神淡路大震災の体験を経て高齢者にも枠を拡大し、セミナーを継続しています。
 コンピュータとコンピュータネットワーク、特に、ここ1年間インターネットを活用した就労の促進に取り組んでいる中で、今回この調査研究会の委員をお引き受けしたわけですが、プロップの活動体験から痛切に感じるのは日本の通信料金やインターネット接続に関わる経費が、他国(特にアメリカなど)に比べあまりにも高いです。
 震災体験から、日常的にネットワークが有効に使われていることの重要性を私たちは学んだ訳ですが、生活必需品としての価格体系が必要ではないかと思います。
 日常的に使われてこそ、チャレンジドを含む市民の緊急時にも、またビジネスにも有効なツールとなりうるでしょう。
 また、インターネットのホームページ作成業務や、ネットサーフによるリサーチ業務などをチャレンジドが在宅勤務として行い始めましたが、外出の困難な重度の障害を持つ人達の在宅勤務に対しては、なんとか行政的な補助による底上げができないのか、省庁の枠を越えたご論議を戴ければ幸いです。
 高齢化社会、少子社会の急激な進展に対応するには、一人でも多くの人が社会参加や就労のできる状態を生みだし、支える人が支えられる人を上回る人口比でなくてはならないわけですが、コンピュータネットワークはその大きな力と成りうる媒体だと思います。
 プロップはNPOとして、当事者の意欲を奮い立たせる役割を担い続けたいと思いますが、全国的に広がりつつあるNPOの活動は、行政とも密接な連携を持つことによって、より一層市民生活に役立つものになろうと思います。
 郵政行政関係各位のみならず、全ての省庁トップのご英断に期待します。

(8)人にやさしいシステムとは
  NHK放送研究所 音響聴覚研究部長
  宮坂 栄一

 21世紀には日本のみならず全世界的に高齢化が進み、4人に1人は65歳以上という高齢化社会になる。この高齢化という現象は人を選ばず確実にやってくる。にもかかわらず、必ずしも若くない人でさえピンと来ない人も多い。そういう人でも、「人生の1/3は高齢化時代として過ごすことになるよ」というと、「えっ!」と言ってハッとする人もまた多い。このように必ず自分に降りかかる問題であっても、自分だけはいつまでも健康でいられるという錯覚がある。身体障害についてもしかりである。
 従来、システム設計やモノづくりにおいては、健康な人間の能力を前提としていることが多い。聴覚を例にとっても、感音系の聴覚障害は無論のこと高齢者の感覚特性を考慮した設計というのも極めて少ないのが現状である。
 「人にやさしいシステム」をつくる場合、何よりもまず、こうした障害者や高齢者の特性を十分調査・測定・分析することが必要である。その上で、こうした調査結果をベースに、ヒューマンフレンドリーなユーザーインターフェースを持つ設計がなされることが肝要である。が、現状ではこうしたプロセスが必ずしも十分には取られていないのではなかろうか。
 高齢者に限らず、「人にやさしいシステム」とは、その人に違和感なくすんなり受け入れられ、しかもその人へのフィッティング(fitting)が自然にかつ十全に行われていること、であろう。使用方法が複雑であったり、人の方から無理失理システムに合わせるのは「やさしい」とはいえない。
 さらに言えば、「ほんとうのやさしさ」は、お年寄り・障害のある人・健康な人の間に何の垣根もなく(バリアフリー)、お互いの触れ合いが常態化した社会の中にある。常態化しているということが重要である。そこでは、「人にやさしいシステム」は、ごく自然に何気なく機能しているはずである。
 技術開発がこうしたバリアフリーな社会の実現へ寄与できるような施策が必要である。

(9)これからの身体障害者と高齢者に必要なこと
  (株)アクセスインターナショナル代表取締役社長 アクティブジャパン編集長
  山崎 泰広

 日本の身障者と高齢者のおかれている環境の違いは情報量の違いだと言われている。欧米では弱者ほど情報武装する事が必要であり、その結果健常者と同じ立場に立てるのだと言う。しかし日本の弱者は情報量の少なさが、その立場をより弱いものにしている。
 日本の身障者や高齢者が欧米並に情報を得られる環境を作るには、高い目標を設定し、明確にする必要がある。今まで日本では生きがい等の言葉を使い、限られた情報、作業や仕事を与える事で満足させようとして来た。極端な例では生きる事自体が目的だった。実はこれも情報不足が原因なのだ。欧米では驚くほど重度な障害者が健常者を超える活動をしている。しかし情報のない日本では、その様な人物の存在すら分からず、障害者や指導者が、その様な高いレベルを目指すことが可能だと想像できないのである。
 医学の進歩により高齢化が進み、以前なら失われていた命が救われる今日身体に障害を持つ者の数は増え続けると予測される。現状の年金制度がいつまで継続できるのかも疑問である。保護が目的の政策ではいつか限界が来てしまう。そのためには米国のADA法が示す様に、保護よりも修学や就業の機会を増やし、障害者が健常者と同じ選択肢を得て経済的自足が出来る環境を作る事が必要である。
 保護して低いレベルの目的を与えるのではなく、テクノロジーによって、情報武装し、健常者と同じ事はもちろん、やる気さえあれば勉強でも仕事でも高いレベルを目指せる環境を作る事が大切なのだ。情報関連機器やネットワーク等を開発する場合にも、低いレベルで満足させるのではなく、個人の高い目標設定と、その実現を支援するものを作って欲しい。
 今回の審議会には障害者自身も参加する事が出来たが、今後も政策に当事者の意見を取り入れて欲しい。それにより推測で物事を行う事による無駄やコストを削減出来ると確信している。又、障害者は「なんとかしてくれ」と頼んでいるだけではなく、具体的に実現可能の事から段階的に提言する事が必要だろう。そして与えられた権利には自己責任が必要だという事も忘れないで欲しい。欧米を見ても、自己責任が守られるからこそ様々な権利が与えられているのである。


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