2000.08.30(1日目)

記念講演1
「米国防総省のチャレンジドプロジェクトCAP 〜学びと就労」

講演者
 ダイナー・コーエン:米国防総省・CAP理事長

 

ダイナー・コーエン:皆さん、こんにちは。アメリカでは、「こんにちは」といったときには、皆さんからも「こんにちは」と返していただきます。今日はありがとうございます。皆さんと一緒にここに来られたことは光栄です。私はダイナー・コーエンともうしまして、コンピュータ電子調整プログラム(CAP)の理事長です。こういったプログラムが、なぜ国防総省にあるか、これから1時間使って話します。成功例を参考にしていただきたいと思います。

CAP理事長ダイナー・コーエンさん
CAP理事長
ダイナー・コーエンさん

 まず、私が最初にマネジャーと話すときに必ずすることがあります。それは、障害を持った人たちに関する“神話”を解くことです。マネージャーは、まず「障害を持った人を雇用するのは難しい。コストが高過ぎる」といいます。多くの人が、そう思っています。しかし、これは“神話”です。

 10年ほど前にブッシュ大統領がADA(American Disabilities Act = 障害を持つアメリカ人法)法を発令した当時、障害者を採用するときにどのくらいのお金がかかるのか、彼らが働ける環境を整備するのにどれだけコストがかかるのか、皆が関心を持ちました。そこで、そのコストが算出されました。その数字は10年間変わっていませんが、まず31%の人は何もコストがかかりません。

 実は私も障害を持っているのですが、そのためにコストがかかるということはありません。私に必要なのは、たとえば同じ時間に休憩を取ることとか、あるいは医療情報などですが、それらには特にコストがかかりません。次に、38%の人は1ドル〜500ドルしかかかりません。これは、海軍が10年前に買ったトイレの便座より安い金額です。そして、500ドル〜1000ドルかかる人は19%、1000ドル〜5000ドルかかる人は11%、5000ドル以上かかる人は1%に過ぎません。つまり、ほとんどの人は、さほどコストがかからないということです。現実には、調整費はそれほどかからないということです。

 こういったお金の話をするのは、アメリカでもマネージャーが常に「コストがかかるんじゃないか」「誰がそのお金を払うんだ」という話をするからです。そこで私は、「本当にどのぐらいかかるか言ってみましょう。あなたの考えをちょっと変えましょう」ということで、この話をします。

 私の上司が私が仕事をするために何を必要とするか、考えてもらいたいと思います。その上司は、国防総省の中でもかなり上の人です。その人は、まず私にはポケットベルが必要だと言います。そのコストは、他の人と同じです。お尻にちょっと付けるのでかっこよくなくて、つけたくないのですが、これが私に必要だと言いました。また、私はシニアマネージャーなので、BTTシステムに繋がる電話が必要ではないかということでした。この電話自体が、聴覚障害の人が使う電話より高くなります。

 また、上司は私がシニアマネジャーなので、自分だけのカラープリンターが必要ではないかと言いました。プレゼンテーションをすることがかなり多いので、その時にすぐプリンタが使えるようにということで。このプリンターには、点字の打ち出し機よりもコストがかかります。その時にシニアマネージャーの私を優先するか視覚障害を優先するか。答えは私だということです。さらに、私は出張が多いので、上司は「どこに行くにもラップトップが必要だろう」と言ってくれるし、電子メールをどこででも受けられるようにする必要があると言っています。で、このラップトップ費にメンテナンス費を含めると、5000ドル以上かかります。

 さて、私と障害を持った人と、どちらがコストがかかるでしょうか? 私の方がコストがかかるわけです。そして、私にはその価値があるわけです。このコンセプトを理解する必要があります。必要な人を雇うというコンセプトです。

 アメリカで私は、「皆さんが削減しているコストを考えてみてください。障害者を雇ったらコストが削減されることを考えてみてください」と言います。車椅子の人は、椅子が必要ありません。視覚障害者はモニターが要りません。そういったコストセービングに関しても、考えるべきです。私にとって、調整費は少しのものです。私にもかかりますし、障害を持つ人にもかかります。

 このテーマ。「Let's be proud!」は大好きです。私は、自分であることに誇りをもっています。

 なぜ国防総省でこういったプログラムがあるか、よく聞かれます。

 私たちは、世界で最も強大な軍事勢力です。120万人が軍服を着ています。世界中に配置されていて、日本にもいます。そして国防総省ですが、世界で最も緊急対応能力を持っています。911、非常電話では、私たちが役割を果たします。そして、国防総省は商品やサービスの莫大な購買力を持っています。ですから、何かを買うときに、誰が一番大量に仕入れるかというと、だいたい国防総省です。

 国防総省は、国の中で最も多様性を持った雇用主でもあります。政府は、連邦機関が障害を持った人を雇用するモデルになって欲しいと言っている。その中で、私たちはリーダーになりたいと思っている。というのは、国防総省は最も多様性を持った雇用をしているから。国防総省には、120万人の軍人の他に、70万人の民間人が働いています。さらに、860万人ほどの退役軍人がいます。こういった中で、約2%が障害を持っています。

 私たちはチョイスをする雇用主で、軍事力だけでなく、雇用主としてもリーダーになりたいと思っています。連邦当局の中でテクノロジーを最も買うのは、どこでしょう。私たちはリーダーです。私たちが雇用している職員はすべて、最新のテクノロジーを必要としています。そういうことで、こういったプログラムを設立しています。

 使命は簡単です。機能補助のためのテクノロジーを提供し、障害を持つ職員が情報環境に公平にアクセスすることを保障することです。障害を持つ人を雇うというだけでは十分ではありません。リーダーシップを発揮するポジションに就いてもらわなければなりません。障害を持つ人が明日のリーダーになると信じています。国防総省に来た時に調整が必要なら、それは対処できる問題です。

 このプログラムがどのように設立したかという話をします。ADA法(障害をもつアメリカ人法)が成立した1990年、1070万ドルの予算で設立されました。これは、障害者に利点を提供するプログラムとして、5年間の予算です。発足時から1999年までに1万7000件の調整依頼を受けました。FY(会計年度)2000もほとんど終わっているが、調整以来をさらに2500受けました。それぞれの調整依頼に関して、障害を持った職員に対する品質が確保されているか検査します。年間の予算は現在、260万ドルです。このお金を使ってテクノロジーを採用できますし、職員が生産性を上げるためにテクノロジーを選べる予算です。

 私たちのやり方に驚かれるかもしれませんが、国防総省の中では非常に強い文化があります。「これは私たちの職員にとって良いことか」「賢いビジネスか」を判断して、良くなることなら何でも行動するということです。われわれは、「障害を持つ人を雇用するのはいいことだ」と判断し、行動しました。

会場風景 CAPの利点は、マネージャーの懸念を払拭できることです。彼らの「どうやって障害を持つ人たちを雇っていいのかわからない」といった心配を排除することができます。われわれがやろうとしているのは、雇用のチャンスを平等にするということです。障害を持っている人にも、障害を持っていない人と同じような競争力を持たせることです。そのための調整をCAPが提供するので、マネージャーは心配する必要がありません。こうした調整が行われる結果、マネージャーは柔軟性を持つことになります。障害を持った人も含めて、すべての人を公平に見られるということです。

 もう一つの利点は、何かを買うときに、かなり安くいいものが買えます。大量に仕入れできますし、製品知識も持っているからです。通常、連邦政府が何かを購入するときは、購入オフィスに申請しなければなりません。ところが、そこの人たちにはあまり知識がありません。ただカタログを見て、「ああ、これでいいじゃないか」という買い方をしています。私たちの場合、購入に当たっている職員は、最新のテクノロジーについての知識を持っているし、メーカーについての知識も持っているし、製品についてもよく知っています。だから、非常にいい買い物ができます。ビジネス面から見ても、理に適っていることがおわかりいただけると思います。

 みなさんの中で、政府関係機関管に勤めてらっしゃる方はどのくらいいますか?

 通常の会社勤めは?

 ということは、非営利団体の方が多いということですか?

 われわれが判断をするとき、「これはいいビジネスか」「妥当性があるのか」ということを自問します。それが証明できれば、マネージャーの障害者の採用が簡単になります。国防総省の中で、障害を持っている人を採用していない人がいたら、私はこう言います。「障害を持つ人が健常者と同等に働くために調整が必要なら、私に電話をください。私が全部まかないます。それは簡単なことです」。そういう話をすると、マネージャーは「それだったら私も障害を持った人を雇える」と言います。障害を持つ人を雇うのに何が必要かを心配しなくても、このプログラムがやってくれるということで、安心してくれます。CAPのほうで、障害を持つ職員が必要としていることについて面倒を見ます。そうすることで、「障害を持つ人を採用することによって情報環境も変わるんだ」という認識もしてくれます。

CAP理事長ダイナー・コーエンさん われわれは多くの病院を抱えていますが、学校は抱えていません。軍の制服組の人たちには、子どもがいたり、配偶者が障害者だったりします。われわれは、家族にもわれわれのプログラムに参加してもらい、調整をすることを目標にしています。また、私はマネージャーともよく仕事をします。というのは、障害を持った人をより多く雇ってもらうだけでなく、すでに雇っている障害者にもずっと働いて欲しいからです。これについては後でまた触れますが、私は仕事の多くの時間をマネージャーと過ごしています。今まで障害者を雇っていなかったマネージャーと過ごしています。

 アメリカの就業者の平均年齢は47歳で、今後もっと上がっていきます。就業者が高齢化していくことが、アメリカにおける大きなテーマです。私は自分が年老いていくことは考えたくありません。「歳とともによりギフトを得ている」と考えたいです。歳を取るにつれて、人にはいろいろなことが起こります。視覚が衰える人もいれば、聴覚が衰える人もいます。歩き方がゆっくりになる人もいます。手に問題が出てくる人もいます。

 いままで障害者を雇ったことがないマネージャーも、今後10年したらきっと部下に障害を持った人がいるでしょう。もし頭が良ければ、こういったマネージャーも「障害者にどう働いてもらえばいいか」がわかるようになります。障害を持った人の利便も図らなくてはいけないことがわかります。こういうったことから、「ユニバーサルデザイン」という言葉が出ました。われわれは、みんな歳を取ります。そのときに、誰でも今あるものを使える環境になればいいではないか、ということです。

 私はいま、ペンタゴンの五角形の建物の中にいます。大変大きな建物ですが、この中に2万3000人が働いています。その多くは軍人です。軍人というと、身体のがっしりした強靱な人と思われるでしょうが、その軍人でも、階段の手すりがあれば使うのです。ですから、設計時に障害者に良い設計をすれば、みんなにとってもいいものになります。そういうことを、われわれは目指しています。この「ユニバーサルデザイン」という概念をみんなに理解して欲しい。「みんなのためになる」ということです。障害者のサポートになることは、結局、われわれにとっても良いことなのです。

 われわれの多くは、コンピュータを仕事場に持っています。コンピュータを仕事で使われる方、手を挙げてください。はい。もうすでに標準的なオフィス機器になりましたね。そこで、コンピュータのインプット、アウトプットについて話をします。

 聴覚障害の場合、たとえば私がそうですが、私はロックコンサートに行きすぎて聴覚が衰えたんでしょうけど、男性の声より女性の声が聞きやすいんです。男性の声は、テナーよりも低い声のほうがよく聞こえます。真ん中の音域が聞きにくいんです。ですから、夫の声は全然聞こえないんですよ(笑)。しかし、もし聴覚が衰えた人がいても、われわれは支援的なリスニング・デバイスを用意するようにしています。そうすれば彼らは、周りの環境で何が起きているかがわかります。

 また文書化も、点字や拡大文字のものを用意します。電話帳の名前の表記がどんどん小さくなっていますよね。日本ではどうですか。とにかく、アメリカでは「電話帳をめくっても字が小さくて読めない」ということが、すごく問題になっています。歳をとるにつれ読みにくくなりるのですから、そうしたことへの対応が必要です。

 また、われわれは字幕サービスも提供しています。ビデオテープを作るにも、字幕の用意が重要です。数年前に法律ができました。13インチ以上のすべてのテレビに、字幕を入れるためのチップを付けることが義務づけられました。いまでは、字幕が必要ならそのスイッチを入れれば自動的に出てくるようになっています。 コンピュータが出たときには、いろいろな議論がありました。たとえば、ある健常者がろうあ者に言いました。「私たちはテレビを買う毎に、5ドル余計に払わなければいけない。あんたらがちゃんと字幕を見られるようにするために、テレビが5ドルも高くなるからだ」。すると、そのろうあ者はニッコリして言いました。「私たちだって、あなたがたの音量調節のために何年も余計なお金を払ってきたのよ」。

会場風景 われわれは障害を持った人が働くために、通訳やリーダー(代読者)やアシスタントも提供してますし、彼らが上級の仕事を目指すためのトレーニングも提供しています。その他、いろいろなものを提供しています。たとえば、ろうあ者や難聴者のためのテレタイプライター。コンピュータにモデムをつけて、電話のようにコミュニケーションができるわけです。ろうあ者や難聴者が健聴者とコミュニケーションするときに便利です。また、クローズドキャプション、これはろうあ者だけでなく、たとえば英語が母語でない人、あるいは言葉の認識の問題のある人にも有用です。字を見ることでよりよく理解できます。

 それから、シグナル機器、たとえば緊急事態に光るもの。それから、デスクトップのテレビ会議用機器。国防総省では、VDCをよく使います。これはコンピュータの近くにカメラを置いて、テレビ会議ができるようにするものです。

 それから、通訳をオンラインで結ぶこともできます。たとえば緊急事態になった時、ろうあ者への通訳をコンピュータで提供します。多くのものは、コンピュータ画面や紙に出てきます。視覚障害者は、これをスキャナリーダーに入れると、音声で出てきます。スクリーンリーダーも同様です。こういう環境では、視覚障害は障害ではありません。

 プリントの拡張機。CCTV。そして、点字ターミナル。手でピンを触れば、それが点字になっています。カーソルを下に押せば点字のページも下にさがります。これも素晴しい技術、まさに障害を無くす技術です。それから、点字の打ち出し機。私は紙に書いたものを家に持ち帰りますが、視覚障害者も点字で打ち出して、家に持ち帰れます。私は今回の会議に備えて、点字版のパンフレットも用意してきました。

 それから、ポータブルなノートテイカーも持ってきました。これは全盲の人が点字で入力できるものです。

 こうしたものを使うと、障害を持った人もまさにプライドを持って自分のやるべきことが出来るようになるわけです。

 それでは、手先の障害を持っている人には、どういう機器があるでしょうか。たとえば脊椎損傷、脳性麻痺、何の障害でもいいですが、そういう人に対して私はどういう機能があるかを聞きます。それによって、いろいろな代替的なキーボードがあります。大きなキーボード、小さなキーボード、片手だけで打てるデバイス、ヘッドスティックという頭につけた棒で打つもの、などなど。これらの中には、それからソフトウェアで調整できるものもあります。

 また、国防総省が軍事技術の応用で開発した代替入力デバイスもあります。一つは「アイトラッキング・システム」といって、カメラの中を除き込むと目の動きで指令が遅れるもので、武器を発射したり何かを取り込んだりできる、まさに軍事的な技術です。このような軍事技術が、視線でのコンピュータのインプット、たとえばワードプロセッシングなどに応用されているわけです。

 もうひとつの国防総省が開発した技術は、脳波を使うもので、サイバーリンクと呼ばれています。これも、もともとはヘリコプターのパイロットのために開発されたものでした。ほんとに僅かな目の動き、脳波で指令を送れるものです。日本から私のところに見学の方々が訪れると、私は彼女たち(スタッフの女性)に頭に小さいバンドをかぶってもらいます。これは、頭の筋肉を動かすとコンピュータにインプットできるという装置です。私は使ったことがないので、上手くいかなかったらと怖かったのでテストしていませんが、多くの人がこれを使ってうまくやっています。

 いまお話したのが、代替的なインプット・デバイスです。これにはもうひとつ、音声認識システムがあって、いま多くの人に使われています。もとはニューヨーク州のロームラボが20数年前にパイロットのために開発したものですが、今ではコンピュータショップで誰でも買えます。あなたの音声を認識できるように、コンピュータに覚えさせて使います。クリストファー・リーフ(映画「スーパーマン」で主役を演じた後に落馬事故で首から下が不自由に)も使っています。

 こういうプログラムを、われわれはとても誇りに思ってます。私どもは、まず「障害を持った人たちのことを誇り思おう。彼らを雇おう」と言っています。まず一つに、就業者募集事業というものがあります。就業者は高齢化しているので、若い人を雇う必要があります。そこで、われわれは国防総省と大統領就業委員会で合同して、このプログラムをやっています。全米の160大学をまわり、障害をもった学生にインタビューをし、そして彼らをテストしてデータベースに情報を入れます。それから、連邦省庁でデータベースを共有します。連邦政府はいろいろな技術を持った人を必要とするので、工科系、会計、教育など、すべての分野で人を採ります。

慶応幼稚舎長、慶應義塾大学教授、金子 郁容さん
慶応幼稚舎長、慶應義塾大学教授
金子 郁容さん(手前)

 連邦政府はこの就業募集事業をとても一生懸命やっています。毎年夏、われわれの方では200名の障害を持った学生を雇います。もちろん給料を払っていますし、なるべく有能な障害者に来てもらおうとしています。われわれはマネージャーたちに、これらの障害を持った学生がいかに優秀かをわかってほしくて、夏の間のインターンシップをやっているわけです。優秀なのを認めてもらえば、ずっと永続的な就業につながると思います。

 他にも、農務省、商務省、内務省など、すべての連邦省庁でこういった障害を持った学生が夏の間仕事をしています。この学生たちが国防総省で働かなくても、夏の間、仕事がしやすいように私の方でいろんな便宜を図っています。これがビジネスをやる賢い方法だと信じるからです。

 スライドをお見せします。

 プレゼンテーションの最初に申し上げましたが、障害を持つ人のほとんどが、それほどの調整費用を必要としません。去年の夏、国防総省では200人以上、他では100人以上ということで、連邦政府で300人以上の障害を持った人たちが雇用されました。その中で調整のリクエストがあったのは、120件だけでした。他の人たちは調整が必要なかったということです。ここでまた強調したいのは、「障害を持った人たちの中にも、能力があって仕事の意欲をもっている人がいる。ならば、チャンスを与えるべきだ」ということです。

 私は、この夏にインターンシップで来た学生の50%以上が就職できたことを誇りを持って言いたいと思います。では、他の50%はどうなったのか。これは夏の仕事だけで、まだ卒業できなかった人と言えますが、また後でやって来るでしょう。

 テレコミュニティ、つまりどこでも仕事ができるというコンセプトですが、テレコミュニティを使うのは、障害を持つ人にとってはよい仕事の方法です。重度の障害を持っている人がオフィスに行くのが大変なことは、みなさんおわかりです。では、オフィスに行かなくてもいいのではないでしょうか。仕事というのは、あなたがすることです。どこでするかは問題ではありません。国防総省と他の連邦機関はテレコミューティングの採用を急ぎました。私のこの分野での役割は、ある人口に集中しています。毎日オフィスに来ることができない労災手当の受給者というのは、政府のコストが非常にかかります。家にいてTVを観ているだけの人たちのために、かなりお金を払っているわけです。この人たちに家で働いてもらうことによって、コストがかなり削減できます。私はいま、こういった人たちに注目しています。障害をもって会社に行けないという人たちです。

 2年ほど前、一人の女性が私のところに来て、「フレクサプレイスをしたい」と言いました。私が「障害がなければ対応できない」というと、彼女は「私は障害を持っていると思う」と言いました。「私は脳に4つの悪性腫瘍が見つかって、3ヶ月しか命がないとお医者さんに言われました。また、私はシングルマザーで、6人の子どもがいます。だから、働くことが出来ません。助けてください」。そう言われました。

 そこで私は、彼女の家にワークステーションを設置しました。3ヶ月後には死ぬわけです。「ボビー、さようなら」ということで、みんなで集まりました。でも、9月に集まったんですけど、その時は元気そうでした、12月のクリスマスパーティーの時も元気そうでした。2月の息子さんの結婚式でも元気そうでした。そして6月に亡くなりました。予測より1年以上長く生きられたわけです。その理由は、非常に前向きな態度があったからだと思います。家にいて死ぬのを待っていたわけではありません。仕事を続けるという意欲があったんです。

 これがあるべき姿。ビジネスとしても成り立つ考え方だと思います。彼女は家で自分の能力を使うことができましたし、経験も生かせました。そして彼女に価値を与えました。最後まで彼女は働くことができました。私たちは、彼女がそうできたことを非常に誇りを持っています。

 技術を利用すれば、どこででも働けます。私はいま東京にいますが、Eメールも交換できますし、オフィスとの連絡もできます。技術を使えば、どこででも、いつでも働くことができます。ですから、家でも働けるわけで、技術を利用することは賢いビジネスのやり方だと言えます。テレコミュニティの利用は非常に頭の良いやりかたで、エネルギー削減ができ、会社に来なくても働けます。

 人間工学に関してですが、これは人を仕事に適合させるものではなく、仕事を人に適合させるものです。仕事が自分たちに合うようにする。自分たちを仕事に合わせるのではなく、です。

 私は非常に良いオフィスにいます。マホガニーのいい机もあり、コンピュータもあり、すべての設備が整っています。しかし、これは誰のためにオフィスでしょうか。だいたい180cmくらいの男性のためのものです。私を見てください。180cmもありませんし、男でもありません。私がこの素敵な席に座ると、足が届きません。椅子を調整すると、机の上から顔が出なくなってしまいます。でも、最終的には自分に合う家具を見つけ出しました。ということで、人間工学にかなりの費用を費やしています。

 連邦政府は労災に関してかなりコストを使っています。ですから、健康環境を整えるだけでなく、将来起こりうる障害を未然に防ぐ努力もしています。多くの評価システムを入れています。

 私たちは、どのようなものを購入すればいいか、人間工学的に考えて情報提供しています。それによって労災が防げるかどうかという情報を提供しています。そして、障害が発生してしまったら、私たちが調整をします。障害者を採用しながら、その人たちを動かさないのでは、意味がありません。私たちは、障害をさらに発展させないように気を使っています。

 情報のアクセスについても、少しお話しします。すべての情報が障害者にアクセスできるように保障するという新しい法令が、リハビリテーション法508条に加わります。そこで、連邦当局にどのように実現するのかが問われました。私のテクノロジーの評価では、インフラがアクセスできる状態になっています。障害者が働くときに、情報のインフラが整備され、テクノロジーがサポートされていることが必要です。アクセスボード、法務省、サービス機関、大統領の対策委員会など、すべてがアクセステクノロジーをサポートしています。

CAP理事長ダイナー・コーエンさん 私のホームページですが、そちらを見ると、私の情報を得ることが出来ます。視覚障害があっても、アクセスできます。私たち国防総省は人が世界中に散らばっているので、私たちの情報がいつでもどこでも入手できるようにしたい。ですから、Webサイトを見ると、いろいろな情報をオンラインでみることができます。

 CAPTAC。この技術センターは5年前にできました。ペリー前国防長官が開設しました。彼は当時非常に力があり、テクノロジーに力を入れてくれました。なぜ国防総省がこういう組識を必要としているか、おっしゃいました。「私の国防長官としての使命は、国を護ることである。そして、世界に散らばる軍人を4時間で回収できること。これを実現する唯一の方法は、全ての人が先端の技術を持っていることだ。障害者も私の使命に貢献してくれているのだ。だから、障害者も最先端の技術を持って仕事をする必要がある。私への貢献に大きな役割を果たしているのだ」。そうおっしゃいました。国防長官としての使命を果たすために、このセンターが必要なのだと言われました。

 ここには1年間に2000人ほどの訪問者があり、どういった技術に関しても簡単にアクセスすることが出来ます。障害者に関しても、最新技術が見られます。現在の長官も、支援してくださっています。そして連邦機関の多くが、このセンターをサポートしています。

 ここに過去にやってきた実績があります。調整のリクエストは、これまでに1万7000件以上で、今年だけでも2000件になっています。私はこれらに対処できたことを、誇りに思っています。視覚障害の職員のためのスクリーンリーダが欲しいと言われた時には、8日以内に用意できました。

 私の連絡先はここです。是非わたしに連絡して欲しいと思いますし、ホームページも見て欲しいと思っています。私のネットワークの一員になっていただきたい。そして、私もあなたのネットワークの一員になりたいと思っています。

 最後のコメントですが、ここに来れたことを光栄に思ってます。皆さんのシンポジウムに参加できて光栄に、嬉しく思ってます。このテーマ「レッツ・ビー・プラウド」に付け加えて、みなさんに障害を持った人を採用することを約束して欲しいと思います。

 私はアメリカそして世界中を国防総省を代表して回る時に、必ず言うことがあります。一つは、マネージャーはもっと多くの仕事を少ない人でできるようになるということ。マネージャーは障害者の中から将来のリーダーを探すべきだと言っています。2つ目は、明日のリーダーは、テクノロジーと障害を持った人をどのように効果的に使えるかを知ってる人だということです。障害を持った人の中には、女性や少数民族も含まれます。こういった人たちを理解するマネージャーが、明日のリーダーになれると言ってます。

 障害というものは、いつ誰が陥るかわかりません。スーパーマンを演じたクリストファー・リーフも、まさにその例です。だからこそ、政府や会社の管理者が、こういうことをしっかり理解してほしい。いつでも意欲的に障害者を雇って欲しいのです。もしわれわれが明日にでも障害者になれば、その時に雇ってほしいわけです。


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