リレーエッセイ 「チャレンジドの夢」

 北岡 りつこさんの場合

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「りこのスイス・パリ旅行報告 〜スイス 満喫!〜
 
君、でかいけど大人しいね・・私の介助犬になってくれない? 名古屋からソウルへ、ソウルから乗り継いでチューリッヒへ飛んだ。名古屋からトータルすると飛行時間は約13時間。機内食3回、お酒やジュースを飲みながらYさんとのおしゃべり。二人は徐々に意気投合していった。今まで3回の海外旅行をしたが、1度も機内のトイレに入ったことがなかったが、さすがのわたしも今回は10時間以上はがまんできなかった。機内用の車椅子に乗り換えてトイレに入った。狭いと聞いていたが、あれだけ狭いとは思ってなかった。
 チューリッヒ空港に着いたのが夕方5時。日本との時差は7時間。そこからリフトバスで約1時間。途中から雷雨になってきた。ガイドさんによると、このところ、こういう天気ばかりらしい。私は「晴れ女のわたしもこれまでか・・」と思った。ルッツェルンという町のホテルへ。湖のほとりで、すごく豪華でリッチな気分を味わえるホテルだった。翌朝、眼を覚ますと雨は前夜よりひどく降っていた。雨具を用意して、朝食を食べていた。すると、空の雲が切れて青空がのぞいてきた。湖のほとりを散歩した。雨は完全にやんでいた。それから最後まで好天に恵まれた。また、太陽はわたしにほほえんでくれた。今回の旅では4カ所のホテルで泊まる。だから1泊するだけのところはスーツケースの支度が大変だった。だが、Yさんは旅慣れているので二人分のスーツケースを手早くまとめてくれた。
 
 2日目、マッターホルンのふもとの町ツェルマットへ向かった。途中までリフトバス。アンデルマットという駅から氷河特急に乗った。この氷河特急の車窓から見える景色はすばらしかった。アルプスの山々、ぽつんぽつんと教会や家並み。スイスの家の窓辺には必ず、色あざやかな花が飾られていて、緑の山並みにマッチしてなんともかわいい。『アルプスの少女・ハイジ』の漫画をだぶらせ、歳を忘れてハイジになった気分で景色を楽しんでいた。車内販売でコーヒーを頼んだ。ちょうどそこへ、かっこいい車掌さんが通りがかり、わたしを見てニッコリし、何やら言っている。聞くと「そのコーヒーの代金は僕が払う。僕から彼女へのプレゼント」ということらしい。わたしだけなので少し気は引けたが、うれしくて2人で記念写真も。通じたかどうかはわからないが、わたしが「ダンケシェ」と言ったらほほえんでくれた。このコーヒーは格別おいしかった。氷河特急の3時間近くは、あっという間に過ぎていった。
 ツェルマットの町は標高1600メートルにあり、自然保護ということから交通は馬車と電気自動車しか走っていないらしい。やはり、このあたりが外国はきっちりとしている。日本は環境問題やゴミ問題と騒いでいても、何も解決策をやろうとしない。山に囲まれ、建物はこげ茶色に統一され、その窓という窓には花がガーデニングされ、馬車の蹄の音、時の流れがゆったりと感じた。わたしは今回の旅の中で一番、このツェルマットが気に入った。ただ日本人観光客、しかもオバサン連中の多かったこと。
ワイワイガヤガヤしゃべりながらわが道のように歩いている姿に愕然とした。人のふり見て、我がふり直せ・・と思った。
 ここで泊まったホテルがロッジ風で良かった。居間という感じの部屋と寝室が別々になっていて1軒の家というつくりだった。木のぬくもりがあって、落ち着けて、またまたわたしとしてはすごく気に入ってしまった。
 
 3日目、いよいよマッターホルンが一望できるゴルナーグラード展望台へ。そこまでは登山電車で約40分。登っていくにつれ、シカやウサギやリスなども顔をのぞかせてくれた。展望台に着くと、目の前にマッターホルンがそびえ立っていた。優美な姿に、言葉も出なかった。・・・まさに自然が作った芸術だ。マッターホルンも美しかったが、それに連なる山並みも万年雪や氷河でおおわれ、絶景そのものだった。「人間なんてちっぽけだなぁ・・この氷河の中にわたしの悩みも埋め込ませてくれないかなぁ」と物思いにふけっていた。
 すると、M添乗員さんが「この景色、お母さんにも見せてやりたかったなぁ」ポツンといった。「あー、もうコロッと忘れてた・・ちょっとは思い出してやらないと可哀相かなぁ」と苦笑い。そうだった・・本当なら、この景色を一緒に見ているはずだったんだ。私は、そう言われるまで母のことなど頭の中に無かった。それだけ、この旅を満喫していた。 でかいけど、すごくおとなしいセントバーナード犬とツーショットも撮れて大満足。
 
 4日目、リフトバスでジュネーブへ。ジュネーブは国連本部などがあり、国際的にも有名な都市だ。それだけに美しい町だった。スイスにはたくさんの湖がある。中でも有名なのはレマン湖だ。ホテルに着き、一休みしてYさんとジュネーブの町を散策しながら駅でフランスフランに両替したり、お土産を買ったりして楽しんだ。夕食後、レマン湖のほとりを散歩した。はるか遠くにモンブランが見えた。その向こうはイタリアらしい。あらためて「すごいところまで来たものだなぁ」と感動していた。
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