リレーエッセイ 「チャレンジドの夢」

 中村 弘子さんの場合

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「仕事・障害」
中村さんカット アニメのデータが入っているハードディスクを大切に抱きかかえ、車窓から見える満開の桜を眺めながら、今年はお花見に行けそうもないなぁと思っていました。去る4月17、18日の両日、私が所属しているプロップ・スティーションの社会福祉法人化記念シンポジウム「GATHUNNN!! 99」が催されました。そこで私たちの作品発表の場を設けて頂きました。3月中旬からの約1ヶ月間、カップラーメンや栄養補助食品を買込み、制作に没頭できる体制で望みました。締め切り日が迫って来るに連れ、パソコンが稼動している時間が増え、それに反比例して睡眠時間が減っていきました。私が起きている時間はずっとパソコンも動いていました。データが巨大になっており、保存をするだけで10分も20分も掛かりましたので、その時間を利用して食事を取ったりしていました。1日に20時間近くパソコンが動いている状態が数日続きました。仲間との共同制作でしたので私が手抜きをすると他の人に迷惑が掛かります。最終行程を担当したため、ここまで懸命に作ってきてくれた仲間に対する責任といったプレッシャーもあり、作品を台無しにするようなことだけは避けたいという思いが強くありました。少しでも良いものを作りたいと考えるのは誰しも当然なのでしょう。
 これだけ長時間パソコンに向かっていると身体のあちこちに痛みが出ることは、目に見えていました。作品が完成する2週間ほど前から予想通り腰から背中、首に掛けて、動くとズキッと痛みが走りだしました。障害者は普通に生活していても、身体の一部分を酷使することが多く、それによって新たな故障が出てくる恐れがあるのです。これを二次障害といいます。私と同じ程度の障害であった友人達が二次障害でかなり障害が重くなっています。その友人達の話によると、朝起きると動けなかった、体調が悪いと気付いてから1ヶ月間で歩けなくなった、など突然症状が出てくるようです。走れていた友人が寝たきりの状態になっていたのです。お見舞いに行った時に他人事ではない衝撃を受けたのを覚えています。10年程前に先輩から二次障害に対する注意を受けたことがあります。その時はまだ若かったせいもあり「二次障害の恐れがあっても、やりたい事を辞めたくない」と考えていました。私はこの度、痛みと同時に手足のしびれもありましたので、医者の診断結果によってはパソコンを辞めることも覚悟しました。幸い今のところ大丈夫との診断でしたので安心しています。友人が怪我をした際に「元々障害があるのだから・・・」と医者に言われたそうですが、私たちは障害を出来るかぎり軽くしたい、せめて現状を維持したいと常に願っています。10年前なら辞めようと思わなかったかも知れませんが、この10年間の色々な出来事が私の考え方を変えたのだと思います。これからも多くの経験をし、多くの人と出会い、それによって私自身も変化し続けるでしょう。しかし、どのように変わっても前向きな気持ちを持ち続けていたい。
 来年の桜の咲く頃にも、願わくばパソコンの前で眠い目をこすっていることを望みます。

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