リレーエッセイ 「チャレンジドの夢」

 中村 弘子さんの場合

バー

中村さんカット「頑張れば・・・」

 「頑張れば、仕事が出来る」パソコンセミナーでナミねぇ(プロップ・ステーション 代表者)の最初の言葉でした。私はこの言葉が信じられませんでした。それどころか反 発さえ感じました。”この人、簡単に言うけど、重度障害者が働くことがどれだけ大 変なことか、分かっていない”という思いと、”これまで私なりに頑張ってきた”という思いがありました。それでも世の中で流行しているパソコンに興味があり、習っていて損はないだろう、といった気楽な気持ちでのスタートでした。
 セミナーが始まり、パソコンの魅力に夢中になりました。1本の綺麗な直線が簡単に引けることが大変感動的でした。また、パソコン通信がカルチャーショックを与えてくれました。発音し易い文字を組合せながらタイミングよく言葉を発することの煩わしさ等で、人と話しをするのは苦手なのですが、パソコン通信を利用するとその煩わしさはありません。私にとって声を出すよりキーボードを叩く方が随分楽に感じます。
 セミナーのもう一つの魅力はそこで出会った人々でした。まず、ボランティアで教えて下さった講師の皆さん。なぜ毎週熱心に続けられるのか、なぜ何年もかかって培った知識を惜しげもなく提供出来るのか、とても不思議でした。そして、同じ受講生であったチャレンジドの皆さん。軽い気持ちで始めた私とは取組み方が違いました。皆さんの熱心な姿勢を目の当りにして、私自身の考え方を反省させられました。この仲間がいなければ、今の私はないといっても過言でないほど刺激を受けました。
 仕事をさせて頂けるようになって1年になります。一番体力的にハードだったものは、工房メンバー共同制作のムービーでした。終りの方の行程を担当して日にちの余裕がありませんでした。加えて、始めて使うソフトで、先生に教えて頂きながらぶっつけ本番の状況でした。最後の2日間はほぼ徹夜になり、栄養補助食品を食べながらパソコンに向かいました。それでも時間切れとなり担当箇所を仕上げることができず、先生にご迷惑を掛けてしまいました。この仕事で新しいソフトの操作方法など、多くを学びました。このように実際の仕事を通じて身に付けていくものも大切にしたいと感じました。フラフラの状態で転んでしまい傷口を押さえながらデータを渡したことも良い思い出になりそうです。
 今年に入り、神戸セミナーの講師のお仕事をさせて頂いています。講師とは名ばかりで、私は他の方とは違い、2時間立ってウロウロしているだけなのです。仕事ですから報酬は貰います。私は仕事としてやっていけるとは思えなくて、ナミねぇに辞めたいと申し出ました。すると「横にいてその受講生が少しでも上達すれば、それでいいから。弘子さんは出来ることを一生懸命やってくれれば、それでいいから」とナミねェは言って下さいました。この言葉に救われた気がします。まだまだ教えることより教わることが多く、受講生の方には申し訳ないのですが、「先生」と呼ばれることに慣れ切ってしまわぬよう、私も受講生の方々と一緒に上達していきたいと思います。
 今、パソコンを使った仕事をさせて頂いていることが、まるで夢のようです。プロップ・ステーションのスタッフの方々、ボランティアの方々、チャレンジドの方々、この輝いている皆さんに付いていくのに必死です。

バー


戻る