リレーエッセイ 「チャレンジドの夢」

 米島 春美さんの場合

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米島さんカット「翼をつけて」

 「皆さん こんばんわ」パワフルなナミねえさんの声が教室いっぱいあふれる。教室のパソコンの前に若いチャレンジドの皆さんと一緒に高齢者の私は少し緊張して座る。社会の第一線で活躍されているボランテイアの川畑先生、サポートしてくださる先生方と、 足でマウスとキーボードを軽やかに使って指導されるチャレンジドOBの岡本先生、プロップセミナー夜のクラスがいつものように始まる。
 バブルが弾け日本経済も危機に陥り、不況、倒産、リストラの言葉も日常語になり日々の生活に影をおとす昨今、特に糸偏の業種は真っ先に淘汰され、三十余年染色関係の職人をしてきた主人も得意先の次々の倒産、失業の憂き目に遭い(同業、他業種、若い人達も次々職を失う今の世)、何度職探しに足を運んでも身障の身に次の仕事のある筈もなく、ノイローゼになり自殺もしかねない主人に目を離せない一時期もあり ました。
 今年になって朝日新聞紙上にて、プロップ・ステーションの存在を知り早速TEL、プロップの鈴木さんの「高齢者もいいですよ」のお返事に電話を受ける主人の顔が輝 きました。パソコンは子供に貰ってあったのですが触ることのなかった主人が「トライしてみよう、今までの仕事がパソコンで生かせるかも」付き添いの私もプロップと の出会いでした。
 「今 わたしの願い事が叶うならば つばさがほしい この背中に鳥のように白い翼つけてください・・ 」以前若い人達のあいだで流行った歌。 
 今プロップ・ステーションでは身体にさまざまの重度の障害を持たされうつむき涙を零しきった、若いチャレンジドの人達がパソコンの技術と努力で編み上げたそれぞれ個性・才能の色と形の翼をスタッフと先生方のひたむきなハートを織込んでその背に着けて、夢と希望とに向かって送り出す作業をしてくださっています。又、理解ある企業の方々が仕事と言う浮力を風に乗せ飛ばせてくださっています。「・・この大空につばさを広げ飛んで行きたいよ 悲しみのない自由な空へ 翼はためかせ行きたい」(山上路夫氏作詞)と。
     私は今年還暦を過ぎ老年期に入り「今更夢なんて」と人は笑われるかも知れません。が先日、NHK朝のインタービューに答えられて作家の北方謙三氏の「たとえ見果てぬ夢と終っても、夢を持つことは人生の目標に向かって最期まで生き抜けるじゃないですか」との言葉に大いに力づけられ、意欲あふれるチャレンジドの人達の仲間入りをして主人と共に学びつつ(劣等生ですが)何か社会の一員として役に立てる日があることを、また老人のヘルパーをしている私はお年寄りに夢見ることも語り、子供達に絵本を作ってみたい楽しみもあります。教室は冬に向かってナミねえさんはじめ先生方の熱意と愛で熱く燃えていくことでしょう。

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