リレーエッセイ 「チャレンジドの夢」

 久保 利恵さんの場合

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久保さんカット「ありがとう」「絵本作家への道」

 中学生の頃、自分の進路について考えるという授業がありました。
 あの時、初めて自分の将来について真剣に考えたような気がします。自分の体が不自由な事もあって、同じ立場の人の役に立つ福祉関係の勉強をしてカウンセラーになろうかと考えてみたり…、絵を描く事が大好きだから、絵に関わる職業に就きたいと考えてみたり…。正直言って、具体的に将来の事を考えたことなんて、その授業の時まで、ほとんどありませんでした。病院の先生からそんなに長生きはできないと言われた自分が、まさか今だに生存しているとは思ってもみなかったし、自分が社会に出て働いて自立するというイメージなんて全くなかったから、どうすれば良いのかピンとこなかったのです。だけれども、そんな私にも、一つだけ楽しくて楽しくてしょうがない事があったんです。それは、絵を描く事でした。
 幼い頃、冬になるとすぐ肺炎を起こして毎年入院していた私は、周りの友達のように元気に外で遊ぶ事ができませんでした。そんな時、私の楽しみの一つが、絵本を読む事だったのです。もちろん、毎日毎日絵本ばかり読んでいたわけではありませんが、あの頃、お気に入りの絵本を眺めたり、母に読んでもらったり、好きなページの絵をひたすら模写して遊んだりしたり、そんな何気ない時間が、たまらなく好きでした。嫌な事があっても退屈な時でも、かわいくてきれいで楽しい絵を眺めているとホッと心がなごんだのです。だから、将来どんな人になりたいか真剣に考えた時、ふとその時の体験を思い出したんだと思います。そして、好きな絵を描く事ができる職業に就けたら良いなぁー、絵本を作りだせる人になれたら素敵だなぁーと思って、私は、絵本作家になろうと決めたのです。人の気持をホッとさせる絵を描いていきたいと思いました。
 それから、ずっと絵の勉強を続けてきた私は、短大を卒業して、やっと好きな絵を集中して描ける時間を持つことができました。だけど、絵本作家への道は、そんなに甘くはありません。現に今、コンクールに出品しては落選して、作品が手元に戻ってくる毎日です。それに、二十歳を過ぎたら経済的に自立したいと考えていた私は、働きながらなんとか絵本作家を目指続けられる方法はないかと探しはじめたのです。アーティストを目指している友人のほとんどがアルバイトをしたり別の職業に就いて、夢を実現させようと頑張っています。私にもできるアルバイトがないか、考えていた時、偶然にプロップ・ステーションと出会ったのです。
 そして、少しづつですがインターネットを使って、イラストを描いたりホームページを作る仕事などをして、収入を得えられるようになってきました。今は、まだまだ経済的に自立しているとは言えないし、絵本作家としての仕事もないけれど、私にしか描く事のできない絵で、人の気持をほんの一瞬でもホッとなごませることができたら、こんな嬉しい事はないと思っています。そして、いつか自分の理想の絵本を出版するつもりです。テーマが明るくて、絵がかわいくて、何だか見ているだけで暖かくなるような、そんな絵本を…。
 今、なりたい自分目指して走っている途中です。まだ、私の描いた絵本は、一冊も世に出ていないけれど、絵を描く事が一番好きで、自分が決めた道だから、どんな事があっても、きっと夢が叶うまで頑張れると信じています。



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