リレーエッセイ 「チャレンジドの夢」

 長岡 功冶さんの場合

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長岡さんの写真  「ウミガメよ海へ」

 ウミガメよ、進め!たとえ歩みが遅くとも、それが君の精一杯ならしかたないさ。一歩、また一歩、あの蒼く澄んだ海を目指せ!
 私のホームページアドレスには「umigame 」という文字が入っている。インターネットで個人の証を示すIDと呼ばれる部分である 。それには自分の名前や愛称を由縁にするのが一般的であるが、それでは面白くない。こんなところで、遊び心を追求したからといってどうなるものでもないが、名前以外に自分を表すマークを造る好機である気がした。閃くままに様々な名前を浮かべている道中で、登場したのがそう「ウミガメ」である。
ウミガメのイラスト 別にウミガメに特別な愛着や関心を持っていたわけではない。泣きながら卵を産むこと(実際は違う)で僅かに脚光を浴びたものの、そのイメージといえば海も泳ぐがとにかく鈍足な生き物というなんともパッとしないものだ。けれども私は、心に止まる何かを感じた。自然に、記憶の片隅からウミガメについて知っている事を拾い集めている内に、自分が目指すべき生き方の答えが見えてきた。
 灼熱の太陽や敵たち、そして波にさわれないよう大切に守られた卵を破り、何日も掛けて暗闇の砂の中から這い出す。地上に出ればより明るい光をたよりに、わき目もふらずにただ一つ広い海を目指すのである。その一歩はとても遅く、短い。尊い生命を無駄にはしまいと、確かに一歩を刻み込み、海へ、海へと歩き出す。決して振り返りはしないけれど、彼等の歩いた砂浜にはしっかりと足跡が残っている。
 私は筋力が徐々に低下していく筋ジストロフィーという難病で、在宅で仕事を得ることを目指している。数多くの人々に比べると、仕事を得るには遥かに遠い道があり、その道のりには険しい岩や壁がある。「チャレンジドを納税者に」を目指す支援団体「プロップステーション」との出会いは、希望の海との出会いでもあった。パソコンを使えば、自分の可能性が広がることを気付かせてくれ、また支えになってくれている。しかし、そこに辿り着こうと歩いていくのは自分自身しかない。断っておきたいのは、ウミガメに照らし合わせたのは、のんびり行こうという気持ちからではない。ただ私の場合は一気に突っ走ろうとすれば息が切れ、ますます道は遠くなる。ともすればそのまま道程に倒れてしまうのである。だから、自分に与えられたペースを知り、時には立ち止まっても、少しづつでも前進することを目指したいのである。
 現在、「プロップステーション」主催のコンピューターセミナーで学んできたことを生かし、ホームページ作成等コンピュータを使った仕事、翻訳、文章等の技術を磨いていこうとしている。まだ気付いていない可能性も探りつづけ挑戦してみるつもりだ。今はまだ暗い砂の中に埋もれているところかも知れない。けれども、いつか光の射す砂浜を、輝く海を目指して前に進もう。

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