タイトル・バー:CJFロゴ&「第11回チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)2006国際会議 in TOKYO / The 11th Challenged Japan Forum 2006 International Symposium in Tokyo」


【第11回チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)2006 国際会議 in TOKYO 議事録】


<各国のチャレンジド・ゲストからのメッセージ>

「ベッドの上で起業する」
日本 「上育堂」代表:川本浩之さん


コメンテーター 浜四津敏子 (参議院議員/与党ユニバーサルPT副座長)
  坂本由紀子 (参議院議員/与党ユニバーサルPT委員)



竹中/ ここからは日本のチャレンジドが登場します。

写真:ゲストの川本浩之さんを紹介するナミねぇまず上育堂のカワモッちゃん。彼、過激でんねん(笑)。今までのお三方とは、ちょっと趣、ちゃいます。「雇ってくれる会社がない。そんなら、社長になってやろう」ということで、施設のベッドの上で上育堂うえいくどうを興しました。「ワビスケ」がニックネームなので、私は「ワビちゃん」と呼んでいます。“サムライ”ワビちゃん。切り口、鋭いです。どうぞ。


川本/
 まいど! 関西弁でやらせていただきます。チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)では、千葉、神戸に続いて3回目の登場です。やっぱりここ、緊張します。

竹中/ ほんまかいな。


川本/ 「雇ってくれる会社がない。だったら社長になってやる」と言って5年なりました。そして、私もこの春、(障害者自立支援法の施行による自己負担の発生で)多くの障害者の方と同様、晩酌のビールが焼酎になりました。焼酎、いいですね。水で3倍にしてもまだおいしい。でもね、私、腹に決めていることがあるんです。貧乏は自己責任。私はそう腹を決めて生きていきます。

私のホームページに、女の子の写真が出ています。私の仕事のアシスタントだったこの女の子は、めでたく就職が決まり、私を見限って就職していきました。彼女は就職先が家から遠く、通勤しにくいので、通勤しやすいところにアパートを借りました。それだけで月数万円の自己負担です。

いま私たちの周りで、自己負担のことが論じられていますが、どれぐらいの自己負担かというと、人並みなんです。人並みでないのは何か。所得です。なのに、人並み以下の所得よりも、人並みの負担のほうが論じられる、重く考えられている。これには、私、本当に違和感があります。

負担のことを声を大にして言っている人。言い分があるのはわかっています。でもちょっと待ってくださいね。もし負担がゼロになったら、それで良くて、所得のことは何も言ってくれないんですか?

皆さん、賃上げよりも社員食堂の値下げを要求するような労働組合ってありますか? お勤め先の労働組合が、賃上げより社員食堂の値下げを要求したら拍手喝采しますか?

障害者就労というと、すぐに「働く喜び」という言葉が出てきます。もちろん、それも大事です。でも、もっと「稼ぐ」ことにこだわるべきだと、私は思っています。人並みに稼がせていただければ、私、人並みの負担は払います。2倍稼がせてくれたら、2倍の負担を払います。3倍稼いだら、ちょっと負けてほしいですけどね。(笑)

人並み以下の所得よりも、人並みの負担に論点が置かれていることに、私は、障害者が「稼げない人間」と見なされているような気がして、ちょっと腹立たしい気持ちを持っています。(拍手)

ありがとうございます。その拍手がほしかった。(大きな拍手)

写真:講演する上育堂(うえいくどう)社長の川本浩之さんナミねぇの紹介で、いろいろなところから取材がくるようになりました。そこで私がいつも言うのは、一般就労と障害者就労とでは評価の観点が違うんだということです。

企業の就労では、まず「ここで働いてください」と場所を指定されます。次に、「これを使って働いてください」と道具を指定されます。次に「こうやって仕事してください」と動作を指定されます。雇用する側は、指定した場所と道具と動作で、能率を求めるんです。

私たち障害者は、指定された場所、道具、動作に対応できません。そこで能率を求められても、企業の求める能率に応えることができません。でも、能率が悪いからといって、能力がないわけではないんですよね。能率の悪さを、能力がない」とはき違えられることが問題で、これに気づいていほしいといつも思っています。

障害者が仕事に就くためには、まず能力を発揮できる場所をつくります。次に、能力を発揮できる道具を手に入れます。そして、能力を発揮できる動作を身に付けます。そして、能力を評価され、稼ぐのが障害者の就労。私はそう言わせてもらいます。

自画自賛するわけではありませんが、私の場合をお話しします。

私は最初から独立起業をするつもりではなかったんです。会社に就職したかった。会社に勤めて、そこのOLとの社内恋愛にあこがれたんです。(笑) でも、私を雇ってくれる会社はどこにもなくて、在宅就労の道を選びました。

その仕事を始めるとき、「仕事は机でするものだ」と思っていて、ベッドから車椅子に乗り換えて机で仕事をしていました。でも、よく考えてみたら、ベッドの上のほうが体の負担は少ないし、車椅子に乗り換える手間も要らない。私は、自分の能力を一番発揮できる場所はベッドだと気づきました。ベッドという、能力が発揮できる場所を手に入れたわけです。それで、OLとの社内恋愛をあきらめて、ベッドの上で独立起業し、かわいいアシスタントを雇っています。(笑)

次に、能力を発揮できる道具ですけど、私は手が不自由なのでマウス操作に問題がありました。最初はそれに代わるトラックボールという道具を試しましたが、これはダメ。
ウインドウズの「ユーザ補助」機能を使ってみましたが、これもダメ。いろいろ探した末に、ようやく自分に一番あった障害者用マウスを手に入れることができました。これで私の能力を発揮できる道具を手に入れて、ホームページ作成の仕事をサクサクやらせていただいています。

最後に、能力を発揮する動作。私の場合、不自由な手でキーボードを打つよりも、口に棒をくわえて、キツツキのようにして打つほうが速いんです。自慢させてもらいますが、この方法でワープロ検定の日商4級に合格しています。(拍手)

私の合格を聞いた私と同レベルの障害者が、同じ日商4級に挑戦しました。そして、うまくいかなくて、どうやって合格したのかを聞いてきました。私はそいつに言いました。

「おまえ、ローマ字入力でやってるやろ。カナ入力でやらんかいな」と。

ローマ字入力は1つの文字うつのにキーを2回打たないといけません。300文字打とうと思ったら600回打たないといけない。カナ文字入力だと1文字1回です。どっちが速いか。

いわゆるワープロ入門書を見ると、一般向けのことが書いてあります。それが既成概念になっています。そういう既成概念にとらわれず、自分の能力を発揮する場所と動作にたどり着くのが、私たちの能力を発揮するための道です。

‥‥ナミねぇからツッコミがないので、どんどん行きまっせ。(笑)

竹中/ 聞き惚れているんです。どんどん行って。
写真:ステージ上で講演する川本浩之さんと熱心に聴き入る観客の皆さん

 バナー・上育堂

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川本/ 思い起こせば11年前、プロップ・ステーションの門をたたいて稼ぐところまできました。一番やっかいだったのは、自分の障害よりも世間の既成概念です。働く場を求めて障害者職業相談所というところに行ったら、受付でいきなり「手が動かん者に仕事はないよ」と言われました。もしここにタイムマシンがあったら、その時の受付のオッサンを連れてきたいです。ドラえもん、どっかにいないですか。(笑)

仕事を手に入れてからも、世間の既成概念が私を苦しめてくれました。

独立起業を思い立って、施設に確認を取りました。「ここで生活しながら独立起業したいのですが、何か差し障りはあるか」と。返ってきた返事は、「何一つ妨げる規則はない」ということでした。想定外だったわけです。

そして、独立起業すると、内からも外からもこう言われました。「働ける人間がなんで施設にいる。早く施設から出て行け」と。「なんで施設を出て行かなければいけないのか」と問うと、返ってくる言葉はいつも同じです。「それが普通だ」と。そんな普通がどこにあるんでしょう。

しかし、それが普通と思っている人間はいつも言いたい放題です。部屋に入ってくるなり、「川本さん、あんたいつまで施設にいるの。はよう出ていかな」と言うやつがいました。彼はホームヘルパー派遣会社の営業でした。そんなのはまだマシです。

写真:講演する川本浩之さん関西では一流と言われる社会福祉学科の4回生。それも大学院に進んでさらに福祉を極めるというエリートさんが、こう言いました。「川本さんみたいな人は普通、施設を出て行くのに、なぜ出て行かないんですか」。

私は言いました。「ふーん。俺みたいな人間は普通、施設を出ていくんか。ところで、おまえは俺みたいな人間、何人知っている? 数えてみろ。どれだけ多めに数えても俺1人やろ。俺みたいな人間は施設を出るって、誰が言っていた? どこに書いてある? みんなおまえの既成概念やろ。社会福祉学科だったら、根拠のない既成概念を偏見ということくらい習ってへんか。それともおまえの学科は偏見をもとにして教えているのか」と。

どこの大学かあえて名前は言いません。言えないというか、卒業生にうちの姉がいるもんで。(笑)

何が情けないって、私に施設を出て行けというやつのほとんどが、大学の福祉学科を卒業しているんですよね。何を習ったか知らないけれど、勝手に自分を世界標準にするなと言いたい。普通は人の数だけあるんですよ。

若い人はよう聞いてほしいです。若いと思っている人もよう聞いてほしいです。(笑)
世の中に基準はあっても普通はない。普通があるのは電車の時刻表やて。

私ら「会社で働きたい」と言っても、「あんたら普通に働けない」と言われるんです。だから私は、自分で働く場を作ったです。そしたら、それもまた普通やないと言うんです。自分を世界標準やと思っている人は、いつも私たちの回りに「普通」という壁を作るんです。そういう連中が、偉そうに言うんです。「バリアフリーな社会を作ろう」と。

ま、しかし、いつまでも自分を世界標準やと思っている人に偉そうに言わせませんよ。
ナミねぇが尽力した障害者自立支援法、これは私たちに多種多様な就労スタイルを認めているんです。枠を超えた組み合わせも認めています。もちろん、私のような施設入居者も就労することを認めているんです。

私だけではありません。四国にいる後藤田さん、岐阜にいる杉山さん、日本中に施設に暮らしながら「仕事がしたい」「金を稼ぎたい」と訴えた人たちがいます。自立支援法は、そういう人たちみんなが勝ち取った権利です。与えられた権利と違います。はっきりと言わせてもらいます。勝ち取った権利です。(拍手)
写真:右から一人おいて障害者自立支援法について熱く語る川本浩之さん、聞き入る坂本由紀子さんと浜四津敏子さん

ですから、私はこれからも胸を張って堂々と働く権利を行使します。私はこれからも施設で暮らし、そこで仕事を得て、金を稼ぎます。それにまだケチをつけるやつは、「最高裁判所で勝負したろうやないか」。(笑)

どうも、ありがとうございました。 

竹中/ サムライ・ワビちゃんでした。もう一度拍手を。(拍手)

川本君、ワビちゃんが初めてプロップのセミナーに勉強に来たときは、びっくりしました。京都の山奥の施設から、自分でリフトつきのワゴン車を手配して、サポーターを雇って、駅まで出てきて、電車に乗り換えて、京都から当時セミナーをやっていた大阪までやってきました。口に棒をくわえて、もう必死のがんばりようで、プログラミングもやる、グラフィックもやる。そして、いまはベッドの上で個人企業の社長さんですね。

でも、それだけの人でも、「おまえ、障害者で施設の中にいるんやったら、おとなしくしとけよ」「働くんやったら出て行けよ」と言われてしまう。福祉畑、まるまる福祉の仕事をしている人、めざしている人が、まだそういうことを言うような社会なんですね。
お話の中で何人か名前が出ましたが、プロップのスタッフや仲間には施設のベッドの上で働いている人がいらっしゃいます。それから、今朝インターネット中継で少しご登場いただきましたが、くぼりえさんも自宅のベッドの上で仕事をされているわけです。こうした人たちに対して、私たちは既成概念を超えられるかどうかを問われていると思います。

さて、非常に刺激的な話を聞いてしまったコメンテーターのお2人からも、ひとことずつお願いします。

浜四津/ 本当に前向きで、元気で、バイタリティにあふれる川本さんのお話をうかがって、うれしかったことが1つ、そして確認させていただいたことが1つあります。

うれしかったのは、私どもはナミねぇからもいろんな意見をいただきながら一生懸命、障害者自立支援法を作りました。が、その後、各地を回りますと、「なんで障害者の負担を負やすんだ」「障害者いじめだ」というような怒りとか不平・不満をたくさん聞きました。
課題があることは承知しています。

でも、私たちはこの法律の方向性は間違っていないという思いで作ったんです。ですから、川本さんが自立支援法を評価してくださったのは、たいへんうれしかったことです。

確認させていただいたことは、社会の既成概念、偏見が苦しめたというお話をうかがって、「これを変えようというのが、私たちのユニバーサル社会を作っていこうという挑戦なんだ」ということです。

障害者の皆さんが社会に無理矢理自分を合わせるのではなくて、むしろ社会のあり方を障害者の方々にも合わせるということ。そういうように社会を変えていくことが、ユニバーサル社会実現への方向性なんだということ。今の社会の既成概念を変えて、偏見をなくしていく、その行き先がユニバーサル社会なんだということを、あらためて確認させていただきました。ありがとうございます。

坂本/ 私は川本さんがおっしゃった「自己負担は人並みだが、所得が人並みでない」という指摘が、まさにその通りだと思います。チャレンジドは給料が安くて当たり前だとか、そういうかわいそうな人たちだから特別にしてあげようという発想は、チャレンジドの尊厳を傷つけるもので、本当にチャレンジドのことを考えたら、むしろ彼らが社会の中で働ける環境を整えて、「さあどんどん稼いでください」ということだと思います。

その代わり、みんなで支え合いだから、チャレンジドだって稼いだら税金も負担していただくということだと思います。そういう意味で、まさに本質を突いていると思います。

総理が「人生いろいろ」とか言って顰蹙ひんしゅくを買ったことがありましたが、チャレンジドの就労については、それぞれの人がいろいろ多様で、だからやり方もいろいろあって、何かを押しつけるとか、決めつけるというのは、私は間違っていると思います。

お話を聞いていて、気をつけないことがあるなと思いました。それは「思いこみ」ですね。たぶん、川本さんに「働けるんだったら施設を出るべき」と言う人は、川本さんのかわりに、もっと働けない人を施設に入れてあげたいという思いがあったのかもしれない。これは推測ですが、川本さんに意地悪しようというよりは、もっと可哀想な人たちで入りたい人がいるから、空けてくださいというつもりで言っていたのかもしれない。

そういう思いこみが、はたして正しいのだろうか‥‥。悪意のある思い込みだと、本人も「本当はこんなこと言っちゃいけないんだ」と思っているものです。しかし、悪意のない思い込みでは、良いことだと思っていることが実はチャレンジドのためじゃなかったり、世の中のあり方として違っていたりする。そういうものが、まだ世の中にはいっぱいあるのかもしれないと、すごく思いました。

ですから、私たちは「これで良い」と思っているひとつ一つのことについて、「本当にそうなんだろうか」ともう1回見直す必要があると思います。福祉というのは、保護することや与えることが一番いいのではなく、いかにその人の尊厳を認めて、その人たちが社会の中で能力を発揮できるようにするかということが大事。そういう社会の方向性に照らして、「これでいいのかな? 私たちの思いは正しいのかな?」と、もう一度見直していく必要がある。そういうことを、川本さんは厳しい言葉でおっしゃったんだなと思いました。

竹中/ ありがとうございます。ワビちゃんは、ちょっと今日はおとなし目です。あれでおとなし目です。彼のブログなども、ぜひ見ていただけたらと思います。どうもカワモッちゃん、ありがとうございました。

写真:最後にそろって記念撮影。前列に川本浩之さん、後列右から浜四津敏子さん、ナミねぇ、一人おいて坂本由紀子さん

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