毎日新聞 2010年9月10日より転載

郵便不正、村木被告きょう判決

「官」「民」超え 障害者支援、二人三脚

障害者団体用郵便物の料金割引制度が悪用された郵便不正事件で、虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた厚生労働省元局長、村木厚子被告(54〉に対する判決が10日、大阪地裁で言い渡される。逮捕直後から村木被告の無実を訴え、支援を続ける人たちがいる。社会福祉法人「プロップ・ステーション」(本部・神戸市東灘区)理事長の竹中ナミさん(61)もその一人だ。「官」と「民」の立場を超え二人三脚で障害者の就労支援に取り組んできた。竹中さんは「障害者が誇りを持って生きていける社会の実現のため、また厚子さんと一緒に仕事がしたい」と話す。【桜井由紀治】

「厚子さんと、また仕事したい」 ── 社会福祉法人理事長 竹中ナミさん


プロップ・ステーションの仲間とふれあう竹中ナミさん。村木被告の無実を訴え続けてきた=神戸市東灘区で

竹中さんは今年1月の初公判から欠かさず裁判を傍聴し続けた。共通の友人である元大阪市助役で弁護士の大平光代さんとインターネット上にサイトも開設。細かくメモした傍聴記を書き込み、支援を呼びかけてきた。反響はすごく、500通を超える励ましの手紙が届くなど、村木被告を支援する輪が広がっていった。

2人が知り合ったのは15年程前。竹中さんがプロップ・ステーションの活動を始めたころで、法律・制度を変えなければ障害者の自立は実現しないと考え、霞が関を初めて訪ねた。村木被告は旧労働省官僚。竹中さんは今でこそ、活動が認められて官僚にも一目置かれた存在だが、当時はまだ知られていなかった。それでも、村木被告は真摯に耳を傾けたうえで「日本のシステムを変えていかないと駄目よね。一緒に変えていきましょう」と共感してくれた。「たおやかで霞が関のキャリアらしくない人」という印象を持った。

村木被告は現場の生の声を聞くためどこにでも足を運んでいたという。子育てをしながら仕事でも努力して壁を乗り越えていく姿に引かれ、交流を深めた。98年7月、「プロップ」が法人認可されると「今まで以上にタッグを組んでやっていけるね」と喜んでくれたという。

昨年6月、その村木被告が逮捕されたという報道に「これは冤罪だ」と直感したという。同7月、大阪拘置所で面会した時のこと。村木被告は家族のことを心配しながらも落ち着いており、今置かれた状況を受け入れようとしていたという。10分程度の面会の最後、村木被告は「ナミねえ(竹中さんの愛称)、(拘置所の食事の)麦飯って案外いけるのよ」と笑った。「その強い精神力が異常な状態の検察の取り調べに耐え、毅然と『私はやっていない』と否認し続けられたのでしょう」

村木被告が保釈された昨年11月25日、この日首相官邸で開かれた「雇用戦略対話」に出席していた竹中さんは、東京駅で村木被告を迎えた。新幹線の車両から出てきた村木被告を「お疲れ様」と力いっぱい抱きしめた。

10日の判決は自分の耳で無罪判決を聞きたいと「プロップ」の仲間とともに傍聴券を求める列に並ぶ。「裁判が終われば『厚子さん、あんたはすごい』ともう一度飛びついて抱きしめてあげたい」としながら「彼女にはやり残した大切な仕事がある。当然無罪判決となるだろうが、ぞれだけでは名誉回復にはならない。一日も早い職場復帰のために検察は即座に控訴を断念すべき」と訴えた。

たけなか・なみ 1948年生まれ。lTを活用して障害者の就労在支援する「プロップ・ステーション」理事長。自身も重度心身障害の娘を持つ。今年6月から日本放送協会(NHK)経営委員会委員も務める。

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