毎日新聞 2010年7月2日より転載

瓦解(下) 郵便不正事件

「本当のこと知りたい」

密室のメモ次々「廃棄」

障害者施策について講演する塩田幸雄・小豆島町長・香川県土庄町で6月27日、玉木撮影

郵便不正事件の最終弁論で、大阪地裁に入る村木厚子被告=大阪市北区で同29日午後1時11分、貝塚太一撮影

「検察官が厚生労働省元局長、村木厚子被告が関与したとのストーリーを描いて取り調べたと認められる」。5月26日、大阪地裁の横田信之裁判長は、検察側が証拠請求した捜査段階の供述調書のうち、主要なものを却下した。偽証明書を作成した厚労省元係長、上村勉被告(40)が「村木さんに指示された」と認めた調書も含まれていた。

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オリーブに小さな実がつき始めた初夏の小豆島(香川県)。4月に就任した塩田幸雄・小豆島町長(58)は先月下旬、眼下に瀬戸内海が広がる観光ホテルで重い口を開いた。

塩田町長は、偽証明書が作成された04年6月当時、厚労省障害保健福祉部長の地位にあり、村木被告(54)=当時課長=の上司だった。昨年の大阪地検特捜部の捜査で自宅を捜索され、十数回にわたり取り調べを受けた。

取り調べはいつも同じ内容だった。巨漢の若い検事は「石井(石井一・民主党参院議員)から証明書を発行するよう頼まれ、村木に便宜を図るよう指示したはずだ」と迫った。家宅捜索では業者などからの贈り物を発見され、特捜部に弱みを握られた。塩田町長は「部長の時は政治家との窓口だったし、日ごろから何でも村木さんに相談していた。記憶にはないが、証明書の件でもやりとりしたのかなあと思って認めてしまった」と悔やむ。

塩田町長は公判で、石井議員の口添えと村木被告への指示を否定した。「検察は現職キャリアを逮捕したかったんだ。僕はもう退職していたから逮捕する価値がない。だから村木さんだった。この事件は検察の妄想だ」と言い切った。

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特捜部でこの事件を捜査した検事の1人は取材に対し「最初から課長(村木被告)が指示したなんて思ってない。上村被告が単独でやった可能性もあるし慎重に調べた」と話す。関係者を聴取する中で村木被告の存在が浮かび上がり、捜査現場に「まさか」という雰囲気が漂ったという。今でも「事件は組織的なもの」と確信している。

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密室の取り調べで作成される「供述調書」。被告や証人が公判で調書の内容を否定すると、どちらが正しいのか裁判所は判断しなくてはならない。

この事件の公判では、取り調べをした検事6人が証人出廷した。取り調べ中に使ったメモやノートについて問われ、6人全員が「廃棄した。自分の判断だ」と証言した。ある元特捜検事は「裁判で争いになった場合に備え、メモなどの自分の記録は残しておいた方がいいと指導された。大抵の特捜検事は残している。全員が『廃棄した』なんて、上司の指示か、嘘としか思えない」と苦笑した。

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村木被告は先月初め知人にこう話した。「どうしてこんな事件になったのか、自分なりに考えているところです。本当のところを知りたいんです」

判決は9月10日午後2時、大阪地裁で言い渡される。(この連載は、日野行介、林田七恵、玉木達也が担当しました)

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