毎日新聞 2010年7月2日より転載

瓦解(中) 郵便不正事件

調書 裏付け取らず

検察 自らの構図に執着

特捜部の捜査について語る石井一参院議員=参院議員会館で6月9目、岩下幸一郎撮影

「検事にだまされた」と訴える河野被告=東京都内で6月7日、日野行介撮影

「凛の会」(解散)の設立メンバー、木村英雄さん(68)は昨年6月、大阪地検特捜部の取り調べを受けた。凛の会代表、倉沢邦夫被告(74)と一緒に、民主党の石井一・参院議員(75)に面談したのではないかと聴かれた。04年の倉沢被告の手帳の2月25日の欄に「13:00石井一バートル木村」と木村さんの名前と会社名があったからだ。

「覚えがない」と言うと、検事は「議員会館に入った経験はありますか」と尋ねた。木村さんは「入ったことはある。部屋には応接室がある」などと知っている範囲で答えた。できあがった供述調書は「私は倉沢さんと議員会館に行き、石井議員の応接室で口添えを依頼した」となっていた。

検事はこれに署名を求めた。木村さんが「これはあなたの作文だ。私は石井さんに会ったことはない」と反論すると、検事はそれまで紳士的だった態度を変え「お前は会っているんだ。いいんだよ」と声を荒らげたという。木村さんは「何を言っても無駄」とあきらめて署名したが、公判で「供述調書は事実ではない」と証言した。木村さんは首をかしげる。「特捜部はなぜ裏付けを取ろうとしないのかね」

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特捜部は、厚生労働省は石井議員がからんだ「議員案件」として「凛の会」を障害者団体と認定する偽証明書を発行したという構図で捜査を進めた。だが、石井議員を事情聴取したのは、厚労省の現職局長だった村木厚子被告(54)を起訴してから2カ月以上過ぎた昨年9月。

石井議員は昨年末、村木被告の弁護人からの連絡で、特捜部の捜査では04年2月25日に倉沢被告らと面談したことになっていると聞かされた。30年来の手帳を保存している石井議員は、04年の手帳を鯛ベた。2月25日は千葉県でゴルフをしていた。石井議員は取材に「問題の日のアリバイについて、特捜部からは全く聴かれなかった。聴いてくれればよかったのに。なぜ一方的な話だけで起訴できるのか」と驚く。

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偽証明書が作られてから5年後の捜査。関係者の記憶は薄れ、特捜部は裏付けのないまま、身に覚えがない供述調書を積み上げた。

凛の会の発起人、河野克史被告(69)は、大阪地裁の公判で起訴内容を争わず有罪判決を受けた。大阪高裁に控訴して一転、事実関係を争う。他の被告らの公判を見て決意した。取材に河野被告は「取り調べ中に検事の言ったことが、嘘だったと公判で分かった」とまくし立てた。検事から「木村は石井のところに行ったのを認めたぞ」「倉沢は村木に頼んだんだ」などと聞かされ、事実だと信じていたという。

検察は、国会議員が登場し、厚労省幹部が関与した「重大事件」と主張する。河野被告は「はっきりしているのは、我々が厚労省に証明書を求めたこと、上村さん(厚労省元係長)が決裁を取らずに証明書を作ってしまったこと。それだけのことだ」とあきれて見せた。

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