厚子さん、第8回公判傍聴記 by ナミねぇ

2010年2月24日

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2月24日(水)am9時45分、すっかり通い慣れた大阪地裁に到着。
今日の上村元係長の出廷は「事件の天王山」とあって、傍聴券の抽選を待つ人の列が。
私は東京から来られた厚子さんのお嬢さんと合流し、家族傍聴席に着席。

今日の弁護団は、弘中弁護士はじめ8名が臨席。検事側は5名。報道関係者がいつもより非常に多い!

10時ジャストに裁判長が開廷を告げ、証人席で上村氏が自分の氏名を名乗った後「決して嘘を言わない」との宣誓文を読み上げ、第8回公判がはじまる。

結論から言うと、今日の公判は「天王山」どころか、「検察発表と真逆の」まるで「大山鳴動して鼠一匹」とも言えるような、あきれ果てる結果であった。

「大きな法改正の直前でもあり、予算策定という重要案件の前には、こんな瑣末な(障害者団体への証明書発行という)案件は、偽造してでも早く片付けようとの思いから、偽造も手渡しも全て自分の独断でやったことである。」というのが、今日の上村証言の発言要旨でありかつ、結論だ。

上村元係長は、まず平成16年のゴールデンウイーク頃に「公的証明書発行手続きのための稟議書」を偽造。
その後、6月1日未明に、誰れも居ない職場の自席で公的証明書をパソコンで偽造。
そして、午前8時過ぎにプリントアウトし、(課員なら)誰でも取り出せる所においてある「企画課長印」を押印し「凛の会」に連絡。
その日のうちに、厚労省と隣接する弁護士会館の地下の喫茶店で河野に会って、証明書を手渡した。

後ろめたい思いがあったので、厚労省内に河野を入れたくなかった。
手渡してすぐ、厚労省に走って戻った・・・と証言する上村氏。

この証明書で河野らが何億もの利益を上げるなど予想だに出来ず、従って偽造証明書の発行がバレルとは、全く思わなかった。
証明書を手渡した後は、瑣末な案件を処理出来たので「これで重要な予算の仕事に専念できる」と安堵した。

消え入るような小さな声で、ぼそぼそと、淡々と証言する上村元係長。

今日は検事側尋問だったが、検事もあきれたように「上司に相談しなかったのはなぜか?」「何度も正式な決済を仰ぐ機会があったのじゃないか」「公務員として偽造に不安などを感じなかったのか?」と、公務員の倫理観について問いただすが「早く処理したかった」「目の前からこの案件を消したかった」と、応え続ける上村氏。
その声は聞き取れないほど小さく、時折、鼻水をすすり上げて泣き声となる。

この人には、公務員としての倫理観も矜持も無いのか!?
こんな部下の一人芝居のために、厚子さんは逮捕され、長期間勾留されたのか!
厚子さんの無念を思い、傍聴席で怒りに身体を震わせながら私はメモを取り続ける。

上村氏の証言が続く。
河野からは、脅かしも、強い催促もなかった。議員案件と言われているが、石井議員の名前については、証明書を手渡した喫茶店で河野に見せられた名刺に、手書きで「衆議院議員 石井一」と書いてあったので、あぁ政治家も関わってた案件だったのか、と感じた程度だ。

自分には政治家のことなどどうでもよく、早く偽造証明書を渡して職場に戻りたかったことだけ覚えている。決してバレないと思っていたのに・・・・・こんなことになるなんて・・・と、まるで「自分は不運だった」と言わんばかりの上村氏の証言に、怒りと驚きを通り越し、遂には情けなさが胸に広がってくる。

と同時に、大きな疑問がわきあがる。

上村氏は、検察での取調べ当初「独りでやった」と供述していたようだが、いつの間にか「村木課長の指示」「政治案件なので急いで、と言われてやった」などと証言が変わって行った。
それはなぜなんだろう?

上村氏が河野被告に偽造証明書を直接手渡したのなら、「倉沢被告が、受け取った日付けも思い出せないくせに、村木課長から、課長席で証明書を手渡されたと、執拗に言い続ける」のはなぜなのか?

今日、上村氏はこの倉沢証言を「全くの嘘。自分が河野に渡した」と何度も明言した。
「厚子さん関与説」の決定的証拠とも言うべき「倉沢証言」の筋書きを創造し、彼にそれを言い続けさせているのは、いったい誰なのか!!??

巨額の利益を得た河野、倉沢らが罰金刑で短期間で保釈され、上村氏も250万円の保釈金で釈放。厚子さんの元上司は逮捕すらされず、厚子さん一人が「逮捕され、地位も名誉も剥奪され、5ヶ月間も真夏の冷房すら無い拘置所に勾留されたうえに、1,500万円もの保釈金を積まねばならなかった」のは、いったいなぜなのか!?

裁判の行方を見つめる私たちにとって今必要なのは「現代日本に起きた、こんな理不尽な出来ごとのプロセスを、きっちり解明することだ」と、私は思う。

今日の厚子さんは、ごげ茶色のスーツにクリーム色のとっくりセーター、そしてひっつめ髪といういつもの清楚な(っていうか、地味っ!)な姿。
傍聴席で私の隣に座る厚子さんのお嬢さんも、厚子さんと同じように髪をキュッと後ろでまとめ、でもそこには愛らしいリボンが揺れている。静かに公判を見守るお嬢さんからは、「母が突然逮捕・勾留される」というショッキングな出来事を前にしても、母の無実を信じる強い意思が伝わってくる。

「人は弱いものだから・・・」
取調べに「ポロポロ落ちて」、その結果、厚子さんを陥れた男たちを私が非難した時、静かにつぶやいた厚子さんの声を思い出す。
そしてその厚子さんは、いま法廷で、泣きながら偽造証明書作成の顛末を証言する上村氏を、慈母のような眼差しで見つめている・・・

「私も冷静に公判を見つめ続けよう・・・」そう心のなかで誓った時「午前の公判はこれで終わります。」と、裁判長の宣言が耳に届いた。

13:20、午後の公判が開廷。検事側尋問が続く。
尋問のポイントは「上村元係長は、なぜ今日の公判で供述調書の内容を覆し、単独犯だと証言しているのか」「どのような取調べが行われたのか」に絞られて行った。

公判担当のS検事は、取調べで作成された何通もの「供述調書」を、時系列に上村氏に示し「あなたはこの調書を確認し、署名し、指印を押していますね」と問いかけ「はい」の返事を聞いてから、「今日の公判での証言と調書の内容がなぜ違っているのか」を問いただしていく。

S検事「あなたの今日の証言は、供述調書と同じですか?」

上村氏「全く違います。調書では、『石井議員からの依頼を部長が受け、村木課長を通じて指示が社会参加推進室に降りてきて、公的証明書の偽造がなされた』という流れになっているけれど、すべて検事の作文です。いくら『私が単独でやった!』と言っても全く聞いてくれなかったんです。全部でっちあげです。」

S検事「100%作文なんですか?」

上村氏「真実を語ってる部分もありますが、単独でやったことが書いてないので、すべて作文といえます。」

S検事「でもあなたは弁護人から、供述内容と調書が違っていたら署名しないようにと、アドバイスを受けていたでしょう? だからあなたは、調書が証拠になると分かっていたと思いますが。」

上村氏「全然知らない所に連れてこられて(注:上村氏はいったん東京地検で取調べを受け、その後検事に新幹線で大阪地検に連行され、そこで逮捕された。ちなみに、自分の旅費はATMでその時に下ろしたという)自分に起きていることが何が何だか分からなくて・・・ドキドキしたりして・・・眠れなくて睡眠薬を頼んだけど、医師の診察で却下されました。今も睡眠薬が必要な時があります。」

S検事「取調べの時、検事が怖かったんですか?」

上村氏「いえ、優しい・・・普通の人です。でも自分に都合の良いことだけをメモして調書にして・・・私の言うことはメモも取らないんです。この事件は、厚労省の組織犯罪だ。あなたはトカゲの尻尾切りされてるのだ。厚労省の膿を出し切って良い組織にするには、事件を糺さねばならない、というのがその検事の口癖で、何度も何度も聞かされました。ノンキャリはキャリアに蔑視され、差別されてる・・・というのも検事が言ったのに、僕の供述のようになっています。たしかにキャリアとノンキャリとはあまり交流がないし、ノンキャリ同士でつるむ(飲みに行ったり?)ことが多いけど、それを伝えたら蔑視や差別と書かれたんです。」

傍聴席から失笑が漏れる。

S検事「でも、村木さんの関与について書かれている調書に、あなたは署名してますよね?」

上村氏「村木さんの関与なんて、自分は一度も言ってないのに、拘留期間が長引くよとか、再逮捕をちらつかされたり・・・有形無形の圧力が有って、関与について『はい』と言ってしまったんです。それだけじゃなく、あの人はああ言ってる、この人も認めてるって、外堀を埋められるような感じで言われると、弱い立場なので、もういいや・・・と諦めの気持ちになってしまいました。自分の意思とは違うけれど、大人しくしないとダメだ・・・と、ずるいかもしれないけど、自分の身を守ることだけを考えるようになってしまいました。検事さんはね、体調はどう?とか食事はちゃんと食べれてる?とか、優しく聞いてくれるんですが、僕の供述は無視して、自分の考えをどんどん冷静な態度で調書にして行くんです。この人が豹変したら僕はどうなるんだろうって・・・その冷静さがすごく恐ろしかったです。話が、どんどん大きくなって行き・・・恐怖感でいっぱいでした。」

上村氏が、涙を流し鼻水をすすりあげながら語るのを聞きながら、私は思った。

上村氏の小心な性格、公務員としての倫理観の希薄さなどによって、証明書が偽造されたのは確かなことであり、恥づべきことである。
でも上村氏の小心につけ込んだり、厚子さんの上司であった元部長に「嘘の証拠」を突きつけて偽証を引き出したりしてまで「この事件は、国会議員案件から発した厚労省ぐるみの犯罪であり、その要は村木厚子元課長である」とのストーリーを創作し、厚子さんを極悪な犯罪者として逮捕・勾留し続けた検察の卑劣な行為は、偽証させられた証人たちの比ではない。

なぜこのようなストーリーが創作されたのか、かならずや明らかにしなければいけない、と。

今日の公判が終わり、法廷を後にする人の中に「見知った女性」がいたので、思わず会釈すると、彼女も少し怪訝な顔をしながら会釈を返してくれた。
「誰やったかなぁ・・・?」考えながら地裁を出たとたんに「あ、ジャーナリストの江川紹子さんやったんや!」と気づく。
見知った人と思ったのは、TVでよく拝見するからだったのですね。
怪訝な顔をされたのも当然と、一人で赤面。

江川紹子さんも今日の傍聴記をツイッターに書いておられるので、ぜひ読んで下さい。
http://twitter.com/amneris84

上村氏の声が小さくて私には聞き取れなかったんやけど、江川さんのツイッターには
「もう一つ上村証言より。村木課長(事件当時)の逮捕は、検事総長が了解したと、(國井検事が)言っていました」 との記述があります。
さすがにジャーナリストの耳、ですねっ!

明日は、検事側が1時間、その後弁護側尋問。
私は、午後神戸で講演するので、午前中のみ傍聴する予定です。

<文責:ナミねぇ>

 

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