国防総省がチャレンジド支援する理由に衝撃
― ダイナーさんとの初めての出会い ―

NEW MEDIA 2000年8月号より転載

この文章は、プロップ・ステーション主催の第6回チャレンジド・ジ ャパン・フォーラム2000の開催を間近に控え、ナミねぇが「NEW MEDIA」のインタビューに答えたものです。ダイナーさんとの出会いについて詳しく触れているのでご紹介します。

 

国防総省がチャレンジド支援する理由に衝撃

(前略)
私がコーエンさんと出会ったのは、昨年(※1999年)10月、シアトルで開催されたテレワーク国際会議でした。チャレンジドのテレワークに関する分科会があったので参加したら、ビシッと制服に身を包んだ小柄な女性が現れて講演を始めた。それがコーエンさんだったんです。

最初は「チャレンジドのテレワークというテーマの講師が、なんで国防総省の人なんだろう」と違和感を覚えました。CAPの話が出た時は、国防総省にそういう部署があること自体に驚きました。しかも、話を聞けば、最先端の情報技術を注ぎ込んで受け入れ態勢を整えて、やる気のある優秀なチャレンジドを積極的に採用しようとしている。また、チャレンジドの職員が能力を十分発揮できるように支援している。その中に、在宅のテレワークの取り組みもある。コーエンさんの語るCAPの充実ぶりには、本当に驚きました。

と同時に、「どうして国防総省がそこまでするんだろう」という疑問が生まれました。日本では、防衛庁がチャレンジドの就労のためにそこまでするなんて考えられないことですから。それで、私は講演が終わったところで手を挙げて質問しました。すると、コーエンさんは背筋をひときわピンと伸ばし、厳しい目をして、こう答えたんです。

「すべての国民が誇りを持って生きられるようにすることが、国防の第一歩ですから」チャレンジドの就労と国防という一見何の関係もないテーマの背景に、人間の誇りの問題という背骨が一本ビシッと通っている。そのことに、私は言葉も出ないほど心を打たれました。そして、深く共感しました。

というのは、コーエンさんは国防という観点から人が誇りを持って生きることの大切さを指摘したけれども、プロップのスローガンである「チャレンジドを納税者にできる日本」も、言い換えれば「チャレンジドが誇りを持って生きられる日本」であり、「すべての人が誇りを持って生きられる日本」だからです。根底では同じことを言っているんだなと思ったんです。

 

政府機関がチャレンジド採用で競う米国

[写真]2000年にペンタゴンを訪ねた際のツーショット

「この人の話を聞きたい」と強く思った私は、分科会がお開きになった時にすかさずコーエンさんに駆け寄って、プロップとCJFのことを紹介し、「ぜひ講師として来日して欲しい」とお願いしました。前向きな返事をいただけたので帰国後もメールで連絡を取り合って、今年2月には、実際にペンタゴンを訪ねてCAPの活動を見学させてもらうことができました。

CAPでは小さな工夫からハイテク機器までいろいろなチャレンジド支援機器を見せてもらいましたが、驚いたのは「国防のために開発した最新鋭の技術を、最重度のチャレンジ ドが働けるようにするために活用している」という話でした。たとえば、最新鋭の戦闘機は、見えない、聞こえない、身体の自由が利かないといった苛酷な条件下でもパイロットがちゃんと操作できるように開発される。そうしたら、その技術は普段この地上で同じよ うな障害を持っているチャレンジドのためにも使うべきだ、という発想なんですね。

もう一つ驚いたのは、チャレンジドの受け入れに非常に熱心なこと。単に機材や環境を整えて待っているだけではなくて、たとえば毎年チャレンジドの学生を300名インターンで受け入れているという。「どうして」と尋ねると、「優秀な人を採りたいからですよ」と当然だろうという顔の答えが返ってくる。

コーエンさんの紹介で農務省のCAPのような部署も訪ねることができたんですけど、そこでも非常にチャレンジド受け入れの環境整備に力を入れていて、担当者が熱心に説明 してくれる。その後ろで、白杖をついた目の見えない職員が非常に慣れた様子で書類をプリントアウトしていったりもする。

アメリカではもう、チャレンジドが情報機器を使って普通の人と同じように働くのが当たり前になっていて、各政府機関が少しでも優秀なチャレンジドを採用するために競い合うという状況まであるようなんです。

背景には、90年に雇用や交通・通信など広い範囲にわたって障害者差別を禁じるADA(障害を持つアメリカ人法)という法律が成立していて、政府機関は率先してその法の精神を具現化することが求められているという事情があります。昨年6月にはクリントン大統領が、知的障害者や重度障害者についても「政府自らが雇用と昇格を平等に行い、企業の先導者とならなければならない」という大統領令を出しています。

[写真]脳波を使った入力装置

また、国防総省には特別な事情もあるようでした。いろいろな人から「ベトナム戦争が多くの人からアメリカ人としての誇りを失わせた」という話を聞きました。そういう事情からすると、コーエンさんの「すべての国民が誇りを持って生きられるようにすることが国防の第一歩」という言葉の背景も、アメリカとりわけ国防総省がベトナム戦争で負けた深いトラウマがあるのでしょう。

しかし、ひどい戦争をしてしまったことへの反省から、国防のための最新の技術を戦争で傷ついた人の社会復帰やチャレンジド一般の就労支援のために使おう、そして誇りを持って生きてもらうことで国防すなわち国を愛する気持ちを回復させようという方向に進んだのだとしても、それはそれで素晴らしいことだと思います。

 

いまこそ求められる「誇りを持てる生き方」

ペンタゴンを訪ねて感動を新たにし、また多くのことを考えさせられた私は、改めてコーエンさんにCJFへの参加を要請しました。彼女からのOKの返事をもらえたのは、その後さらにメールのやり取りを重ねてからでした。

OKをもらえるまでに時間がかかったのは、単に彼女が忙しいからではありません。実は、チャレンジドの就労を支援する部署の責任者である彼女自身が、外見からそれとわからない難病を抱えたチャレンジドで、遠出には医師の判断が必要な身だったのです。しかも、彼女は介護の必要な両親を抱えていて、その面からも遠出をするのが簡単ではなかっ たのです。

女性。障害者。介護の必要な親がいる。日本はまだ、このうちのどれか一つに該当するだけでも、管理職になったり管理職を勤め続けたりすることが難しい社会です。三つとも該当するコーエンさんが管理職として活躍している背景には、もちろん彼女個人の努力があると思いますが、ここではそういう条件を抱えた人々を支援する社会システムがあるという点が重要です。CAPはまさにその一つであるわけです。

いまの日本は、「女性だから」「高齢だから」などなど、さまざまな理由でバリアを設けている社会に対して不満を抱いている人も、たくさんいるでしょう。

そんな中で、コーエンさんが語った「すべての国民が誇りを持って生きられるようにする」という課題は、いま非常に重い意味を持っていると思います。今回、多くの方にCJFに参加いただいて、コーエンさんの講演をはじめとする多くのセッションから「人が誇りを持って生きて行ける社会づくり」についてのメッセージを受け取っていただきたいと願っています。(談)

(構 成:中和正彦=ジャーナリスト)

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