いきいきSMILE 2010年春号より転載

女性も、高齢者も、障がい者もやれば出来る社会にみんながチャレンジド!

竹中ナミの写真
福祉の受け手側から支える側へ
「障がい者の就労」を支援する
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長

竹中 ナミ さん

福祉・介護最前線Interview

女性も、高齢者も、障がい者も
やれば出来る社会に
みんながチャレンジド!
 コンピューターネットワークを活用して障がいを持つ人の自立と社会参画とりわけ「働き、稼ぐ」こと支援し続ける社会福祉法人プロップ・ステーション理事長、竹中ナミさん。「障がい者の就労」などについてお話をうかがいました。

 

−プロップ・ステーション開設のきっかけは?

 37年前に重症心身障害の娘を授かり、24時間介護に明け暮れる日々だった私は、娘を通じて知り合った障がいを持つ多くの人が、単に福祉の受け手でいることにすごく不満を感じており、自分たちも社会に何かを返せないか、返していきたいと感じているのを知りました。

 そしてコンピューターを使えばそれが実現できるのでは−と、1991年の5月、草の根グループを作ったのが、プロップ・ステーションの始まりです(PROPとは「支えあう」という意味)。先生を集め、メーカーからPCやソフトの提供を受け、このセミナーを開始したのです。

−チャレンジドということばとの出会いは

 阪神大震災で家を失い、仲間も被災者となって茫然自失に。そんな時、アメリカにいる支援者から、アメリカでは障がい者のことを、可能性に着目した「チャレンジド」(挑戦する使命とかチャンスが与えられた人)というポジティブな呼び方をしていると聞いたんです。

 みんな人間には自分の課題に向き合う力が与えられていて、課題が大きいほどその力も多く与えられているという哲学を含んでいるというのです。

 それを聞いたとき、課題いっぱいの私も「向き合えるんやわ!」と思いました。このチャレンジドということばで、課題に向き合える自分たちを知り、同時に情報通信の技術がたくさんの人たちをつなぐこと、支えあうことにどれほど役立つかを学んだのです。

 おかげさまで、行政の文書や、研究者の方、また鳩山首相の所信表明の中でも「チャレンジド」が使われ、少しずつ定着しています。以来、私たちにとって、「チャレンジド」と、「情報通信技術(ICT)」は、とても重要な2本柱となっています。

−そういう考え方を理解しない人も多いのでは?

 私のやっていることは、善とか正義とか社会改革とかいったものではなく重症心身症の娘を持つ「オカン」のわがままとして、彼女を残して安心して死ねる社会にしたい、という目標を勝手に立ててやってること。そのような社会を求めているからやっているんです。

 でも、ほんの数十年前、女性は外で働けない、政治に関与するな、と言われた時代があったように、チャレンジドが働くということも、いつか意識が変わり制度ができると思うんですよ。

 だから働きたいと言っているチャレンジドたちの努力は社会に大きな効果をもたらすと私は思っています。

 

障がいがあるから「支えられる人」、ないから「支える人」という常識を覆したい

−どんな体制でどういう活動をされていますか?

 10人程度いるスタッフもプロップで一緒に勉強して技術を身につけたチャレンジドが中心です。障がいある子が技術者になったり講師として次の人を育てたりという形で広がっています。

 公共の訓練校やキャリアスクールとは違い、私たちは民間ですので当然お金(受講料)を取ります。やはり、元をとる気にならないと、本気で勉強しないので、教える側も真剣です。将来自分が講師やワーカーになって収入を得るためにも一生懸命勉強するわけです。

 週に1回ずつ10回のコースや、半年ぐらいのコース、内容のレベルもさまざまで、自由に選択できます。養護学校を卒業してひらがなしか読めない子が、グラフィックソフトでポスターを作ったり、加減乗除の計算さえ苦手な子が、文章入力、データベース、表計算ソフトで企業からの仕事を請けられるようになるのです。

 本物の技術を身につけないと仕事としてお金は取れないですから、その道のプロと出会う場を提供するのも私たちの役目です。だから超一流のパティシエから菓子職人へのスキルを学んでもらったり、大手通販会社さんと組んで、作業所で作る小物などを素材から見直し、マーケティングも行い製品化するといったこともしています。

 プロップの運営は行政補助は一切なし。すべて協賛者の支援と受講料、受託事業などで賄ってますから、信頼を失えばあっという間につぶれる活動ですが、その分ルールに縛られることなく自由にやれる。これこそが元気の源だと思います。

−福祉先進国に学ぶべきところは?

 アメリカやスウェーデンなど福祉先進国は、チャレンジドに対し単に税で手当てする(与える福祉)だけでなく、助けながらも福祉のいらない人へ育てることで、その人から税の形での還元が来るようにしています。

 弱者に対する手当て(助け)や保護と隔離というのが、日本の福祉ですが、「弱者を弱者でなくしていくプロセス」を福祉と呼ぶというように先進国諸国のほとんどは制度改正をしています。日本人がやる気になったら欧米よりもっと上手にやれると思うので、私たちはそのためのモデルを今一生懸命作ってるんです。

−これからの目標は?

 プロップで勉強してこられた方は、数千人になりますが、実際仕事をした方というのはまだ4、500人です。
  一定の割合で障がい者の雇用を義務付ける雇用促進法はありますが、在宅や施設で働きたいという障がい者に仕事を出すことを後押しする法律がないんです。在宅であれ、施設であれ、その人が働ける場所で、働ける時に能力を発揮できるような法律を生み出すこともプロップの目標の一つです。

 チャレンジドへのアウトソーシングに、発注企業・組織へのメリットがついてくるような制度が必要だと国に訴え続けてきました。

 女性も高齢者もチャレンジドも働く誇りの得られる社会に。施しの福祉から脱却し、チャレンジドが誇らしく社会のメーンストリーム(ど真ん中)で働けるように就労促進への努力を続けたいですね。

 

−−− P R O F I L E −−−
竹中 ナミ(たけなか・なみ)

 1948年兵庫県神戸市生まれ。神戸市立本山中学校卒。社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。内閣官房雇用戦略対話講師、社会保障国民会議委員、内閣府中央障害者施策推進協議会委員、国土交通省「自律移動支援プロジェクト」スーパーバイザー、などを歴任。「チャレンジドを納税者にできる日本」をスローガンに、95年より毎年チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)国際会議を主宰。

 著書「プロップ・ステーションの挑戦」(筑摩書房)、「ラッキーウーマン〜マイナスこそプラスの種」(飛鳥新社)。ニックネームは「ナミねぇ」。

■社会福祉法人プロップ・ステーション

神戸ネットワークセンター
〒658-0032
神戸市東灘区向洋町中6-9
ファッションマート6E-13
電話078・845・2263

東京オフィス
〒100-0014
東京都千代田区永田町2-14-3
赤坂東急ビル5階
電話03・5512・0888

http://www.prop.or.jp

ページの先頭へ戻る