京都新聞(夕刊) 2010年1月7日より転載

重度障害 西京の施設の男性

ベッドで起業 奮闘10年

HP作成代行など 「多難だから幸せ」

 頸椎(けいつい)損傷で肩から下の感覚と機能を失った男性が、京都市西京区の福祉施設内のベッド上で立ち上げた会社が今春、設立10年目を迎える。口にくわえた棒や肩の筋力と補装具でパソコンを操作し、ホームページ(HP)作成代行などを請け負ってきた。「仕事はなかなか増えないが、多難があるから幸せがある」と信じ、意欲を燃やし続けている。

川本さんの写真
「仕事がない。えらいこっちゃ」の焦りが、日々のエネルギー源と話す川本さん(京都市西京区・洛西ふれあいの里療育園)

 「洛西ふれあいの里療育園」で暮らす川本浩之さん(48)。24歳の時、趣味のモトクロスレースで転倒し、首を骨折した。ふさぎ込む日々が続いたが、事故から3年後、「何かを変えたい」と自らの意思で家を出て施設に入った。

 神戸市の社会福祉法人「プロップ・ステーション」のパソコン教室に通い、技術を学んだ。福祉タクシーの情報を載せたウェブサイトを作ったところ、HP作成依頼があり、2001年5月に「上育堂(うえいくどう)」の名で起業した。

 仕事の早さや知名度で大手企業に劣り、受注は伸び悩んだ。しかし、「HPを作りたいが、資金がない事業所もあるはず」と、低料金と質の高さを手紙でPRする営業活動を続けた。

 これまでに約30社の新規HP作成を請け負い、情報の更新も丁寧に手掛ける。4年前から京都府の障害者就労支援パソコン研修の講師も務めており、受講生に「ウサギとカメ」の童話を基に「ウサギの速さはなくても、カメのように山の頂上は目指せる」と継続の大切さを熱く伝えている。

 川本さんは「重度の障害があっても『できない』とあきらめたくない。発想次第で多くの人の役に立てることを示したい」と話している。

(高元昭典)

ページの先頭へ戻る